27アーチボルト・サマセット子爵令息事件 5
いつもありがとうございます!
今回は少し甘々?
ノアがデレるのか?!
お楽しみ下さい!
ベッドの脇に置かれた丸椅子に腰を下ろし、アリスは洗面器の水でタオルを絞った。ノアの額にそっと載せると、彼は熱にうなされながら小さく眉をひそめる。
(ノア、苦しそう……。大丈夫かな……)
アリスの胸がギュッと痛む。少しでも彼の苦しみが和らぎますようにと祈りを込め、アリスはノアの熱い手をそっと自分の両手で包み込んだ。
その瞬間、ノアの長いまつ毛が震え、薄青の瞳がゆっくりと開いた。 熱で潤んだ視線が焦点を結び、自分のすぐ横に座るアリスの姿を捉える。いつもなら「バロウズ、不手際だ」と不機嫌に毒を吐くはずの男が——まるで夢でも見ているかのように、呆然とアリスを見つめた。
「……アリス……?」
掠れた声でアリスの名を呼ぶと、ノアの唇がふっと和らいだ。 これまでの人生で一度も見せたことがないような、幼子のように素直で、心底愛おしそうな笑顔。
「あ……」
息をのむアリスの手を、ノアは逃がすまいと強い力で握り返してきた。
(っ……!)
思わずびくっと身体が跳ねる。 昨夜、アーチーに素手を握られた時に全身を襲った、あの恐ろしいほどの拒絶反応が脳裏をよぎる。
だが——不快感も、逃げ出したいという恐怖も、どこにも湧いてこなかった。 肌を通じて伝わってくる彼の熱い体温が、驚くほど心地よくて、胸の奥がじんわりと熱くなる。
(ああ……私、……)
「ビジネスパートナーだ」と冷たく線を引かれ、諦めようとしていたのに。アーチー様のように優しく接してくれる人に目を向けようとしたのに。 ノアの手だけはこんなにも愛おしくて離したくないと思ってしまう。
(ノアじゃなきゃ、駄目なんだ……)
逃れようのない己の感情に降参するように、アリスは切なくも愛おしそうに目を細め、優しく微笑みかけた。
「大丈夫だよ、ノア。私がずっとここにいるから。すぐに良くなるわ」
「……」
アリスの言葉を聞きながら、ノアは、その美しい瞳をまっすぐにアリスに向ける。
「……行くな」
「…え?」
眉を寄せたかと思うと、ノアはアリスの手を自分の頬に押し当てるようにして引き寄せる。
驚いて、ぎくっと固まるアリス。
熱のせいか、それとも本音か。
「どこにも……行くな。あんな男のところへ……僕を置いて、行かないでくれ……」
目を閉じ、ただ愛おしそうにアリスの手に頬を擦り寄せるノア。
冷徹な天才探偵の面影はどこにもない。そこには、ただアリスを奪われる恐怖に怯える、不器用で一途な一人の男がいた。
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