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13 仮面舞踏会殺人予告事件 4

いつもありがとうございます!


仮面舞踏会編の続きです。


お楽しみください!

「アリス、倒れた令嬢の応急処置を行う。呼吸維持と毒素の代謝を遅らせるために、僕のバッグから解毒剤の試作薬を取り出せ!」 「わかった……っ!」


アリスが弾かれたように、会場の隅においてあったバッグに向かうと同時に、ノアは倒れ込んだ令嬢の元へ駆け寄り、即座に胸部を圧迫しながら指先で脈拍を診る。解剖学者としての精密な計算と素早い手つきで、彼女の体内で毒が揮発していくのを必死に引き止めようと試みる。


「脈拍急増、瞳孔散大……間違いなく『夜の溜息』の抽出液だ。アリス、試作薬の注射筒を――」


アリスが駆け寄り、ノアにバッグを差し出した、その時だった。


押し寄せる人波の隙間、給仕たちの出入り口へと続く影になった廊下に、一人の若い男の姿が見えた。


(あの人……給仕の制服を着ているのに、トレイも持っていない……?)


男は青ざめた顔で全身をガタガタと激しく震わせ、涙目になりながら倒れた令嬢とグラスを見つめていた。周囲の客がパニックで出口へ押し寄せる中、男だけが恐怖でその場に縫い付けられたように立ち尽くしている。明らかにただの給仕ではない「異常な様子」だった。


(あの人、何か知ってる……! もしかして、事件に関係があるんじゃ……!)


直感が働き、アリスの足が勝手に動き出す。今、この騒ぎに紛れてあの男に逃げ出されたら、二度と捕まえられなくなってしまう。


「アリス!?」


バッグを受け取ったノアが、アリスが自分から離れたことに気づいて顔を弾ませた。


「ノア、ごめん! あっちに怪しい人が……私、見てくる!」 「ま、待て! アリス!!」


倒れた令嬢の処置を止めるわけにはいかず、ノアはその場から動くことができない。普段は冷徹で冷静沈着な天才が、仮面の奥で見たこともないほど表情を歪め、怒号に近い声を張り上げた。


「アリス!! 待て! 行くな……っ!!」


背後から届いたノアの切迫した叫び声に、アリスの胸が強く痛む。


(ノア、ごめんなさい……! でも、私だって相棒なんだから……ノアの力になりたいの!)


ノアの 制止を振り切る背徳感に押しつぶされそうになりながらも、アリスはぐっと唇を噛み締め、給仕用の暗い廊下へと飛び込んでいった。


手を伸ばしても届かない。アリスの体温が、自分の手元から完全に消え去った。


(ダメだ……一人で行かせるわけにはいかない……! 君に何かあったら、僕は……!!)


いつもなら瞬時に完了するはずの頭脳の計算が、生まれて初めて「激しい恐怖とパニック」によって完全に狂い始めていた。


一方でアリスはドレスの裾を大きく持ち上げ、冷や汗を流しながら暗い廊下の奥へと走っていた。


(絶対に犯人を逃がさない……っ!)


ドレスの足さばきを必死にこなしながら、アリスは前方を逃げていく震える男の背中を追って、館の地下へと続く階段を駆け下りていくのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。


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