15 仮面舞踏会殺人予告事件 6
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仮面舞踏会編の続きです。
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驚いて硬直するアリスの体温を確かめるように強く抱きしめたまま、ノアは壁に深く背をもたれかけ、静かに息を吐き、目を開いた。
「……ッ」
彼の美しく青い瞳が痛みに小さく歪む。限界を超えて知覚情報を処理し続けた代償は大きく、ノアの目には激しい充血と網膜を焼くような激痛が走っていた。
「ノ、ノア……? 目、すごく痛むの……? 私を探すために、そんなに無理して……」
苦しそうなノアの様子にハッと気づくアリス。抱きしめられた衝撃よりも、罪悪感で胸がギュッと締め付けられる。冷たいタオルも目薬もないこの薄暗い地下室で、アリスはノアの頬にそっと両手を添え、つま先立ちになった。
「ノア、少しだけ目を閉じて……」
「…う、アリス……? 何を――」
言葉を遮るように、アリスは自分の両腕をノアの首元と頭の後ろへと回した。
「……ッ!」
驚いて固まるノアの頭を、アリスは「大丈夫だよ」と愛おしそうに自身の肩口へと引き寄せる。ノアの目元を自分の胸元とドレスの柔らかい生地で覆い隠すように優しく包み込み、外界の光を完全に遮断した。
「早く、ノアの目が治りますように……! 痛いの、飛んでいけ……!」
耳元で聞こえるアリスの優しい声と、視界を包み込む柔らかなぬくもり。光刺激を完全に遮られたことで、ノアの脳内に渦巻いていた激しい頭痛と目への過剰な負荷が、スーッと嘘のように静まり返っていく。
(光刺激の完全遮断……? 脳神経の過熱が……アリスの体温と心拍の周期によって急速に緩和されていく……)
だが次の瞬間――我に返り、自分が未婚の紳士相手にどれほど破廉恥で不調法な密着をしてしまったかに気づいたアリスは、顔を真っ赤にして跳ね起きるようにバッと体を離した。
「み、水も無かったから! 光を遮れば治るかなって…! へ、変な意味は無いからね!」
ノアは耳の先まで真っ赤にしたまま、放心したように固まっていた。
そんな二人を前に、腰を抜かしたままの調香師が、恐る恐る口を開いた。
「あ、あの……お邪魔をして申し訳ないのですが……」
「!!!!あ!その!えと!じ、事件の事で知っている事を教えてくれませんか…!?」
(そうだった!人がいたんだった!)と首が折れそうな勢いで顔を調香師の男の方に向け、あわてて話を戻すアリス。
「は、はい…僕に毒を作らせた男のこと、話します……!」
調香師は怯えながらも、ぽつりぽつりと真実を語り始めた。
「僕に『夜の溜息』の抽出を命じたのは……会場に招待されていたヘンリー伯爵です。伯爵は、本日倒れたあの令嬢の家門が持つ『貿易の権益』を奪うため、自分の手を汚さずに、この館の温室と僕を利用して毒薬を作らせたんです……! これが、伯爵から送られてきた指示書です!」
調香師が出したのは、ヘンリー伯爵の筆跡と家紋の封印が鮮明に残る決定的な文書だった。話を聞いているうちに冷静になってきたアリスは、涙でぐしゃぐしゃの調香師の顔を見て思わずハンカチを差し出す。
「……花をそんな恐ろしいことに使うなんて。でも、教えてくれてありがとう。あなたも、ずっと怖かったんだよね」
アリスの優しい言葉に、調香師はボロボロと涙を流して深くうなずいた。
「んんっ…!!」
今まで真っ赤になって固まっていたノアが、我を取り戻すと不自然なほど大袈裟な咳払いをした。
「…なるほど。自身の主催ではない舞踏会を利用し、足がつかないよう共犯者に毒を盛らせたか。階級の盾に守られていると高を括った、浅はかな計算だ」
ノアの瞳に、いつもの冷徹で冴えわたる天才の光が完全に戻っていた。
「アリス、視力の回復は完了した。……僕たちのダンスを邪魔した愚か者に、最高レベルの論理的制裁を下しに行くぞ」
「そうだね…! 行こう、ノア!」
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