第43話 復讐の先の結末は滅、か?
「長松もお話が聞きたい。」
長松は目をこすりながら、隣の椅子からふらふら歩いてきて、
私の横に寄りかかった。
多義は泰勇を引っ張って、私たちの横の木椅子に座らせる。
なんだか、家族みんなで集まって話を聞くみたいな空気だ。
太清君は慌ててお茶を一口含み、飲み込んでから語り始めた。
「闇の地下牢で、黒髪が少し乱れ、肌は赤褐色のたくましい男がいた。
全裸の彼は、手足を木の枠に縛り付けられ、壁には鞭、燭台……」
「待って、それ空気に合ってないでしょ?」
「では映像を見たいか? 当時の空気が分かるぞ。
為師は魔道具が録った映像を手に入れておる。」
「ダメ。長松はまだ八歳だし、再生した最初の数秒がかなり危ない。話だけにして。」
長松は困ったように私を見た。私は笑って、彼を支えてちゃんと座らせる。
「では、為師は続けるぞ。」
闇の地下牢で、黒髪がやや乱れ、赤褐色の肌をした屈強な男がいた。
全裸の彼は両手両足を木枠に縛り付けられている。
彼こそ、商業大国「バツ国」の猛将
「バツ狩犁」だ。
荒い息を吐き、鎖で拘束された手足には不規則な痣が浮かんでいた。
墨のように深く冴えた双眸で、彼は目の前の人物を冷たく見据える。
前王朝バツ国の王女、「バツ惠筱」を。
「狩犁将軍、なぜここへ連れて来られたか分かっているはず。
あなたが駐外軍と結託し、再び政変を起こそうとしていた証拠は十分にあるわ。」
「老子が嵌められたと言って、
誰が信じる? クク……クク。」
「やっぱり知ってるのね、将軍。」
「老子は昔、暴政打倒を旗印に兵を率いて王宮へ突入し、
バツ氏一族を滅ぼした。
王女が一人だけ生き残ったと聞いたが捕まらなかった。
……復讐の芝居ってのは、
何度でも繰り返すもんだな。」
バツ狩犁のざらついた声には、諦めと苦さが混じっていた。
壁で揺れる燭火は、まるで彼の視線のように、
目の前で黙り込む黒髪の女へ落ちる。
白い布衣をまとった彼女の黒い瞳は底なしの闇で、
残った火の光さえ吞み込み、消し去っていく。
「さすが気功蓄量80の狩犁将軍。
五日閉じ込められても、まだそんなに元気なんだね。
僕の記憶が正しければ、当時バツ氏に関わって謀反した連中は、
だいたい僕が片付けた。
君が最後の一人、だろ?」
バツ惠筱の目は刃みたいに冷たく光り、
バツ狩犁の全身をなぞるように見回した。
狩犁は目の前の少女を見て大笑いする。
心はもう麻痺していて、もう一太刀食らっても何も感じない。
狩犁は獰猛に言い放った。
「ハハ! さすが復讐の神の弟子だ。
腕が立つうえに、老子に食体虫を飲ませて操り、
老子を使ってまで手伝わせるとはな。
老子も愚かだった、お前が手を出さないと信じちまった!
共に戦った旧友どもだけじゃねぇ。
二弟、三弟、長男、次男まで……誰一人逃れられなかった!
次は老子の番ってわけだ。
だが老子が魂だけになっても、お前を許しはしねぇ。」
「地獄で待ってるって言いたいの?」
「そうだ!」
「じゃあ地獄でちゃんと良いことして、
六歳で身内を失った王女を慰められるようにしなよ!」
「てめぇ……狂ってやがる!」
バツ惠筱はそれ以上何も言わない。
鮮紅の法陣がバツ狩犁の周囲を巡り始めた。
それは食体虫を起動させる合図だ。発動すれば、
寄主の体内の骨も血管も、残らず喰い尽くされる。
「バツ惠筱、忘れるな!
お前も老子みたいになる!
復讐の先の結末は滅び、だ!」
バツ狩犁が怒号を上げる。
声には狂気と悲哀が絡み、
胸元の銀のペンダントも鈍く沈んでいった。
「ハッ、ハッ、ァァ!」
鮮紅の法陣の光が消えたあと、
地下牢にはもう何の音も残らなかった。
バツ惠筱は力なく背を向けて立ち去り、
霧の精霊を呼び、床に広がった血痕と残骸をきれいに消し去る。
彼女の顔はひどく疲れていた。
一か月後、彼女は外部の軍を率いて王宮へ攻め入る。
内部の呼応も、すでに手配済みだ。
次に始末すべきは、いつも王族の命令に従い、
手段を選ばず動くくせに、己の考えが一つもない宰相・張益公。
政商の繋がりが異様に強い大商人・李真は、
コネで脱税し、大口の穀物価格まで握って、
相場を大きく揺らしては私腹を肥やしている。
そして実際に朝政を牛耳っている宗教司長・黒木。
宗教を盾に、贅沢三昧の暮らしをしている。
手元の地図は、すでに「メツ国」へと書き換えられている。
それを何度も見つめながら、彼女は胸の奥で分かっていた。
やるしかないことがある、と。
一か月後、彼女はついに王宮へ踏み入れた。
周囲には兵の怒号と、途切れ途切れの悲鳴が渦巻く。
血と煙が満ちる。
それでも、黒く虚ろなその瞳は微塵も揺れず、
ただまっすぐに玉座へ向かって歩き続けた。
焰華村に住んでいた王女のこと、覚えていますか?
彼女も太清君の弟子です。どうやら帰ってから、
老師に話を聞かせたみたいですね。




