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第26話 「世ン点神店」焼き肉店

残り二十分だけ。

背後から聞こえる笑い声に、私は気楽に振り返って、

彼らの試着の様子を見ようとした。


その瞬間の衝撃は大きすぎて、今でも記憶魔法であの場面を消すべきか迷っている。

まずい、また思い出してしまった……。


泰豪と泰勇、二人の大男が、すっかり裸になったあと、

ふざけるように衫裙だけを着て舞っていた。


「泰勇兄!これ、すごく綺麗だろ!雲の中で舞ってるみたいじゃない?」


店長の泰豪は嬉しそうに跳び上がり、

真っ白な絹の衫裙が動きに合わせてふわりと舞い上がる。まるで柔らかな白雲のようだった。


「確かに!じゃあ本個体が今着ているのは、湖に跳ねる水しぶきのように見えるだろうか?」


泰勇は優雅にくるりと一回転する。細やかな白い絹の衫裙は、

水が弾ける流れのように揺れ、湖面に波紋を残して静かに消えていく。


私は無言のまま二人のそばへ歩み寄った。

楽しそうに舞っていた泰勇がこちらを振り向き、

私の顔を見るなり青ざめて、慌てて隣の泰豪を引っ張る。




泰豪もその勢いで振り向いた瞬間、全身を震わせた。

まるで何か恐ろしいものを見たかのように。




「ご、ごめんなさい!玉秀主人、本個体すぐ試着する、すぐ試す!うぅ!」


「うぅ!玉秀大人、泰豪がすぐ泰勇兄に似合う款式を探します!うぅ!」


残りの二十分、私は真剣に彼らの動きをじっと見つめていた。


泰豪は慎重に、そして素早く、紫黒の地色の綿製・盤領右衽袍を取り出す。

襟元の近くには黒蝶蘭の模様が施されていた。


泰勇はすぐにそれを着る。

鏡の前に立つ姿は、少し大人びているのに、どこか青年らしい活力も感じられた。


款式が決まったあと、店長はさらに五割引にしてくれて、合計は六百陽陰幣ほどで済んだ。


「玉秀大人は貴賓、賓客でございます!またのご来店を心よりお待ちしております!」


会計を終えると、泰勇はそのまま服を着たまま先に焼き肉店へ向かった。


一方で私は急いで家に戻り、プリーモスからチーズケーキを受け取る。

プリーモスは酒紅色のスーツを身にまとい、玄関で黒いシャツの襟を整えていた。


「玉秀、他に助けが必要なら老子に言え!

老子はお前を信じている。しっかり『夢幻泡影』迷宮を攻略してこい!」


彼は真剣な表情でそう言い残し、私の食事の誘いをあっさり断った。


「玉秀、老子の言葉を忘れるな。さらばだ!」


そう別れを告げると、彼は素早く赤い熱風の塊を振り出し、それが両足の間に蓄積していく。

次の瞬間、熱風が弾けるような破裂音を立て、地面には二つの黒い楕円の痕が残った。


プリーモスはまるで弾かれたように、一瞬で空へと飛び上がり、そのまま去っていった。


そして私は長松と一緒に「世ン点神店」焼き肉店へ向かった。


店長の梧慶はとても気を配っていて、店内の灯りは柔らかい。

赤いソファと原木のテーブルが並び、どこか家庭的な雰囲気がある。


今日は特別らしく、数名の店員以外は私たち一卓だけだった。


泰勇がいくつも珍しい食材を勧めてくる。

その中でも一番予想外だったのは、あの可愛らしい菇盹鼠。


正直、少し抵抗があった。

でも長松が嬉しそうに食べているのを見て、私はそっと一口かじる。


……焼かれたそれは、まるでキノコと豚肉を合わせた炒め物のような味だった。


気づけば、祖母がよく作ってくれた料理が、

古びた木の食卓に並んでいる光景が浮かぶ。

ああ、もうずいぶん食べていない。


「玉秀、顔色があまり良くない。口に合わなかったか?」


梧慶は焼き用のトングを置き、私が目元を指でこすっているのに気づいた。


「ううん、違うの。ただ……静かな記憶を思い出しただけ。」


「そうか。それで心地よい気持ちになったなら、本個体も嬉しい。」


店内の空気はとても穏やかで、梧慶の焼き肉は本当に美味しかった。

私たちは楽しい夜を過ごした。


ただ、小さなハプニングがあった。


私はカウンターで飲み物を追加注文し、少しだけ格好いい店員と雑談をした。

席に戻ると、長松が顔を真っ赤にしてソファに横たわり、ぐっすり眠っている。


泰勇は空の酒杯を手に、ぼんやりと私を見ていた。


「玉秀主人、誕生日おめでとう!これは本個体からの贈り物だ!」


彼の手には黒い小箱。

酔っているのか、ふらふらしてうまく持てていない。


私は慌てて受け取り、そっと蓋を開けた。


中には、紫色の勾玉の耳飾りが一対、静かに光っていた。


「泰勇、本当にありがとう!すごく素敵だよ!」


「玉秀主人!あなたは本個体にとって一番大切な人だ!」


泰勇はにかっと笑って親指を立てる。

その横で、梧慶は顔を真っ赤にしながら床に座り込み、大笑いしていた。


「おめでとう、勇!今日は本個体、幸せすぎるぞ!」


「慶、お前もおめでとうだ!住む場所ができたな!」


私は、ふらふらしながら立ち上がった梧慶が、泰勇と長松をまとめて抱きしめ、

そのままずるりと床へ滑り落ちるのを見つめた。


「泰勇、それってどういうこと?」


「本個体、前はゴミ捨て場の近くに簡単な棚を組んで、そこで寝ていた。

だが今は、この店の倉庫に寝泊まりできる。」


私は満面の笑みを浮かべる梧慶を、驚いて見つめる。


「勇、本当に助かった。

店員への報酬は、陽陰幣ではなく本物の食材を提供する形で支払うことになった。

それなら蛟人族としても受け入れられる。

そして、この設備の整った店を見つけてくれたのは勇だ。

本個体、大切にする。

あなたたちは皆、本個体の一番大事な家族だ。再会できて本当に嬉しい。」


そう言い終えると、梧慶はそのまま眠ってしまった。

私は慌てて、あの格好いい店員に頼み、梧慶を小さな倉庫へ運んでもらう。

そして完全に酔いつぶれた泰勇と長松を見て、

すぐに魔獣を呼び出し、二人を家まで連れて帰らせた。


昨夜は私の「家族」との集まり


……


何を考えているの、私。

あくまで仮住まいなのだから、「同居人」との集まりと言うほうが正確だ。

それでも、思いがけず贈り物と祝福をもらった。


そのことを思い出すだけで、

目が覚めた瞬間から、胸の奥がほんのり温かくなる。


今朝の気温は心地よく、晴天で旅にはぴったり。

私は雪のように白い斜領の短衫と、桃色の束裙を着直す。

今日は一度で綺麗に結べて、少し時間を節約できた。

銀白色の絹のような腰紐をきゅっと締める。


艶やかな赤い焰華草が刺繍された絹の上衣を羽織り、

泰勇からもらった誕生日の贈り物、紫の勾玉の耳飾りをつけた。


鏡に映る私は、なかなか悪くない。

私は数回、ゆっくりと深呼吸する。


部屋を出ると、客間は静まり返っていた。

朝八時。長松も泰勇も姿がない。

まだ夢の中だろう。


海梅山はメイハオ村のすぐそばとはいえ、歩けば一時間。

この服で山道を歩けば、きっと汚れてしまう。


それに、山道を歩くと考えただけで、私はもう少し自分に優しくしたくなった。


包んでおいたプリンを取り出し、

私は素早く魔獣の虎宝を呼び出す。


目的地は、

海梅山の山頂。

この先の物語は少し“狂気寄り”になります。

作者の精神状態については心配しなくて大丈夫です。


……たぶん。(笑)

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