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第27話 賢者として知っておくべき事項

今はちょうど海梅花が満開の十月だ。

海梅山の頂へ向かう道は、

山陰面に広がる靛藍色の花びらが風に乗って舞い落ちている。


その中を進むと、まるで海の中をゆっくり泳いでいるみたいな感覚になる。

魔獣が一歩踏み出すたび、足元の花びらや枯れ枝がかすかに砕ける音を立てた。

やがて、米黄色の花を咲かせた海梅の木が遠くに見えた瞬間、私はもう到着が近いと悟る。


太清君先生の住まい――「遊龍雲観」だ。

海梅花の香りは、少し冷たい山風に混ざっている。


どこか爽やかで、ほのかにレモンのような甘さを帯びていた。

私はとても機嫌が良く、花の海を進みながら、


どうしてこんなに遅くなってしまったのか、

その理由を説明しようと考えていた。


最近、ギルド長に任務後の報告書提出を求められていて、

資料の収集と整理にかなり時間を取られていたのだ。


私は小さく独り言をつぶやきながら、言い訳を何度も練習する。

先生に余計な心配をかけないために。


感情を整え、言葉の流れもようやく自然になった、その瞬間だった。

乗っていた魔獣が、何かにつまずいたように急に小走りで止まった。

まずい。


この嫌な揺れと、魔獣の戸惑った視線。

私が乗っている魔獣は……

どうやら、人を踏んだみたいだ。


「虎宝!どいて!」


私は慌てて魔獣から飛び降りた。

地面には、ぴくりとも動かない青年が倒れている。


青い短髪の上に箒がのしかかり、背中の灰色の鱗で蛟人族だとすぐ分かった。

七尺半ほどの魔獣は、虎顔を私にすりすりと押しつけてくる。


無実ですと言わんばかりに座り込み、涙目でこちらを見上げていた。


「えっ!大丈夫ですか?」


私は駆け寄る。


白い薄紗の短パンだけを身につけた少年は、うつ伏せのまま無反応。

私の額から汗が一気に噴き出す。

気功の流れで探ると、体外にはまだわずかな循環がある。


でも体内に集積している魔力が外へ溢れた形跡はない。

……本当に、轢き殺した?

最悪、分解するしか……。


反射的に「分解の精霊」を呼び出して現場を処理しようとしかけた、その瞬間。


だめ。

え、ちょっと待って?


まず相手の状態をちゃんと確認しなきゃ。


私は、神様との約束を思い出した。

「緊急事態」の場合、特別に権限を申請して強制的に相手とパーティーを組める。

そして……こっそり相手の数値データを確認できる。


あ、違う。


ええと……


相手を保護するためなら、多少のプライバシーを犠牲にするのは許される、というべきか。


さっきの異常は環境の影響かもしれない。

さっきのは環境の影響かもしれない。


直接数値を確認するのが一番確実だ。

本来なら、ステータスパネルはパーティーメンバー間でしか共有できない。


しかも、非公開設定も可能。

でも私は転生者だ。


使える手段は、使う。

私は緊急で相手のステータスパネルを開いた。


泰多義、十九歳、男性……。

素早く「生命泉源」の項目へスクロールする。

ごちゃごちゃした画面は正直好きじゃない。


けれど今はそんなことを言っていられない。


未抬頭龍首みたいとう・りゅうしゅ    40

未注泉龍根みちゅうせん・りゅうこん   15

現在注泉蓄量げんざいちゅうせん・ちくりょう 90

抬頭後龍首たいとうご・りゅうしゅ    65

注泉後龍根ちゅうせんご・りゅうこん   18

気功蓄量きこう・ちくりょう       6

魔力蓄量まりょく・ちくりょう      8


通常、健康な生命力を持つ者なら、


気功蓄量も魔力蓄量もだいたいˋ"40"前後はある。

この数値を見る限り......


あ!

復活魔法の業務範囲ですね。


泰多義の「龍根」の数値を、不意に目にしてしまった私は思わず驚いた。


それは男性の生命泉源の指標で、感情の揺れまで読み取れる、かなり参考性の高い数値だ。

この優秀すぎる数値を見て、私は妙に物悲しくなる。


体格も悪くない。背中は厚く力強い線で、尻もやや上向きで引き締まっている。


……とはいえ、


私は倫理観のある人間だ。遺体をどうこうする趣味はない。

しかし、蛟人が暮らすメイハオ村はここから二キロも離れていない。


しかもこの辺りは観光名所だ。


ここで死体が発見されたら……。

私は小声で神様に地獄行きだけは勘弁してくださいと祈りつつ、


指先から黒い霧をゆっくりと滲ませる。

だが次の瞬間、はっと我に返った。


待って。復活の業務範囲って言ったよね。


復活術は三日以内、しかも身体がほぼ完全な状態で搬送されることが条件。

習得にも時間がかかるから、志願者は少ない。

さらに運搬と保存費だけで、最低でも五万陽陰幣。




こんなに高額で、しかも需要がある。

だから私は当然、復活術を習得している。





私は慌てて冷静さを取り戻し、体内の魔力を整え、


目の前の青年へ復活術を叩き込もうとした。


……え? 弾かれた?


私の法陣は桃色の花火のように彼の表面で弾けるだけで、


まったく体内に浸透しない。

その時、ギルド図書館で読んだ資料を思い出した。


蛟人は魔法耐性が高く、物理的手段でなければ決定打になりにくい。

つまり、物理でなければ作用しない。


精霊の攻撃なら有効?

それとも「分解」は物理ダメージ判定になる?


……だめだ。


私は神聖な賢者だ!

ここで迂闊なことをすれば、万一見られて噂でも広まったら、


この神聖な職業イメージが汚染されてしまう。

「相手の魔法耐性が高すぎて術が通らない」状況。

どこか、既視感がある。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

これから玉秀先生の章へ入ります。


引き続き、お楽しみいただければ嬉しいです。

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