31 スコットランドヤード特別顧問の降伏 1
いつもありがとうございます!
とうとうノアがアリスの男気に降伏します!
どうぞお楽しみ下さい!
「……ノアってさ。私のこと、好きなの?」
退路を断ったアリスのまっすぐな瞳が、ノアを射抜いていた。
直撃した言葉の威力に、ノアの頭脳は完全に思考を停止させる。
顔から耳の裏までが爆発したかのように真っ赤に染まっていく。普段なら瞬時にロジックを組み上げ相手を論破してみせる天才の唇が、今はただ引きつるように無意味な開閉を繰り返すばかりだ。あまりの羞恥に耐えかね、言葉を失っている。
アリスはじっと黙ったまま、誤魔化しを許さない力強い瞳でノアを見つめ続けた。
アーチーの思いを真っ向から受け止め、誠意を持ってお断りしてきたのだ。もはや、ノアに逃げ道を作ってやるつもりは毛頭なかった。
やがて——耐えがたいほどの沈黙に押し潰されたノアが、悲鳴を上げるように目をぎゅっとつむった。
「っ……!」
次の瞬間、ノアは勢いよくアリスの華奢な肩を引き寄せ、力任せに抱きしめた。
「……っ!?」
不意の衝撃にアリスの身体が跳ねる。
紳士と淑女が人目のない場所で互いの鼓動を感じるほど強く抱き合う——それは二人の関係と人生を永遠に変えてしまう、決定的な一線だった。
だが、アリスは逃げなかった。驚きに目を見張りながらもそのまま大人しく身を委ね、彼の胸元に顔を寄せて体温を感じ取る。
「……ノア、ずるいよ……」
言葉ではなく行動で示して、うやむやに逃げようとしているのではないか。アリスは小さく呟きながら、彼の髪にそっと触れたい衝動を必死に抑えていた。
「言ってよ……。ノア……」
アリスの栗色の髪に顔をうずめたまま、ノアの身体が微かに震えていた。抱きしめる腕の強さは、そのまま彼の「降伏」の証だった。
言葉にしてしまえば、もう二度と「雇い主と助手」には戻れない。己の家柄も未来も、すべてをアリス一人に差し出す覚悟を問われる。位の高い貴族ゆえにその重さを知っているからこそ、ノアはずっと計算の中に逃げ込んでいたのだ。
アリスの髪の香りを深く吸い込んだノアは、諦めたように途切れ途切れの低い声を漏らした。
「……僕がこれを言ったら、もう後戻りはできないんだぞ……」
脅すような、それでいてすがりつくような掠れた声。アリスはノアの胸に顔をうずめたまま、静かに、けれど力強く頷いた。
「……聞きたい。ちゃんと、ノアの言葉で」
アリスもノアの背中にそっと手を回し、抱きしめ返す。
ごまかしの利かない熱意が、背中越しにノアへ伝わる。
逃げ場が完全に潰されたことを悟ったノアは、抱きしめる腕に一層の力を込めると、痛むほど固く目を閉じた。積み上げてきた理屈もプライドも、すべてを投げ捨てる。
そして、彼女の耳元で掠れた声で囁いた。
「……好きだ。アリス」
ノアの口からこぼれ落ちた、ただひとつの偽りもない告白。
直球の言葉が、静寂に包まれた路地裏に深く深く響き渡っていた。
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