第28話 魔杖の正しい使い方は、差し込む……
私の記憶は、以前パーティーを組んでいた隊長へと流れていく。
そして私が心からすごいと思っていた武僧、曾廣のことだ。
一般的に武僧は、単独で魔獣の巣に突入しても自力で撤退できるし、
情報収集も一人でこなせる。
ただし危険な状況では仲間まで手が回らないことも多い。
実際、私たちのギルドには有名なモーリという武僧がいた。
魔獣王との戦闘中、仲間を置いて一人で逃げ出したことがある。
そのせいで、しばらく武僧の評判はあまり良くなかった。
けれど曾廣は、私が見てきた中でも本当に珍しい武僧だった。
どの立場も、きちんと果たしていた。
隊長として的確に指揮を出し、
自分の高い能力に頼って単独行動に走ることもない。
前方を慎重に偵察してから報告し、
私たちの薬水の残量や状態まで気にかけてくれる。
彼と一年間パーティーを組んだ経験は、本当に快適だった。
ただ一つだけ例外がある。
初めて組んだとき、まだお互いに慣れていなかったせいか、
隊長の移動速度があまりにも速くて、気づけば姿が消えていた。
私はため息をつき、
きっと先に偵察と敵の排除に向かったのだろうと推測した。
そして、ようやく追いついた時。
隊長は、
濃紫の劇毒をまとう沼怪の群れに、がっちりと絡め取られていた。
魔法使いの曾宝が、どうにか魔獣の核を破壊し、
魔獣そのものは消滅させた。
けれど、劇毒の粘液は消えなかった。
隊長の体はその中に沈み、全身はすっかり裸。
装備はすべて腐食して跡形もない。
なのに、耳につけた緑の宝石の耳飾りだけは無事だった。
いったい何の素材なのか、少し気になる。
やがて隊長の皮膚が毒で紫色に変わり始め、私たちは一斉に動揺した。
「これが最後の解毒剤だ!でも上からかけても効いてない!
状況は最悪だ、早く引きずり出さないと!
でも全身が劇毒の粘液で覆われていて触れない!」
と言う王岳は薬剤を握ったまま隊長のそばを行き来し、
緊張と悲しみを浮かべている。
「武僧のスキルで毒耐性は40まで上がる。
劇毒侵蝕は33だから本来は上回ってる。
でも、そのバフがもう切れそうなの!
曾廣の基礎値は28しかないはず……このままだと終わる!」
その表情に、私は一瞬見とれてしまった。
財布をなくした子供みたいな、途方に暮れた顔。
思わず抱きしめて慰めたくなる。
でも今はそんな場合じゃない。
もし隊長が死んで任務失敗になったら、報酬はなし。
この二週間の野営と、
石みたいに硬い干し肉生活が全部無駄になる。
「外からは術が通らないみたい。
あの粘液、魔法障壁みたいになってる。
補助魔法が弾かれる。」
私は慌てて気功で解毒術を放った。
けれど青い魔法陣は紫の粘液の外側で瞬き、
花火のように散って消えた。
隊長は苦しそうに喘ぎながら、
右手を必死に右胸のあたりへ伸ばそうとしている。
曾宝は焦りのあまり泣き出していた。
もう粘液を焼き払うだけの魔力は残っていないのだ。
「つまり、内部から治療を与えれば、
隊長は助かる……ということですよね?」
王岳は手に持った剣を見つめ、
粘液を斬り裂いてから残りの薬剤を隊長にかけるべきか考えているようだった。
私は神聖安気術で彼に纏わせることもできるけれど、
正直に言って、格好いい王岳にそんな危険を冒してほしくない。
「魔石を隊長の体に広い範囲で接触させられれば、
気功や魔力を内部に伝達できる可能性があります。
そうなれば、術の効果はかなり強まるはずです!」
曾宝はようやく冷静さを取り戻し、
魔法学院で学んだ応用知識をもとに分析した。
私も以前、関連書籍で読んだことがある。
人体に大面積で接触した方が、距離を隔てて術をかけるより確かに効果は高い。
ただしそれは理論上の話で、実際にどう応用するかは別問題だ。
「でも曾宝、どうすれば広い範囲で接触できますか?
法杖の木の部分が隊長に近づいた瞬間、
魔石が効果を発揮する前に、
あの粘液に腐食されて滑り落ちてしまいそうです!」
「……できれば人体の内部から施術するのが理想です。
それに、接触面積も十分に必要です。」
今の曾廣は全裸のまま地面に伏せている。
曾宝は言いかけてから、
思わず彼の少し上がった引き締まった尻をちらりと見た。
それから王岳に手振りで何かを示し、
二人そろって私の手にある法杖へ視線を向けた。
私は一瞬で察してしまった。
手振りで確認する。まさか……お尻から入れるの?
魔石がしっかり固定されるのは想像できる。
でも、そんな処置をしたら法杖がとんでもなく悲惨なことになる。
私は絶対にその場で捨てると思う。
この普通の法杖だって、四百陽陰幣もするのに!
私が何も食べず飲まずでも、少なくとも二日はかかるほど高いんだから!
私が迷っている間に、王岳は迷いなく剣で粘液を斬ろうとした。
私はすぐに彼の前に立ちふさがり、そのまま曾廣隊長のそばへ歩み寄る。
「私の神聖安気術は、あと一発だけ!」
本当は、今の私の魔力量なら、
ここにいる全員を術で全身七色に光らせるくらい余裕だ。
でも今の私は、あくまでLv49の賢者という立場なのだ。
「玉秀、私はもう魔力がないのに……でも、
どうしてあなたは?」
もし不測の事態で高等術を二発も使うことになったら。
想像の中で、必死に体を起こそうとする曾宝が、
目を見開いて私を見ている光景が浮かぶ。
「玉秀、ずいぶん用意がいいね。
私たちが危険になることまで想定していたのかい?」
スライムみたいに素直な王岳が、
ぽかんとした顔で私を褒める姿も想像できる。
けれど他の隊員に見られたら、妙な噂になって面倒なことになるに違いない。
私もスライムは大好きです。
あの、ただ単純で可愛い、どこにでもいる普通のスライムが好きなんです。




