第52話 どうして黒牙と白爪なの? 桃色じゃ駄目なの?
私は移動しながら、すぐに違和感を覚えた。
だが、分解精霊の攻撃は、止めなかった。
周囲の黒霧は、黒い暴風のように荒れ狂う。
平地に立つ不気味な男へ、何度も何度も襲いかかった。
近くの岩や地面には、外力で砕かれた跡が残っている。
なのに、不気味な男だけは無傷のままだった。
「この法陣は見事だ。
だが、臣には時間がない!」
中年の大叔がそう言うと、
私がいた場所に、淡い青い光が浮かんだ。
次の瞬間、爆発した。
強い旋風で私はよろめく。
その場に生えていた海梅花樹は、何本も吹き飛ばされた。
小さな石も砕け散り、砂のようになっている。
地面にははっきりと、いくつもの爆発跡が残っていた。
私はすぐにしゃがみ、光の精霊を呼び出す。
そして、たった今の光景を、すぐに再生した。
冷静に、しかも素早く。
私は分析しなければならない。
目の前の不気味な男が、さっき何をしたのかを。
私は慎重に動きながら、さっきの爆発を、
細かく再生していく。
あの青い光の層には、構造がなかった。
法陣ではないらしい。
移動している間も、通った道では、大小の爆発が続いていた。
でも、規則性は薄い。
見た感じ、事前に仕掛けていた罠だ。
もし魔道具なら、どうやって発動してるの?
「どこへ隠れたんだ?まったく面倒だな。
白爪も早く来い。」
その時、私は気づいた。
あの青い光の位置には、少し規則がある。
百センチほど離れた、反対側の対応した場所。
そこだけ気功が薄く、灰色の渦まで出ていた。
私は近くの青い光層を探し、迷わず儲気石を投げる。
すると、青い光の層と、灰色の渦が消えた。
この不気味な男、対になる気功型爆弾まで作れるの?
魔力を持つものが、灰色の渦を通る。
すると圧縮された気功が、青い光を放ちながら解放され、
爆発するんだ。
私はふいに、不気味な男の隣に立つ、
一人の逞しい青年を見た。
白い布で顔を隠し、灰色の目をのぞかせている。
彼の手には、紫の光球が浮いている。
表面は絶えず形を変え、奇妙な光を放っていた。
まるで地面に落ちても、なお輝く星みたいだ。
「悪い、黒牙。
遅くなった」
「問題ない、白爪。
ご苦労だった。
標的は悪人に隠されていて、探しにくかっただろう?」
「少し抵抗してた。
たぶん惑わされてたな。
でも、対処は楽だった!」
「え?臣は気をつけろと、言ったはずだ。
怪我はないか?」
「白爪は、相手に怪我はさせてない。
魔力で包んである。」
「なら、早く行こう!」
私は風の精霊で、あの二人の声を拾った。
本当は目的を知りたかった。
できれば秘密も探って、倒す方法を見つけたかった。
でも会話を聞いた今、状況はかなりまずい。
私は迷わなかった。
横にあった、腰ほどの高さの儲気石へ、
視線を向ける。
一度、魔力で探る。
なのに、儲気石は、反応しなかった。
あの二人は、もう離れようとしている。
迷っている時間はない。
私と長松はㄡ......、
私は長松と魔力を共有できる。
だから、長松の魔力を借りようとした。
なのに、何の反応もない。
そしてすぐに、周囲の儲気石の底の横へ、
大量の魔力を流し込む。
狙う先は、あの二人のいる方向だ。
私は一瞬で、二人の表情を捉えた。
さっきまで余裕だった黒牙は、
大量の儲気石が飛ぶのを見て、顔色を変えた。
すぐに白爪を横へ突き飛ばし、
自分は反対側へ避ける。
やっと動いた。
しかも、今まで私たちに、投げてきたのは、
ただの岩ばかりだった。
海梅山に多い儲気石は、使っていない。
なら、この場所なら。
私が負けるとは限らない!
私は急いで、風の加護を使い、
混乱の中で白爪に迫る。
「ぁうっ!」
白爪は、私が奪った紫の球を、
取り返そうと手を伸ばした。
でも、私が投げた、小さな儲気石に驚く。
その隙に私は紫の球を抱え、
草むらへ転がり込んだ。
二人から三メートル以上、
一気に距離を取る。
私は地面にしゃがみ込み、
目の前の危険な二人を睨んだ。
その時、長松の弱い魔力が、胸に抱えた紫の球から、
私の中へ流れ込んできた。
「お前たちみたいな悪党、
長松をどこへ連れていくの?」
「おや、玉秀か。もう離れたと思っていた」
黒牙の手には、桃色い球が浮かんでいた。
私の手にある、
長松の魔力を放つ球と、よく似ている。
ただし、あちらの方が大きく、
光もずっと強い。
「長松を元に戻して!」
私は球を壊さないよう、魔力で包みながら、
慎重に後ろへ下がった。
その時、頭をよぎる。
数値偽装を解いたら、代償はどれほど大きい?
レベルも数値も跳ね上がれば、
本来の魔力量に戻せる。
でも、ここは公会が近い。
小さな隊が通るだけでも、見られる危険がある。
もし正体が知られたら?
四十九レベルの賢者が、七十以上の法術を、
連発したと知れたら。
普通の人は、絶対にこんなことは思わない。
危機だから奇跡が起きた!
システムにバグがあって、たまたま抜け穴を見つけて、
高等法術を覚えた。
運がよかったんだな。
そうじゃなくて、こう考えるはずだ。
この世界には、数値を改ざんする道具がある。
玉秀、そんな物を、いくつも持ってるのか?
だったら普通は、玉秀は数値とレベルを偽装し、
制度を壊していた。
そのせいで何か悪事まで、していたんじゃないかと。
そして追跡されれば、過去の迷宮や任務で
等級が狂った原因まで、私に結びつくかもしれない。
その想像だけで、胸が重くなった。
王岳の怒った顔。
公会の美形たちの、失望した顔。
そんなものが、脳裏をよぎる。
私の評判は、
全部終わるかもしれない。
どうして簡単な二択が、こんなに複雑になるんでしょうね。
いっそ「相手なら奇跡を起こす」と、みんなで信じられる魔法でもあればいいのに。




