第51話 そう、あれ……
「すまん、為師は今月の天界の集まりを忘れていた。
だから話はここまでだ。
バツ惠筱はその後、鷹俊と西方駐屯地へ戻り、
黒幕森林の近くの焰華村に住んだ。
為師の弟子、よく手紙を寄こすぞ。
鷹俊は正体を知って、数か月は落ち込んでいた。
今いちばん悩ましいのは、
弟子の六人目の子の名をどうするか、だな!」
「はぁ……」
「長松。
お前は一番お利口だと、為師は知っている。
次に玉秀と来た時、続きを話してやろう。
結論は『鎖魂呪』が重要ということだ。使い方次第で、良い結果になるぞ」
私の顔は驚きで固まった。太清君は、かすかに笑う。
「玉秀。
お前は忙しい。
為師に会いに来るのは、何年も先かもしれん。」
泰勇は、がっかりした顔をした。
長松も目を見開いて、私を見る。
「来月、先生の所へ行きます!」
くそ。
はめられた。
でも結末が知りたい、悔しい。
「約束だぞ。
為師、良い茶菓子を用意しておく。」
「バツ狩犁会長は、息子たちを守衛軍の将軍にしてから引退した!
引退した益公と一緒に、メイハオ村へ来たんだ!
益公は住まいを改造して、図書館を開いた。
お前たちのギルドの隣だぞ。
暇があれば覗いてみろ、設計もなかなか良い」
太清君は笑って付け足し、
気楽そうに最後の一口を食べきった。
「長松、あの図書館に行ったことある。
中に、大きい像がある。
変な球体を持ってた!」
長松が元気を取り戻したのを見て、私はすぐ報時の術を使った。
そろそろ午後三時、帰らないと。
私は「遊龍雲観」を出ると、
太清君が枝葉の茂った鵝黄色の海梅樹の下に立っていた。
「太清君先生、私はメイハオ村へ戻ります。
この数日、本当にご指導ありがとうございました!」
太清君は両手を自然に玉色の常服の腰元へ垂らし、
袖口の墨緑の縁取りが風に揺れて、柳の枝みたいに軽く舞う。
「忘れるな。
為師は今も、お前が『効率よく術を使う』ところを見ているぞ。
目標が定まれば、どんどん良くなる」
いつもの口調で、表情も自然だ。
たまに会う旧友に別れを告げるみたいだった。
私は虎宝の背でうなずき、泰勇と長松も順に運搬魔獣の背へ乗った。
私たちは振り返り、下山道の石段を数段下りた。
その時、太清君は朱玉の腕輪をつけた左手を上げ、
小さく、やさしい詩句を唱える。
太清君が手の彩羽扇をひと振りすると、
風が無数の海梅花を連れて私たちへ吹いた。
振り返ると、あの鵝黄色の海梅樹は、
一瞬でさらに花が茂ったように見えた。
でも私は立ち止まらず、虎宝を呼び、
振り向かないままメイハオ村へ向かって山を下った。
道中、私の胸には妙な不安があった。
道はやけに平坦なのに。
虎宝も警戒しながら歩いていて、
それが逆に不自然だった。
周囲の「気功」はかなり弱まっている。
だが近くに貯気石は見当たらない。
長松は私にぴったり寄り添ってきた。
「分かってる。心配しないで、長松。
私たち、変な連中に狙われてるみたい」
私はすぐ異空間収納棚を開き、
黎明女神の杖を引き出して強く握った。
白い光が両端で瞬く。周囲の気功は使えない。
私は急いで魔力を回し、索敵の法陣を三秒で展開した。
半径十キロに、人影は一つじゃない。
左前方四百メートルに一人。
物理武器の使い手っぽい。
後方二キロには術者。
魔力量が異様に多い。
小隊の定番構成だ。
私はまず後方の脆い支援役を潰すべきだと判断し、
虎宝の進路を即座に変えた。
「虎宝、気をつけて!」
相手は私の狙いに気づいたらしい。
突然、空中から黒い影が飛んできた。
「風の精霊、力を貸して!」
杖の青い光の下で、周囲の空気が旋風になる。
圧縮された空間が、真空を生んだ。
「ドン!」
虎宝の体が素早く右へ押し流され、
正面から飛んできた巨石をかわした。
「みぃうっ!」
虎宝の体が震える。
虎宝が猫みたいに鳴くのを、私は初めて聞いた。
「虎宝、走って。ここは危ない。私を信じて」
「ドン!」
左へ押し流され、虎宝より大きい岩を避ける。
「ドン!」
前へ突進し、丸い大岩を二つかわす。
「ドン!」
「みぃうっ!」
虎宝が空気の壁に止められた。
私は、私の体の二倍はある石柱が二本、
前方一メートルに突き刺さるのを見た。
危険な進路だ。
でも私は、狙っていた相手のすぐ近くまで来ていた。
「光の精霊、姿を隠して」
「玉秀? 長松も行く」
泰勇は冷静に見える。
それとも、怖すぎて反応が止まっているのか。
長松は私の袖口をぎゅっと掴んだ。
私が虎宝から降りるのを察したみたいだった。
「長松、泰勇と虎宝と一緒に、ここで待っててくれる?」
私は虎宝を呼び、山肌が作った洞穴へ身を隠させた。
長松は私の袖をつかんだまま、しばらく黙っている。
私は長松の不安そうな頬に手を添える。
長松は目を閉じて、ぎゅっと一度だけ私を抱きしめた。
「うん。長松、玉秀を待つ」
私はすぐ風の加護に隠匿の術を重ねた。
体を包む淡い緑の光が、瞬きのように散って流光になる。
私は振り返り、もう一度だけ……私の「家族」を見た。
それから洞穴を出る。
音もなく地に落ちた羽のように、
そのまま風に乗って林へ溶け込んだ。
数分後、私はついに標的の背後へ回り込んだ。
私はその場で立ち尽くし、呼吸を整えた。
海梅樹林の開けた平地に、禿げ頭の中年がいた。
上半身は裸で、ただ立っている。
あれは……前に喫茶店で、
張燕導ギルド長のそばにいたメンバーじゃない?
なのに、相手は微動だにしない。
私に気づいていないようにも見える。
私は深く考えず、すぐ「分解精霊」を呼んだ。
黒い霧が私のそばに集まり、
黒い暴風の塊へと変わる。
杖の動きに合わせて、それは不気味な男の背へ突っ込んだ。
「おや、臣が奇襲されるとはな」
私は反射的に位置を変えた。
それでも、今の出来事が信じられない。
黒霧は体を貫いたはずなのに、
不気味な男は何事もなかったかのように、平然と立ったままだった。
そして体を回し、私がいた場所を見て眉をひそめる。
口元だけ、少しだけ釣り上がっていた。
疑問だらけでも、立ち止まっていられない。
私は上位隊に入ったことがない。
レベル八十以降のギルド員の能力も調べていない。
幻影の術か、魔道具か。
どうやら「構造解体」は、思ったほど早く進まないみたいだ。
あの突然現れた男は、前から玉秀たちを狙っていたのだろうか?
この展開、楽しんでもらえたら嬉しいです。




