第40話 私たち、「一生」の家族になろう?
目の前の少年の瞳がきらきらと輝くのを見て、
私は残ったわずかな力で、虎宝の無垢な頬をどうにか軽く叩き、
「もう行っていいよ」と伝えた。
長松が後ろで大声で呼んでいても、
私は返事をしないまま、重い足取りで休憩室へ急ぎ、扉を閉めた。
休憩室は、メイハオ村の外にある空き家の一階とつながっていて、
私が外に出て周辺を覚えるのに都合がいい。
けれど、赤レンガの壁の間を抜けたり、
雨除けの幾何学模様が彫られた騎楼を通ったりするたび、
暗がりに見慣れた黒髪とベージュの頭巾が現れるのを、いつも見つけてしまう。
そんな日々が、もうすぐ三年になろうとしていた。
ある日、ヘフィスが私のもとを訪ねてきて、生活の様子を気にかけてくれていたとき。
彼はふっと微笑み、窓のほうを見た。
「玉秀、龍根ギルドで丸五年、おめでとう。そろそろ迷宮攻略を始めるのか?
面白いことに気づいたんだが……お前、夢媚族に付きまとわれてないか?」
ヘフィスは顎を撫でていて、
まるで「朝ごはん何食べた?」みたいな話をしている感じだった。
「夢媚族って何? こっちの本も読んだけど、資料は見た覚えがない。」
「一般の人にとっては、希少すぎてな。神話みたいに扱われてる。」
「……なんか不穏なんだけど。放っておいたら、私に危険ある?」
不安になってそう言うと、私はすぐ、例の青年にぶつかった経緯をヘフィスに全部話した。
話を聞き終えたヘフィスは、なぜか笑ってそのまま外へ出ていく。
それから少しして、涙を流している長松が、両手を後ろで縛られた状態で私の前に置かれた。
「え? 若いね。数値、ちょうど七歳になったばかりだ。
こういう他種族がいる場所で会う夢媚族って、だいたい五十歳以上なのに。」
「そうなの?」
「一歳くらいから頭は良くて、学習も早い。
けど本体が脆いから、変装が甘いと処理される。
だから残ってるのは大体ベテランだ。
なのに十歳以下で、しかも他の夢媚族と一緒にいないって……本当に、珍しい。」
ヘフィスは面板の状態をじっくりと確認した。
「夢媚族は追跡用の魔力で、探したい相手や避けたい相手を見つける。
だからお前、振り切れなかったんだろ。」
「……悪い奴? なんでお前の魔力、探知できない……」
長松の涙で濡れた大きな瞳が、
どうして自分が捕まったのか必死に理解しようとしているみたいだった。
「元気で健康そうな子だな。
夢媚族は魔力量もそこそこあって、しかも圧縮や変形ができる。
だから昔は、予備の魔力や魔道具のエネルギー源として捕まえられることが多かった。
人混みに紛れるのが得意なんだが、人間が戦争の最中に大量に狩って利用したせいで、
今じゃほとんど見かけない!」
ヘフィスはそう補足してから、もう一度だけ長松を見た。
ぼんやりし始めた長松を見ても、私はこいつが何をしたいのかさっぱり分からない。
「……なんでずっと私についてくるの?」
私の疑うような口調を聞くと、長松は泣くのをやめて、まっすぐ私を見た。
「母さんが言った。魔法の才能があって、使える人のそばにいろって。
そうすれば捕まって、魔力の源にされないって。
長松、妳についていきたい。長松を養ってくれる?
長松、ちゃんと自分のことはできる。迷惑かけない!」
「いいね、玉秀! 夢媚族が“ついていきたい”ってさ」
今は、私がやっとお金を貯めて、新しい部屋も見つけて、
生活がようやく良くなりそうな時期だ。
ここで一人増えたら、生活の質が落ちる。私はまだ、引き受けるなんて言ってない。
私は混乱したままヘフィスを見る。
ヘフィスはやけに気楽な顔で、長松のほうを向いて言った。
「なあ! 室内設備を動かすエネルギー系統、覚えてるか?
長松が自分で“養ってほしい”って言うならさ……ここで飼えばいいんじゃないか?」
ヘフィスは部屋の隅まで歩いていき、一メートルもない正方形の区画を指さした。
そこはこの部屋のエネルギー源で、定期的に気功を流し込むか、
魔力を与えて起動させる必要がある場所だ。
それが動いているから、保温できる食料保管棚みたいな特殊な魔道具も使える。
長松の顔色が一瞬で真っ青になり、無力そうに大粒の涙がまた落ち始めた。
この流れ、私が悪者になるやつじゃない?
ヘフィスは気楽に長松へ近づき、長松は泣きすぎて息が上がっている。
「もう! 分かった、私が養う!
私は玉秀。ここでは自由にしていいから、もう泣かないで、ね?」
私は慌ててしゃがみ込んで宥めた。
長松はゆっくりと姿を変えて、十二歳くらいの小さな女の子の姿になる。
「……玉秀?」
長松の声が小さくなり、信じられないみたいに顔を上げた。
すると胸元から紫色の光がふわりと浮かび上がる。
ヘフィスが私の隣に来て、手で掴めと合図した。
触れた瞬間、奇妙な温かい流れが私の体の中を駆け抜けた。
「はい、これで長松はお前のものだ。ちゃんと面倒見てやれよ。
魔力も共有してくれる。
おめでとう、玉秀!」
私はその場で固まったまま、まだ怯えた顔の長松を見て、それから口元を上げたヘフィスを見る。
……最悪。
気づいたら、訳も分からずペットを“認養”させられてない?
私はため息をついた。
「はぁ……分かった。責任は取る。長松、ちゃんと面倒見るから」
長松と玉秀の出会いを補完してみました。
けっこう笑えると思うので、気に入ってもらえたら嬉しいです。




