45 カーライル卿失踪事件 7
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ノアの媚薬編、結末やいかに?!
お楽しみ下さい!
チェスター伯爵邸へと戻った四人は、クラリッサの迅速な手配により、秘密裏に別館の応接室へと運び込まれた。
馬車から降りてからも、ノアは決してアリスの手を離そうとはしなかった。
指を強く絡めたまま、浅く荒い息を吐き出している。瞳は熱に濡れ、肌は火照り、必死に自制のタガを締め直そうと全身の筋肉を硬直させていた。
別館の扉を背で押し開けたオリバーが、縮こまるビクトリアの腕を掴んだまま、二人へ向き直る。
「ビクトリア様は、僕が見張っている。こんな状態のノアを他の使用人や客に見せるわけにはいかないからな……。薬が完全に抜けるまで、アリス嬢と二人で大丈夫か? あまり時間もないが……」
「……大丈夫だ」
ノアは掠れた声で、しかしはっきりと応じた。熱で潤んだ碧眼をアリスへ向け、どこか冷や汗を交えながら自嘲気味に呟く。
「……いざとなったら、(アリスに)殴ってもらう」
「それはいい考えだ!」
オリバーは即答すると、頼んだぞと言わんばかりに視線でアリスに合図を送り、ビクトリアを促して手早く部屋を辞した。
カチャン、と静かに鍵がかかる音。
広々とした応接室に、ノアとアリスの二人だけが取り残された。アリスはノアをソファへ腰掛けさせると、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「ノア……本当に大丈夫? すごく熱いけれど……」
「……来るのが、遅かった……」
ぽつりと漏らされた言葉に、アリスの胸がギュッと締め付けられる。
「ご、ごめんなさい……! 私、もっと早く——」
「違う、責めているわけじゃない……」
ノアは小さく首を振り、手を伸ばしてアリスの頬へそっと触れた。アリスの破れたドレスの裾や、泥と埃のついた袖、そして一所懸命に自分を助けに走ってくれた証である頬のすす。それを愛おしそうに、長くて美しい指先で優しく拭う。
「……来てくれて、嬉しかった。君が無事で、本当によかった」
熱を帯びた声が、アリスの鼓膜を甘く揺らす。
ノアは目を伏せ、不快感に眉をひそめながら、自身のシャツの第一ボタンと首元を乱暴に緩めた。
「……あの女に触られて、心底気持ち悪かった。……今、君に、触れて欲しい」
「?!」
開かれた胸元と、そこに残るかすかな媚薬の熱気に、アリスの顔が一瞬で跳ね上がる。
「ほ、ほどほどに頼む……。今の僕は、自分でも驚くほどブレーキが効きづらい……」
ノアがそう呟き、アリスはドキドキと激しく打ち鳴る胸を押さえながら、おそるおそる彼の首元へと手を伸ばした。
指先が熱い肌に触れた瞬間、ノアの背がビクッと跳ね上がる。アリスは慌てて手を引っ込めようとしたが——それより早く、ノアの大きな手がアリスの手首を捕らえた。
逃がさないように、けれど決して傷つけない強さで。
ノアはアリスの手を、自身の左胸——激しく打ち鳴らされる心臓の上へと導いた。
ドックン、ドックン、と手のひらを突き動かすほどの強い脈動。
ぽすんと、アリスの肩に頭を預けるノア。
「……君の手は、好きだ……」
荒い熱い吐息を吹きかけながら、ノアはうっとりと瞳を細める。そのまま引き寄せてしまいそうな強い衝動が彼の体を突き動かしかけた——が、ノアはぐっと奥歯を噛み締め、名残惜しそうに、そっとアリスの手を離して身体を起こした。
「……君には、こんな薬の力なんかない時に……触れたいから……」
「ノ、ノア……」
理性を振り絞ったノアの誠実さに、アリスの心臓は跳ね上がり、顔は頭頂部まで真っ赤に沸騰した。
しばらくの静寂。
応接室に備え付けられていた冷たいおしぼりで顔や首元を冷やすうち、少しずつ薬の熱が和らいできたのか、ノアの碧眼にいつもの知的な光と、ほんの少しの「余裕」が戻ってきた。
ソファに深く背を預けたノアは、赤くなったアリスの顔をじっと見つめると、ふっと意地悪な笑みを口元に浮かべた。
「……喉が渇いた。水が飲みたい」
「えっ、あ、はい! 水筒があるわ!」
「……飲ませてくれ」
「わかったわ!」
少し甘えるような、けれどどこか挑発的なノアのおねだり。それに一切迷うことなく即答するアリス。
グビッと、アリスが即座に水筒の水を自分の口に含んだ。
(……え? まさか……口移し……!?)
ノアの脳内思考回路は爆速で過熱し、大混乱を起こした。薬の熱とは全く違う汗が吹き出し、心臓が跳ね上がる。
(そ、そんな、アリスから……!? いや、待て、心の準備が…!で、でも、君がそのつもりならーー)
ギュッと目を瞑り、期待と緊張で全身を固めて身構えるノア。
しかし、アリスは口に含んだ水をゴクンと飲み干すと、満足そうに頷いた。
「よし、冷たすぎないし、綺麗なままだわ! はい、ノア!」
アリスは水筒の蓋にトクトクと綺麗な水を注ぐと、はいっ、と丁寧にお碗のようにノアの口元へ差し出した。ただ単に、水が飲める温度か、変な混入物がないかを「毒味」しただけだったのだ。
「…………」
一瞬にして期待が甘い泡となって霧散し、恥ずかしさと落胆で遠い目になるノア。
彼は少しがっかりしたように肩を落とし、差し出された蓋から大人しくちびちびと水を飲んだのだった。
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