32 スコットランドヤード特別顧問の降伏 2
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とうとう降伏したノア。
とんでもない意地っ張りはどうするのでしょうか?
「……好きだ、アリス」
抱きしめる腕の力をさらに強め、ノアは懇願するように、そして誓いを立てるように耳元で何度も言葉を重ねた。
「好きだ……っ、……誰にも渡したくない……」
耳に届くノアの声は、情けないほどに震えていた。
超高速で回るはずの彼の頭脳が、今はただアリスへの情熱だけで満たされ、完全にオーバーヒートを起こしている。
アリスの目頭が、ぎゅっと熱くなった。ずっと聞きたかった言葉。ずっと確かめたかった彼の本心。アリスはそっと手を伸ばすと、ノアの柔らかい黒髪に優しく指を滑らせた。
「……私も」
ぽつりとこぼれ落ちたアリスの返答を聞いた瞬間、ノアの身体が跳ねるように強張った。歓喜に耐えかねたように、彼はアリスの華奢な体を折らんばかりの力で、さらに強く抱きしめ直す。
息が詰まるほどの愛の重み。
だが、ノアがあまりにも必死すぎるあまり——
「……く、苦しいわ、ノア」
「……っ!?」
アリスの漏らした声にハッと正気に戻ったノアは、弾かれたようにばっ!!と跳び退き、アリスから距離を取った。
両手を上げたまま硬直したノアの顔は、熟したトマトどころではないほど真っ赤に染まっている。あまりの恥ずかしさに直視することすらできず、視線をあちこちへ泳がせながら「……す、すまない」と消え入るような声で呟いた。
そのあまりにも素直で余裕のない姿が愛おしくて、アリスの口元から自然と笑みがこぼれる。
「……ふふ」
アリスは涙に濡れた瞳で、目の前の愛しい意地っ張りを見つめた。
「……嬉しいなあ。ノア、私が好きなんだ」
満開の花が綻ぶような、あまりにも可憐で眩しい笑顔。それを視界の端で捉えてしまったノアは、うぐっと息を詰まらせ、さらに顔を赤くして「あ、う……」と意味をなさない声を漏らした。完全に熱暴走を起こしている。
それでもノアは必死に呼吸を整えると、真っ赤な顔のままギュッと拳を握りしめ、自分を鼓舞するように胸を張った。
「し、淑女の身体をこんな白昼堂々、人目のない路地裏で強く抱きしめてしまったんだ……! 紳士として…か、必ず…必ず責任をとる…!」
あまりの勢いに、アリスは少しだけ首をかしげると、いたずらっぽく小悪魔的な微笑みを浮かべた。
「……でもノア、仮面舞踏会の時にも一回、私を抱きしめてくれたよね?」
「がっ……! あ、あれは緊急事態だった! 状況が状況だったんだから……無効だっ!!」
図星を突かれてしどろもどろになるノア。
アリスは逃がさないとばかりに、追撃の爆弾を投下する。
「……じゃあ私、ノアの愛人にしてもらえるの?」
「ばっ……!!!???」
ノアの顔から血の気が引いたかと思えば、次の瞬間には爆発したかのように頭頂部まで真っ赤になった。あまりの衝撃に目を見開き、喉を鳴らして叫ぶ。
「なっ、何をおかしなことを言っているんだ君は!!? そんなわけがあるか! 僕が君をそんな不名誉な立場に置くと思うのか!?」
「だって……」
アリスは少しだけ視線を落とし、自嘲気味に微笑んだ。
「私、ただの平民だよ? 貴族のノアと、対等な関係には……なれないでしょう?」
「っ……!」
意地悪な質問の裏にある、アリスの本心からの不安と現実的な諦観。それを察したノアの表情から一瞬で動揺が消え、彼特有の鋭く、けれどとびきり情熱的な瞳がアリスを真っ直ぐに射抜いた。
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