第42話 想定外が起きたら、まずはご飯にしよう
これから更新頻度を調整しつつ、過去の話も修正していきます。
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昼の温かな日差しが、木の窓枠から室内へ差し込んでいた。
「もう昼だ。私たち、腹は減ってるか?
本物が作るよ! 本物は料理なら一通りやってるんだ!」
泰勇は自信満々の笑みでみんなを見回す。
私は短パン一枚の泰勇を真面目に見つめた。
エプロンを用意したほうがいい。
調理の途中で鱗が剥がれて、料理に落ちたらどうするんだ。
泰勇がふいに私のほうを向き、声が急に照れた調子になる。
「ぁっ、玉秀様……そんなふうに本物を見ないで!
本物、味は悪くないんだ!
でも本物が手か足を一本でも失ったら、料理するのが大変で……。
うぅ、本物、忘れてた!」
泰勇は冷や汗を流し、左手で口を押さえ、右手で顎の傷跡に触れた。
「え? どうしたの。体が固いなら、ちょっと手を動かしてよ!」
私は何かを振り下ろすみたいな動作をして、多義ににこっと親しげに笑う。
多義は私を一度見て、分かったような分からないような顔をした。
もういいや。
聖職者のイメージが崩れるとか、今さらだ。
「食材ならセイントデーモン太清君が用意してくれてる。
出かける前に、どこに置いたか私に言ってたんだ。
泰勇、エプロン着て。
用意された食材の通りに作ってね。
みんな楽しみにしてるから。」
私の今の表情はたぶん、変なものを料理に入れたら許さない、って顔だ。
私は泰勇と一緒に台所へ行き、監督しながら手伝った。食材を洗って、下ごしらえもする。
しばらくすると、台所からご飯のいい匂いが漂ってきた。
「いい香りだな。為師、うれしいぞ!」
玄関のほうから、セイントデーモン太清君の鼻歌が聞こえる。
扉のそばに白い衣の姿が見えた。
私は炒めた夜色蓮、竹塘魚、三味炒飯を一皿ずつ運び出す。
台所を出ると、多義がもう卓上を片づけていて、
料理を置けるように場所を空けてくれていた。
最後の海梅花炒蛋も卓に置き、泰勇は手を洗ってから私と一緒に居間へ来た。
私と長松と泰勇が食卓の片側に座り、
多義はセイントデーモン太清君の隣、反対側に座る。
心地よくて、美味しい香りに満ちた昼の食事の時間が、始まった。
「ははっ! 為師は玄関先で水やりしてたら、
あいつらが木の下でうろうろしてるのが見えたんだ。
聞いたら玉秀の家族だって言うし、
それにその夢媚族には、お前と魔力の通路を共有してる印も付いてた。
だから為師が入れてやったぞ!」
太清君は、私が唇を結んで問いかける前に、頭の中の疑問へ先回りして答えた。
さすが私の師匠。私がツッコミを入れるための助走を、いつもきっぱり潰してくる。
泰勇はうまそうに食べていて、隣の長松は食べながらうとうとしていた。
「長松? 大丈夫?」
「長松は大丈夫。環境が気持ちよくて、眠くなっただけ!」
長松は食べ終えると、すぐ椅子の上で横になって眠りに落ちた。
私はしばらく様子を見て、何度も問題ないと確かめてから、
席に戻って食事を続けつつ、長松を見張る。
「長松、ちょっと変。いつも新しい場所だと元気で、
あちこち歩いたり、私に話しかけたりするのに。」
「玉秀、知識を一つ教えてやる。
夢媚族は体内の気功濃度が低いと、
逆に活動的になって、気功を吸える場所を探して歩き回る。
十分に吸ったら、今度は眠くなる。
飯を食って昼寝するみたいな感じだな。
休ませてやれ。お前もちゃんと食え。」
私は頷いて、竹塘魚を一口食べた。
口の中でほろっとほどける食感に驚く。
そのまま食べ進めると、
夜色蓮はしゃきっとして甘みがあり、みずみずしい。
炒蛋も柔らかさと火の通りがちょうどいい。
泰勇の腕前は前まで「食べられる」くらいだったのに、たった一日でここまで上達するなんて。
あとで聞こう。
私はみんなと一緒に、卓の料理をじっくり味わった。
私の疑問に気づいたのか、泰勇がすぐ口を開いた。
「玉秀主人、本物さっき台所で、なんか知らないけどひらめきが止まらなかったんだ。」
……言ってるようで、何も言ってない。
ここ、いったい何なんだ。
もしあれが台所じゃなくて、薬草を調合する場所だったら。
私の上級薬草技術も、いきなり跳ね上がったりするのかな。
ツッコミを入えたあと、少し迷ってから、隙を見て口を開いた。
「最近、ちょっと悩みがあるんだ。」
泰勇は楽しそうに多義と国の話をしている。
そのキーワードが耳に入った瞬間、まあいいか、と思ってしまった。
この心地いい空気を壊したくなくて、私は声を落とす。
「最近、ある隊とけっこう近かったんだけど……その中に、
ちょっと気になる人がいて。
いや、別にそこまでじゃないんだけど。
隊は解散しちゃったのに、また会えたらそれも悪くないなって思ってる。
それに、あの二人の『同居人』私が引っ越すとき、
部屋を残しておくべきかなって……。」
私は長松と、いつの間にか多義とじゃんけんを始めている泰勇を見た。
だって、昔セイントデーモン太清君に教わった原則では、
関係なんて結局「互いの利益」があるから成り立つものだ。
ちゃんと関係を「使う」ことを覚えて、客観的にバランスを取る。
不均衡なら、手放す。
でも私は、関係を続けたいと思ってしまっている。
それはもしかすると、私にとって損になるかもしれない。
セイントデーモン太清君は少し考え、
穏やかなのに鋭い目つきになって、ゆっくりと箸と器を置いた。
「為師が一つ、話をしてやろう。」
書き終えるたびに、熱々のご飯が食べたくなります。みなさんは何が好きですか?
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