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23 アーチボルト・サマセット子爵令息事件 1

いつもありがとうございます!


新たな事件と、ノアとアリスの関係はどうなっていくのてしょうか?


お楽しみ下さい!

「……で。お前は一体何の用があってここにいる?」


ビッグベン事件が解決した翌週。ノアの自宅兼事務所の応接室で、ノアは心底嫌そうな顔で目の前の男を睨みつけていた。


「いいじゃないか。僕もアリス嬢に会いたいんだ」


ソファにゆったりと腰掛けたオリバーは、優雅に脚を組みながら爽やかな笑みを浮かべている。 二人の間に老執事バロウズが恭しくお茶を淹れていると、突如として玄関の方から激しい音が響いた。


ココココン!!!


ドアが叩き割らんばかりの切迫したノック音。バロウズが「はい」と穏やかに応じると、扉の向こうから切羽詰まった声が返ってきた。


「アリスです……!」 バロウズが扉を開けた瞬間、「ノア! お願いがあるの……!!」と風のようにアリスが飛び込んできた。


「あの、あのね!」と勢いよく叫びかけたアリスだったが、応接室にたたずむ予期せぬ人物に気づいてピタリと動きを止めた。


「オ、オリバー様! こ、こんにちは……」

「こんにちは。今日も麗しいね。いつでも、うちの記録係になりにおいで」

「え! あ……ありがとうございます」


オリバーの軽やかな挨拶に、アリスは思わず頬を染めて恐縮する。その光景を横目で見ていたノアの顔からは完全に温度が消え去っていた。全く面白くない、と言わんばかりに低い声を絞り出す。


「……それで。話の続きは何だ」

「あ、そうだ! ノア、あの、差し出がましいんだけど……助けてほしいの!」


アリスは意を決したようにノアに向き直り、必死の面持ちで事情を説明し始めた。


「私の友達のサラが……貴族の放蕩息子に目をつけられてしまって。強引に『愛人契約』を結ばされそうなの! サラには結婚を前提にした大切な恋人がいるのに、『断れば父親のコネで恋人の工場への融資を止めさせる』って脅されていて……。警察に頼んでも、貴族相手じゃ取り合ってくれないの。ノア、どうか知恵を貸してもらえないかしら!?」


頭を下げるアリスに対し、不機嫌そうに紅茶を啜っていたノアは、冷ややかな音を立ててカップをソーサーに置いた。


「……下らん。僕の脳は難事件を処理するためにある。下町の平民のくだらない男女の揉め事など、個人の自業自得だ。知恵を貸す価値もない」


読書灯へ視線を戻し、一切の興味を失ったかのように冷徹に突き放すノア。その言葉に、アリスの瞳に怒りと悔しさが滲んだ。


「……わかった。人に頼ろうとしていた事が間違ってた。 私が自分でなんとかするわ!」


アリスはスカートを翻し、勢いよく事務所を飛び出していった。 静まり返る応接室で、オリバーは楽しそうにクスクスと笑いを漏らした。


「やれやれ……相変わらず口が減らないね。ノア、あの子の表情を見たかい? あそこまで分かりやすい子も珍しい。あの子の行動パターンなんて手に取るように読めてしまうよ。きっとサラさんの身代わりになって、アーチボルド・サマセット子爵令息の元へ突撃する気だね」


「……何だと?」


「話を聞いていてすぐわかったよ。彼は女好きで有名だからね。アーチーくんは顔こそ極上だが、我儘で甘えん坊な放蕩息子だ。アリス嬢のような威勢の良い可愛い女の子は、彼の大好物じゃないかなあ。一人で乗り込んでどうなるか…」


「……不愉快だ。彼女は馬鹿なのか! 自分の立場もわからずに危険な真似を……!」


苛立ちを隠さずに立ち上がるノアを見て、オリバーはフッと愉しそうに微笑んだ。


「まあ待ちなよ、ノア。彼が行きそうな高級レストランに心当たりがあるんだ。特等席で高見の見物と決め込もうじゃないか」

「……」


ノアは黙ってオリバーを睨みつけるしかなかった。


◇


その頃、アリスは下町の小さな仕立て屋で、涙で目を腫らしているサラと向き合っていた。


「アリス……ど、どうしよう。サ、サマセット様は今夜の夜会で私に契約書にサインしろって……」


「大丈夫よ、サラ。そんな理不尽なこと絶対にさせないわ。……今夜の夜会には、私が貴方の代わりに行く!」


「えっ!? な、何言ってるの!そんなのダメよ! わ、私も行くわ…!」


「ううん、サラが来たら、相手は感情的になるかもしれない。まかせて。伊達にスコットランドヤードの特別顧問様の助手はやってないわ!」


「…カーライル卿が手伝ってくださるってこと?」


「そっ…そう!だから安心して!」


「そうなのね…。なんてお礼を言ったらいいか…。ありがとう、アリス」


(絶対、私が何とかする…!!)


アリスはサラから招待状と仕立て上がったばかりのシンプルなドレスを受け取り、覚悟を決めて現場へ向かった。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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