第39話 魂が震える年齢の見分け方
ふと、思った。
やっぱり泰勇のほうが年上に見えるよね?
私は首をかしげながら、満面の疑問符を浮かべつつ、泰勇の面板を開いた。
もしかして見落としているだけで、
実際に生きた年数が別に表示されているとか?
泰勇、32歳、男性……。
以上。
……それだけ。
年齢に関する補足情報は、どこにもない。
私はしばらく画面を凝視したけれど、数字は増えないし、注釈も出ない。
疑問が解消されるどころか、むしろ霧が濃くなった。
「多義のほうが、泰勇より年上なの?」
私がそう尋ねると、泰多義はきょとんとしたあと、元気よく頷いた。
「そうだよ!大人!」
私の困惑した顔を見て、泰多義はすぐに補足してくれる。
「私たち蛟人はね、脱皮するたびに身体年齢が一歳から二歳くらい若返るんだ。
だから見た目だけじゃ、年齢は判断できないんだよ!」
……なるほど。
なるほど、さっき感じた違和感の正体はこれか。
脱皮したあとの多義、ちょっとだけ若く見える。
今もまだ少し弱っていて、水缶の中に浸かったままだ。剥がれ落ちた鱗が水面に浮かび、きらきら光っている。
……でも、やっぱり年齢の見分け方がわからない。
気功とか魔力の流量で判断するのかな?
「名前を見るんだよ!泰多義兄ちゃんみたいに三文字の名前は、
だいたい三百年前によく使われてた命名なんだ。
それで、本個体は二文字だろ?百年くらい経ってから、
族の長老が『名前が覚えにくい』って言い出して、簡略化されたんだ!」
泰勇は誇らしげに、自分のがっしりした肩をぽんぽん叩いた。
当たり前みたいに語るその命名文化に、私は普通に驚く。
……そういえばギルドの職員に泰耘がいた。
二百年前、とか……?
「そのあとしばらく、長老が“異国風”にハマった時期もあってさ。
私の従弟の名前は、泰・カールミット・ラヤ哥・ドラドムク耘なんだ」
多義はまだ少し弱っているのに、さらっと追い打ちをかけるように補足した。
……長老たちに、心から大きな『助言』をしたい。
やめて。
そんな長い名前、誰が覚えられるのよ。
「それは百年前の命名方式だよ!今は長老が新しい流行に合わせて、
もう命名のやり方を変えたんだ!
ほら、隣の家で生まれた子なんて、
泰ゆせ席って名前だし!」
泰勇は得意げに続ける。
「本個体も、もしこのあと食われ……天国に行く機会があったら、名前を変えたい!」
泰勇は蠢真な笑顔を浮かべた。
「泰オサ強、
これでいい!」
私が理解できないと思ったのか、泰勇は手のひらに水をつけて、
その“名前”の形を描いてみせた。
その記号を見た瞬間、私の魂が震えた。
なにその怪しい命名方式。長老たち、頭は大丈夫?
「……なんで、そんな命名になったの?」
「猿人族だよ。メツ国のほうで流行り出したんだ!
ちゅうじびょう二世が第一皇子につけた名前がさ……
ちゅうじびょう・ぼき万年。
これが大陸中で大騒ぎになって、みんな真似し始めたんだよ。
でも皇子が成人してから、ちゅうじびょう・本晴万年に改名しちゃってさ。
そこはちょっと残念。前のほうがカッコよかったのに!」
「はいはい、もう分かった……!」
私は頭痛をこらえつつ、そう返した。
すると脳内に勝手に映像が浮かぶ。
黒いクマをがっつり作った王族が、マント姿なのに全然威厳がなくて、
男の赤ん坊を抱えながらカメラに向かって「グッ」と親指を立てている。
「玉秀、いつ帰るの?」
長松が少し落ち着かない様子で、私のピンクの束裙の裾を引っ張った。
そのまま、ゆっくり十二歳くらいの小さな女の子の姿に縮んでいく。
私は慌ててしゃがんで、肩をぽんぽんと叩いて落ち着かせた。
夢媚族は環境に合わせて変形する。
これは身を守るための本能だ。
ただ、長松が元の姿を保てなくなる仕組みは、私はまだよく分かっていない。
「長松、具合悪いの?」
長松は先月でちょうど六歳になった。
そのとき私は、長松の好きな魔鷹の頭骨を贈ろうと思って、
隣の晴来村まで買いに行ったんだ。
「違う。長松は眠いだけ。長松、自分で安全な場所を探せる……」
私は長松を椅子に座らせて、そっと宥めた。
その仕草が、虎寶に初めて乗ったときに長松と出会った記憶を、ふっと呼び起こす。
目的地に着くと、虎寶は小走りのまま、私の家の前でぴたりと止まった。
……物に乗り上げたから止まっただけだ。
そうじゃなかったら、休憩部屋に定位してそのままドアをぶち破って突っ込んでたと思う。
二回目の定位のときなんて、遊龍雲観の門を壊した。
思い出したくもない。
虎寶に踏まれていたのは、ベージュの頭巾を巻いた黒髪短髪の少年だった。
凶悪な顔で起き上がって、私を睨みつけてくる。
その瞬間、私は虎寶の背の上で、丸五分フリーズした。
言葉が出ない。
頭の中に浮かんだのは、それだけだった。
私、何もできない。
この世界で何かやらかして「不適応者」って見なされたら……私、
替えられるの?
「こんだけ広い道で、わざわざ俺に突っ込んできたのか?」
声がものすごく怖い。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
私は頭を下げながら必死に謝った。
虎寶にも一緒に謝らせようとして、頭をぐいぐい押す。
虎寶は私の動きにびっくりしたみたいで、
表情が一気に不安そうになり、ふさふさの大きな耳がしゅんと垂れた。
……と、その次の瞬間。
少年の目がぱっと輝いて、声のトーンが跳ね上がった。
「まさか……俺のこと好きで、飼いたいのか?俺、長松!」
……え?
まずは種族の文化と、長松の話を少しだけ先に出しておきます。
続きは次の話で補完するので、お楽しみに。




