43 カーライル卿失踪事件 5
いつもありがとうございます!
とうとうノアが捕まっている場所を特定したアリス達。
どうぞお楽しみ下さい!
時は少し遡る。 馬車に揺られ、アリスとオリバー、そしてモーリスの三人は『イーストエンドの旧水力整備工場』へと到着していた。
重々しい鉄製の扉が立ち塞がる工場の入り口。そこには、周囲の錆びついた廃墟には不似合いな、明らかに新しく精巧なカラクリ仕掛けのパズル鍵が取り付けられていた。
「……ここで合っていそうだな。このカラクリを解けば開くのだろう」
オリバーが眉をひそめ、仕掛けに顔を近づける。
「前々から計画していたんだな。これほど大掛かりな仕掛けを作るとは……ノア、あるいはその周囲に深い恨みでも……? いや、このパズルの趣向を見ると、単なる愉快犯のようにも思えるが……」
独りごちながら、オリバーは指先でギアを滑らせ、パズル解読に着手し始めた。
「私も手伝いましょう。二人で知恵を絞れば、解法が見えてくるかもしれません」
モーリスが紳士的にオリバーの隣に並び、仕掛けを覗き込む。
(……早くノアを助けないと……! 落ち着いて……まず周囲をよく観察するの。ノアなら、いつもそうしていた……!)
焦る胸を必死に押し鎮め、アリスは二人とは別に扉の周りをくまなく調べ始めた。
複雑な歯車と数字のダイヤル。一見すると完璧な暗号に見える重厚な扉。 だが、焦燥感で研ぎ澄まされたアリスの視線は、カラクリの華やかな装飾ではなく、扉そのものの「構造の歪み」をとらえた。
(待って……。このカラクリの土台になっているヒンジの部分……ここだけ古い鉄がそのまま使われてる。それに、壁との隙間……ここを強く突けば——!)
アリスは持ち込んでいた鉄芯入りの丈夫な日傘を両手で強く握り直すと、深く息を吸い込み、バティツの構えをとった。
「アリス嬢? どうした、そんな端っこで——」
バギィッ!! ガギョンッ!!
「こんなの解いてたら、ノアが死んじゃう……待っていられないわ!!」
鉄芯入りの日傘が、扉の脆弱な接合部へと正確無比に叩き込まれた。鋭い破壊音とともに鋼鉄のラッチがねじ切れ、重厚な扉が悲鳴を上げてガタリと斜めにズレ落ちる。
「開いたわ!! 行くわよ、二人とも!!」
飛び散る火花と煙を置き去りに、アリスは日傘を構えたまま迷いなく先陣を切って飛び込んでいった。
あぜんとして立ち尽くす男二人。
「……はは、これは……ノアは将来、完全に尻に敷かれるな」
オリバーは口をあんぐり開けたまま、親友の婚約者の逞しすぎる背中を見送るしかなかった。
一方、モーリスは一瞬ポカンと固まり、次の瞬間にはお腹を抱えて爆笑していた。
「ぶっ! ははは! なんと頼もしく賢いお嬢さんだ! なるほど、『解法は一つではない』ということだね!」
工場内部もまた、悪趣味な罠とカラクリの嵐だった。 落ちてくる歯車ギロチン、踏むと作動する床の圧力センサー、視界を奪う暗号のパズル扉——。
しかし、アリスは止まらない。
(ノアがいつも言ってた……『どんな複雑な構造にも、必ずエネルギーの起点と歪みがある』って……!)
ノアの「構造視」の講義を日常的に聞かされていたアリスは、持ち前の鋭い観察眼で仕掛けの「起点」を見抜き、バティツの身軽さで罠の隙間を潜り抜けていく。
「そこ、床の色が違うわ! 跳んでオリバー様!」 「うおっ!? ちょ、アリス嬢速いって!」
時に理屈や解読で手を貸すオリバーと、アリスの猛進する様子を楽しそうに見つめるモーリスを引き連れ、アリスはついに最奥の密室へと到達した。
バギャンッ!!
「ノアーー!!」
壊れかけの扉のヒンジへ日傘を叩き込み、アリスが強引に密室の入り口をこじ開ける。
煙が巻き起こる室内は、正視するのも躊躇われる惨状と化していた。 媚薬の熱と暴走する構造視に苛まれ、壁際で荒い息を吐くノア。そして、はだけた胸元へ必死にしなだれかかろうとしていたビクトリア。
だが、突入してきたアリスの姿を捉えた瞬間——ノアの碧眼に、一筋の美しい光が宿った。
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