18 夢の終わり 2
いつもありがとうございます!
アリスの告白にノアはどう答えるのか?!
どうぞお楽しみください!
告白の余韻が部屋の空気を優しく満たした、まさにその瞬間だった。ノアの頭脳が、耳に届いた言語情報を処理した瞬間に暴走を始めた。
「……ッ!?」
弾かれたように身を引く。眼鏡の奥の青い瞳が激しく揺れ、冷たい汗が額を伝った。
アリスの告白。
それはノアの精神において、最も解き明かせない『未解決難問』として爆発的な熱量を放ち始めたのだ。
「……非論理的だ」
ノアの口から漏れたのは、かすれた声だった。右手を伸ばしデスクの縁を握り締めて狼狽を隠そうとするが、指先は小さく震えている。
「好意……好き、だと……? 支離滅裂だ、アリス。僕と君の関係性に、そのような不確定で曖昧な精神作用を代入する意義がどこにある!?」
「…ノア……?」
「僕たちは『観察者』と『構成要素』だ! 完璧な補完関係であり、僕の思考環境を正常に保つための唯一の論理的最適解だ! そこに『恋愛』などという、神経の錯乱による誤作動を持ち込むな!」
まくし立てる。早口で、必死に知性という盾を固めてアリスの言葉を打ち消そうとする。
受け入れてしまえば、今の「完璧な相棒」という方程式が壊れてしまう。特別な存在と定義し直せば、失ったときの恐怖に繊細すぎる脳が耐えきれない。
そして——ノアは最大の自爆となる言葉を言い放ってしまう。
「好意などという不確定な感情は、僕たちの関係において不要だ。僕は君の感情を受領するつもりはない。……君が僕の隣にいれば、それで論理的に完結している」
悪気など欠片もない、極限まで論理に執着した拒絶。
「……そっか」
アリスは小さく笑った。
胸の奥が引きちぎられるように痛かったが、ノアの言葉の裏にある狼狽も痛いほど伝わってきた。
(……ノアは、相棒を失う事を恐れている…。私の気持ちを受け入れて、関係が変わる事が嫌なんだ…。私はノアが好きだけど……彼の邪魔はしたくないな)
アリスは溢れそうになる涙をグッと堪え、パッと明るい笑顔を作ってみせた。
「うん、ノアの気持ちは分かった! 気持ちを言葉に出せて……すっきりした!」
「……なっ!?」
「これからも最高の『相棒』として、よろしくね!」
アリスは深く頭を下げると、振り返ってパタパタと執務室を走り出そうとする。その瞬間——
ガタッ!
「あ……」
口では冷酷に拒絶したはずのノアの手が、思考を置き去りにして恐ろしい速さでアリスのエプロンの端をギュッと掴んでいた。
「……な、なんだ。どこへ行く…? 離れようとするな。……論理的説明がまだ完了していない」
自分でも訳が分からず、蒼白な顔でアリスのエプロンを握りしめるノア。アリスはそんな彼の手に優しく触れると、少しだけ切なそうに、けれど綺麗に微笑んでその手を解いた。
「大丈夫だよ、ノア。私達はずっと相棒でしょ。…でも、今日は疲れちゃったから帰るね……じゃあね!」
今度こそアリスは走り去っていった。
残されたノアは、ぽつんと一人、執務室の真ん中に立ち尽くす。「告白」を退け、「相棒」という完璧な関係性を維持した。論理的には100点満点の解答だったはずなのだ。
——なのに。
(……なんだ、これは)
胸の奥が、冷たく、恐ろしいほど冷え切っていく。
ノアは自分の胸を強く掴んだ。思考の糸がすべて途切れ、狂いが生じている。
(不快だ……胸の圧迫感、心拍の不規則な乱れ……なぜだ? 僕は正しい選択をしたはずだ。彼女は『相棒』として隣にいると約束したのに……)
その時、ドアから老執事バロウズが静かに現れ、淹れたての紅茶を置いた。
「……坊ちゃま」
「バロウズ……不快感の原因を分析しろ。僕の生体データに何が起きている……?」
バロウズは哀れむような目線を送り、深く首を横に振った。
「坊ちゃま。どんなに優れた計算式でも……一度手放した答えを、もう一度導き出すのは至難の業でございますよ」
「……意味が分からん」
ノアは苦々しく言い捨て、眼鏡を押し上げた。
自分が犯した「決定的な過ち」に、この時のノアはまだ、何一つ気づいていなかった。
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