12 仮面舞踏会殺人予告事件 3
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仮面舞踏会編の続きです。
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華やかなオーケストラの調べが響き渡る会場で、アリスはノアの手を取って踊っていた。
練習の甲斐あって完璧なステップを踏むアリスだが、すぐ目と鼻の先にあるノアの美しい顔立ち、そして腰をしっかり抱きしめる強い腕の感触に、息が上手く吸えない。仮面の下で熱を持つ頬を隠しながら、アリスはノアの胸元をじっと見つめていた。
(……ノアの鼓動も、ほんの少し早い……? 気のせいかな……)
アリスの視線に気づいたノアは、銀の仮面の奥で冷たい瞳をわずかに細め、満足げにアリスを引き寄せ直し、手を握る力を強める。
(……アリスの瞳の波長、体温の上がり方。完璧な観察対象だ。このままこの空間で生体測定を継続したいところだが……)
その時――アリスの視線が、壁際に飾られた豪華なフラワーアレンジメントに留まった。
「……ノア、見て。あの生け花……」 「ん? ただの装飾に見えるが」
アリスの囁きに、ぐっと腰を引き寄せ、顔を寄せるノア。耳元で聞こえるノアの低い声に、思わずステップが狂いそうになるアリス。
「う、ううん、その…ち、違うの。あの奥に混ざっている紫の花……あれ、この時期には絶対に咲かないはずの『夜の溜息』だよ」
アリスの囁きに、ノアの眉がぴくりと動いた。
『夜の溜息』――夜だけに開花する極めて稀少な毒花だ。その抽出液は人体に入ると強力な心臓麻痺を引き起こすが、発症後は体内で急速に成分が揮発・分解され、ただの病死・心臓麻痺に見せかけられるという恐ろしい特性を持つ。
「……タレコミは本物だったというわけか。しかし、なぜ生け花の中に?」
「あの花、すごく傷みやすくて摘むとすぐにしおれちゃうの。なのにあんなに生き生き飾られてるってことは……この館の敷地内かすぐ近くの温室で、最近まで大切に育てられてたってことじゃないかな…」
「なるほど。つまり犯人はこの館の設備を使って毒花を育てている、か」
ノアがアリスの観察眼に感服した――まさにその時だった。
「きゃあああああっ――!!」
悲鳴が、会場の華やかな喧騒を切り裂いた。
中央のダンスホールで、煌びやかなドレスを着た令嬢が一人、苦しそうに胸を押さえて倒れ込んでいた。彼女の手から落ちたグラスのカクテルからは、わずかに甘ったるく焦げたような異臭が立ち上っている。周囲の客たちが「急な病気か!?」と混乱し始める中、ノアの鋭い眼光がグラスの異変を見抜いた。
「病気ではない……毒だ!」
パニックに陥り、出口へと押し寄せる貴族たち。その騒然とする会場の混乱を断ち切るように、招待客として潜入していたアーサー・グレグソン刑事の怒号が響き渡った。
「静かにしなさい! 警察だ! 誰も外へ出てはいけない!!」
グレグソン刑事が即座に出入口を封鎖するのを確認し、ノアは素早くアリスの腕を取った。
「アリス、倒れた令嬢の容態を見る。毒素の分解が始まるまでの猶予は――およそ120秒だ!」 「うんっ!」
犯人の毒殺計画は、すでに動き出してしまった。
騒乱の仮面舞踏会で、アリスの植物の知識と、ノアの医学・解剖学の知能が、一瞬の猶予も許されない事件の渦中へと飛び込んでいく――!
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