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10 仮面舞踏会殺人予告事件 1

いつもありがとうございます!


新たな事件に挑むノアとアリス。


二人の関係に進展はあるのか?!


こっそりとノアがアリスのこめかみに口付けをしたあの日から、さらに一ヶ月。『相棒』としての二人の日常は、何事もなかったかのように続いていた。


ノアの過保護ぶりは相変わらずで、アリスが少しでも咳をすれば特製の怪しいハーブティーを飲まされ、花屋の配達で長距離を歩こうものなら特注馬車が横付けされる。

(……ノアは、ただの過保護な『相棒』。あの夜のことも、きっと何か理由があっただけ……)


そう自分に言い聞かせながらも、彼がアリスを特別扱いするたびに、アリスの胸は甘く痛んでいた。


——そんな折、ヤードに一枚の匿名手紙(タレコミ)が持ち込まれたことから、事態は動き始める。


「『7日後の仮面舞踏会で、新種の毒花を使った殺人が起きる』……だと? フン、どうせ愉快犯の悪戯でしょう」


足を組んでシガレットの煙をくゆらせるのは、子爵家の次男坊であるアーサー・グレグソン刑事だ。


「いいや、グレグソン刑事!カーライル特別顧問の分析によれば、この紙に付着した花の抽出液は本物です!今日もご指導よろしくお願いします、顧問!」


「声が大きい、カーター巡査。鼓膜の無駄遣いだ。

……レストレード警部、結論から言おう。この毒は体内で瞬時に分解される。僕が現場に立ち会い、発症直後の生体反応を検分する以外に証明の手立てはない」


淡々と告げるノアに、レストレード警部が頭を抱える。


「またお前は無茶を……!だが相手は大貴族だ。

ヤードの捜査官を大人数で踏み込ませるわけにはいかんぞ」


「フッ、ならばこの私にお任せいただきましょう。

我がグレグソン子爵家の人間として、堂々と潜入してみせますよ!」


「ふん、好きにしろ、グレグソン刑事。だが君一人では毒花の成分を一目で見抜けない。……行くぞ、アリス。君はカーライル家の遠縁の令嬢として、僕が伴う」


「えっ……!?わ、私がノアのエスコートで!?」


驚きに目を見開くアリスを置いて、ノアは一切の反論を許さない足取りでヤードを後にした。背後では「なっ……我が子爵家を差し置いて、最高峰のカーライル侯爵家の威光をそんな下町の花屋の娘に使う気か!?」と血相を変えて撃沈するグレグソン刑事の悲鳴が響いていた。


こうして、ノアの屋敷で「7日間の令嬢仕立て上げ特訓」が始まることになった。社交界では未婚の男女が不用意に触れ合うことなど許されない。だが——「ダンスの練習」という名目さえすれば、堂々と手を取り、腰を抱き寄せることができる。


ノアはこの「合法的職権(ダンス)」を最大限に利用していた。


「装飾が身体運動を妨げてはならない」と用意された一流のドレスや宝石。さらには「手袋越しでは正確な呼吸が測定できない」などと不条理な理由をつけてアリスの素手に触れ、疲労を見せれば最高級の紅茶で甘やかす徹底ぶりだ。


だが、下町を駆け回っていて運動神経が抜群なアリスは、持ち前のバランス感覚で、難しいワルツのステップをわずか3日で完璧にマスターしてしまった。


「ノア、ほら!もう順番もテンポもバッチリだよ!これで特訓は終わり?」


くるりと綺麗に踊ってみせるアリス。しかし、ノアは眼鏡のフチをクイと上げると、酷く不機嫌そうに難癖をつけ始めた。


「……やり直しだ。体幹の軸に0.5ミリのブレが観察される。精度維持のため、残りの4日間も全日、補正運動(ダンス)を行う必要がある」


「0.5ミリって……そんなの誤差の範囲内でしょ! またノアの変なこだわりが始まった……!」


呆れ顔で抗議するアリスだったが、ノア自身も自分の胸の奥で起きている狂いの正体を解明できずにいた。ダンスにかこつけてアリスの手を握り、細い腰を引き寄せるたび、彼女から自分へ向けられる視線や、上気した体温。それらが、過熱したノアの脳に極上の安定をもたらしていたのだ。


(ダンスの指導だ。……そう、これはきわめて合理的で正当な観察だ)


「合理的」という都合のいい言葉で本音を覆い隠し、ノアはアリスを毎日事務所兼自宅に引き留め続けた。


夜な夜な繰り広げられる、二人きりの秘密のレッスン。


「……視線を落とすな。僕を見ろ」


「あ……うん……っ」


ノアの指がアリスの指に深く絡められ、滑らかなリードに身を任せる。密着する体温、耳元で響くノアの低く整った声。お姫様のように大切に扱われるたび、アリスの胸は甘く締め付けられた。


(……ずるいよ、ノア。『ダンスの練習』だなんて言われたら、断れないじゃない……こんなの、勘違いしそうになるよ)


あふれ出しそうな熱を隠せないまま、アリスは熱を帯びた瞳でノアを見つめてしまう。


そんなアリスの瞳を視界に収め、ノアは満足げに——そしていつもより少しだけ強く、彼女の腰を引き寄せて踊り続けるのだった。



最後までお読みいただきありがとうございました。


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