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16 仮面舞踏会殺人予告事件 7

いつもありがとうございます!


仮面舞踏会編のラストです!


どうぞ、お楽しみください!

調香師から情報を得たノアは、即座にグレグソン刑事に暗号の合図を送り、ヘンリー伯爵の退路を警察で密かに塞がせた。


お膳立てを完璧に整えた上で、ノアとアリスは調香師を伴い、大混乱が続く一階のダンスホールへと堂々と戻ってきた。


会場の中央では、顔色を失った貴族たちがヒソヒソと囁き合っている。倒れた令嬢はノアの指示通り一命を取り留め、無事に搬送されたところだった。


ノアは不敵な笑みを浮かべると、仮面の集団の中でもひときわ落ち着きを払ってワイングラスを傾けている一人の男――ヘンリー伯爵の前へと足を進めた。


「カーライル卿。なにか私に用かな? 事件のせいで散々な夜になってしまったな」


白々しく微笑むヘンリー伯爵に対し、ノアは美しい青い瞳を鋭く光らせた。


「ええ、非常に不愉快な夜です。僕とパートナーの優雅なダンスを邪魔されたのですから。……ヘンリー伯爵、あなたが企てた『夜の溜息』を用いた毒殺計画は、完全に破綻しました」


「な……何を馬鹿なことを! 私が毒を盛ったとでも言うのかね!? 根拠のない侮辱だ!」


伯爵が激高し、周囲の貴族たちもざわめき立つ。だが、ノアは微動だにせず、隣に立つアリスへと視線の合図を送った。


「根拠なら、僕のパートナーが完璧に見抜いています。アリス」


指名されたアリスは一歩前に出ると、まっすぐな瞳で伯爵を見つめた。


「伯爵。あちらに見える豪華な生け花……。あの紫色の花は、この時期には絶対に手に入らないはずの『夜の溜息』という毒を持った品種です。それも、とても新鮮な状態で…。この館の温室で最近まで大切に育てられていた証拠です」


「な、なに……!?」


「そして、その抽出液を使って毒薬を作らせた証拠が……これです!」


アリスの合図でノアの後ろから姿を現した調香師が、震える手で伯爵の筆跡と家紋印が押された指示書を突き付けた。さらにノアがすかさず詰め寄る。


「ついでに言えば伯爵、あなたの胸ポケットから覗いているシルクのハンカチ……自ら毒入りのグラスを運んだ際にこぼれた液体を拭い取ったのでしょう。そこから漂う微かな焦げ臭は、今夜グラスに盛られた抽出液の揮発成分と完全に一致します。ヤードの試薬で検査を行えば、動かぬ証拠となるでしょう。温室の鍵をポケットに入れたままなのも、不手際が過ぎますね」


「ぐっ……貴様ら……っ!」


逃げ出そうと踵を返したヘンリー伯爵だったが、周囲はすでに警察官たちによって完全に包囲されていた。瞬時に間合いを詰めたグレグソン刑事の手によって、伯爵の手首が強力にひねり上げられる。


ノアはなお、冷酷な視線をヘンリー伯爵へ向けたまま続ける。


「……逃走経路の計算も不十分ですね、伯爵。倒れた令嬢のグラスから検出された成分、温室の育成記録、筆跡入りの指示書、そしてあなたの手元に残る物証。これらすべての要素から導き出される結論は『あなたの有罪』以外に存在しない」


「ぐ、ぐぬぬ……っ! 放せ、離しやがれ!!」


すかさずグレグソン刑事が手錠をかけ、ヘンリー伯爵の身柄を厳重に拘束した。


「ヘンリー伯爵! 殺人未遂および禁制品所持の容疑で逮捕する! ……顧問、見事な手際だったぞ」


「礼ならアリスに言え。彼女の観察眼がなければ、毒の精製場所と協力者に気づくことはなかった」


事件は見事に解決し、会場には安堵の吐息と二人の見事な連携に対する感嘆の声が広がっていくのだった。


◇


事件が無事に解決し、騒がしいホールから静かな控室へと戻った直後。緊張が解けたアリスがふと足元を気にすると、ドレスの裾から覗くかかとに小さな赤みができていた。


「……ッ」


「動くな、アリス。歩行周期(ストライド)のわずかな乱れから予測はしていたが……やはり靴擦れか」


ノアは迷わずアリスの前にひざまずくと、控室へ運ばせていた自身のバッグから携帯用の救急ポーチを取り出した。普段は余計な運動を嫌う男とは思えない素早さだ。


「ノ、ノア!? 大丈夫だよ、これくらい……!」


「静かにしろ。表皮の損傷は微小だが、感染症のリスクを放置するのは非論理的だ」


ノアの白く細い指先が、アリスの足首を優しく支える。青い瞳を真剣に輝かせ、解剖学者ならではの正確さと丁寧さで消毒薬を塗り、手際よく軟膏と保護テープを貼っていく。


「……これでいい。靴底の圧迫箇所には緩衝材を挟んでおいた。……帰りは僕に体重を預けろ」


「あ……ありがとう、ノア……」


ひざまずいて自分の足を大切そうに手当てしてくれるノアの姿に、アリスの胸は甘く締め付けられるのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。


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