44 カーライル卿失踪事件 6
いつもありがとうございます!
とうとうノアを見つけたアリス達。
その結末は?!
お楽しみ下さい!
「……アリス……!」
先ほどまでビクトリアに向けられていた冷酷な殺気は雲散霧消し、幼子のように心底愛おしそうな輝きがその瞳を満たす。
(うわ……)
状況を一瞬で察したオリバーは心の中で引きつつも、大人の余裕でスッと二人の間に割り込んだ。
「ビクトリア様! お怪我はありませんか。あぁ……麗しいあなたのドレスがこんなに汚れて……」
「えっ……あ、あの……!?」
自然すぎる所作でノアから鮮やかに引っ剥がされ、オリバーの手で抱き起こされたビクトリアは、毒気を抜かれて顔を赤くするしかなかった。その隙に、アリスはノアの元へ一直線に駆け寄る。
「ノア! ノア! 大丈夫!?」
「アリス……来て、くれたのか……」
手枷が固く壁に固定されているのを見て、アリスは入り口に佇んでいた男へ振り返った。
「モーリス様! これ外せますか!?」
アリスの声に引き寄せられるように、ノアの視線が入り口のモーリスへと向く。その瞬間、ノアの表情が凍りつき、眼鏡の奥の瞳が凄惨な殺気で射抜かれた。
「……モーリス・ヴェイン……!」
「え?」
ノアは激しい殺意を込めて言葉を吐き捨てた。
「……あいつが、この事件の……黒幕だ……っ」 「……えぇっ!?」
アリスの叫びが響く中、モーリスは悪びれる様子もなく「はははっ!」と優雅に笑った。
「バレたかい? いやあ、探偵ごっこは実に楽しかったよ、カーライル卿。君の婚約者が特にね。実に勇猛で賢いお嬢さんだ。くくっ……まあ、今回はここまでかな。はい」
モーリスはポケットから特製の鍵を取り出すと、ひらりと、まだ驚きで呆然とするアリスへ投げて渡した。そして、乱れた姿のノアと、すっかり毒気を抜かれたビクトリアを見比べ、心底おかしそうに肩をすくめる。
「……なんだ、もっとすごいことになっているかと思ったのに。カーライル卿は意外と一途な男らしい」
「っ……待て! モーリス……!」
「では、また会おう。勇ましいお嬢さんもね」
制止しようと腕を動かそうとするノアだったが、薬の作用で力が入らない。モーリスはひらひらと手を振り、そのまま鮮やかに闇の中へと消えていった。
ゴトンッ!
「外れた……! ノア、大丈夫!? 怪我してない!?」
アリスが鍵を差し込むと、重い音を立てて鋼鉄の手枷が床に落ちた。
自由になった瞬間、ノアは目の前にある愛おしい顔へ吸い寄せられるように手を伸ばした。両腕をアリスの首元に回し、耐えていたタガが完全に外れた勢いでぎゅっと強く抱きつく。
「……アリス……っ」
「ノア……! 良かった、無事で……!」
アリスも涙ぐみながら強く抱き返す。しかし、次の瞬間だった。
「…………アリス……」
熱い吐息とともに、ノアはすり寄せるようにアリスの首元へ顔を埋めた。そのまま灼熱の肌を滑らせ、甘やかに唇を寄せてくる。
「わっ……!? ノ、ノア!? な、なんか変……!?」
思わず押し返そうとするが、縋りつく腕の力は強く、びくともしない。ノアはまるで命綱を確かめるように、アリスの首筋に深く顔を寄せてその匂いを強く吸い込んだ。
「…………僕のアリス……」
「〜〜〜〜っっ!? ノ、ノア……!!」
耳元で漏らされた甘く熱い吐息に、アリスの顔が頭頂部まで真っ赤に沸騰する。
ベリッ!!
「はいはい、そこまで!」
見かねたオリバーが、ノアの襟首を掴んで強引にアリスから引き剥がした。
「あ……」
剥がされたノアは、熱に濡れた碧眼を呆然と彷徨わせ、夢見るようなボケッとした表情でアリスを見つめ続けている。普段の冷徹な天才令息の面影は微塵もない。
オリバーは冷ややかな視線を、脇で縮こまっていたビクトリアへと向けた。
「……なるほど。強力な媚薬を盛られたようだね。……モーリスの言い方からして、あなたも共犯ですね? ビクトリア様」
「……な、何のことかしら」
「シラを切っても無駄ですよ。状況から見るに、ノアはあなたに指一本触れなかったようですがね」
オリバーの冷酷な追及に、ビクトリアは絶望に顔を歪ませて固まった。
「さて、アリス嬢。急いで帰ろう。屋敷に着くまでに薬が抜けてくれるといいんだが……」
「はっ、はい!」
そう返事をしたものの、馬車へ向かう道中も、アリスの手を寸刻も離そうとせず熱い眼差しで見つめてくるノアの体温は、冷めるどころかいっそう熱を増しているように思えた。
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