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202/208

泥棒は嘘つきで 9

 

 翌朝、外は快晴で寒さこそ厳しいが気持ちいい朝だった。今日はどんなクエストをなんて考えつつ、いつものように朝食を食べてると遅れてやって来たエリス様が席にもつかず語り出した


「もう飽きたから帰るわ、依頼はここまでよ!ご苦労」


 俺達はきょとんとしてしまった


「え?ええっと…どういう事かな?冒険者は終わりって事?」


「随分急な話ですね、本当ならそれはそれで良いですがエリスの普段の」


「気安く呼び捨てにしないで貰える!!依頼は終わりなんだからもう私は王女なの!……まあいいわ、いきなりなのは認めるから今のは不問にしてあげる。

 庶民の生活もそれなりには楽しめたわ、もう経験する事はないでしょうけどね!それじゃあもう会う事もないでしょう、アナタ達はこの由緒正しい国の高貴なる王女と生活出来たという経験を一生の宝にすると良いわ。

 これだけでも充分だと思うけどちゃんと血税から庶民が驚く様な報酬も与えてやるわよ。でも間違っても私と共に過ごしたなんて吹聴しないでね!それではご機嫌よう」


 突然の依頼終了と共に悪態をついて帰ってしまったエリス様。

 ちょっと思考が追いつかず皆きょとんとしてしまったがギルドへ行き話を聞いてみると既に依頼達成という事で手続きは終えてるようで正式に王女様の子守は終了した。


 ボロクソ言われたのも気にはなるが何よりあんな問題児が突然居なくなったものだから家は静まり返り俺達は何とも言えない寂しさを感じつつ、久しぶりに静かに家に籠もって過ごしていた



「昼にしようぜ。何食いたい?作るよよ」


「そうですね…いえ、私が作りますよ。思えばエリス…王女が居た時はみーさんに任せっぱなしでしたし」


「気にする事なかれ。明日から頼むよ」


 やはり皆元気無いな。かなり馴染んでたもんなぁ



 午後になっても部屋に戻らず広間でゴロゴロしてる俺達。

 クリスをおちょくったりまゆもを弄ったりメロニィにちょっかい出したりして、一時は明るくなるけどどうにも元気が出ない。まあ無理もないからここは変に空元気出すのもやめとくか




 そんな物静かな1日となった今日の夜、俺の部屋の窓に何か当たった気がして窓を開けると下にダイスさんが立っていた





「夜分遅くにすいません、この寒さで外で話すのも心苦しいのですが…少し雑談でもよろしいですか?」



 外でと決め付けてくる時点で家の中、皆には話せない類の話か?俺も煮え切らない思いが強かったので結界である程度の暖を取りつつ遮音して話せるようにして話す事にした



「これで気兼ねなく話せると思いますので…やっぱりあの態度の豹変ぶりは何かあっての事なんすね?」


「素晴らしい技術ですね、私も魔法が使えるならその様な技を会得したいものです」


 問いかけに応じないな


「もう気にする必要なければそっちに隠れてる忍びの人も入れば?寒いっすからね」


「お気付きでしたか。今回は私を運んでくれただけが目的ですのでお言葉に甘えても?」


「どうぞ」


 みーサーチはちゃんとこの忍びっぽいのも把握してましたぜ


「どうも」


「で、お話というのは?」


「そうですね…みーさん、貴方はおそらく結構な御年齢ですね?」


 コイツ何言ってんの?今回はクリスだって気を利かせてオッサンとか言ってなかったのに


「はぁ!?なんすか?訳の分からない……まあご想像にお任せしますよ」


 どうやらかなり真剣っぽいので下手な抵抗はやめておいた


「ありがとうございます。みーさんは異世界からやって来たのですよね?ある程度は私も聞いた事ありますが、王族がどうとかいう話には縁遠い世界のようで?」


「そうっすね、創作の世界でしか知りませんよ、そんなのは」


「みーさんは王の資質とはどの様な物かと思いますかな?」


 なんか難しい話になってきたよ。てか最初の問いかけも含めて色々話す気っぽいな。

 この人の印象はちょっと変わり者か?って思えるくらいで会話が成り立たないような人ではないと見受けるから…てか、心なしか様子がおかしい気がする


「うーん…国民の為にとか、頭がキレるとか、腹が据わってるとか、そういう感じですかね?」


 とりあえず流れに乗ってみるか


「そうですね、そういった意見全てがおそらく正解とも言えるでしょう。ただ、長年王家に仕えてきた私の一族なんかですとちょっと解釈が違うのです」


「と、言いますと?」


「ざっくり言うと逆…ですね。国民の意思ではなく、王の意思がそのまま国民の意思と合致してしまう様な、そんな王が一番の資質かと思っております」


「イマイチピンと来ないけどそんな歴史を歩んでるダイスさんが言うならそうなのでしょうよ」


「そこで行くとエリス姫はおそらく歴代で見ても最高クラスの王の資質の持ち主だ」



 え!?そうなの?



「ただのわがままじゃなくて?」


「はい、そのただのわがままも頭の悪い単純な考えから全て、国民の民意と不思議と合致して来るんですよ。私の孫娘がエリス姫と同年代で小さな頃から侍女として付いており、姉妹の様な関係になっております。その上で裏取りも出来てますので頭の悪さなんかも私は周知した上での話ですよ」


 やっぱ頭悪いと分かってたのか、苦労は察するよ


「エリス様の考えるアホな事とかに不思議と国民の民意も合致してく…確かにそりゃ強いかもな」



「あの方は本当に単純なんですよ、大国の第一王子と結婚なら悪くない程度のノリとか、トルクスとの合併による貧困の脱却が一致したり、両陛下や王子が亡くなり混乱を極めそうな時に王宮内では考えてもみなかった姫の王位継承を国民は響だけでそこそこな割合で支持してたかと思えば、最年少王位継承という名誉欲しさに王位継承したり、やることなす事国民の支持が追いついたり支持を得たりする程の傑物なんです、アレは化け物の類いですね」


 なんとなく凄さはわかるけどそんな戦慄しながら話すほどはピンと来ない俺…分からない、この人は何を話したいのか


「そんな凄い人を呼び捨てにしてごめんです」


「お気になさらず、むしろ嬉しかったですよ。去年両親と兄を殺されて以来、ウチの孫以外にはあんな楽しそうな姿を見せることは無かったですからね」


 今殺されてって言った?てかそれとなく何話したいか探るか


「そういやダイスさんってちょくちょくどっか行ってましたけど仕事やりに戻ってたんすか?」


「そうですね、仕事でしたよ。もう少し雑談よろしいてすか?あのエリス様が言ってたせいで黒鋼鉄に関して多分軽く見られてると思うのですがアレは本当に環境に良くないんですよ」


 何か意図があるんだな、知らん仲でもないし結構話しの分かる人だったから付き合うとしよう。

 てかなんかアレなんだよ、この人なんかもう疲れ切ってるというか焦燥感出してる気がするんだよな、酒の匂いもするから既に飲んでるのだろうし…本当に何があった?


「そんなになんですね。俺の居た世界でもそういった公害のようなものはありましたから頑なに否定する気持ちは分かります」


「見てくださいこれ」


 銃!?この世界にもあったか


「かつて異世界人から伝達されたとされる兵器ですが」


 そう言って結界の外で撃ったけどコレって…


「やはりそんな反応ですね、文献通りです。私にも辛うじて見えましたが弾が見えてる時点で再現は出来てないのですね」


「文献って時点で結構古い話っぽいけど…再現出来てないんすか?」


「はい、我々からすると当然過ぎてって部分もありますがそんな威力に耐えられる鉄をこのサイズでと言うのは笑い話レベルなんですよ。この世界のものはどれも魔力を帯びてますので火薬だろうと例外は無いんです。単純に普通に取れる鉄ではそもそも数回でも撃てば本体が壊れますし弾なんか砕けますよ」


 そうだったのか。日本人からすると腑に落ちない部分はあるがそんな昔からやっててそういう話ならきっとそうなんだと思う


「でもその銃は殺傷力はほぼ無さそうですがちゃんと撃ててましたね」


「黒鋼鉄で作られてますのでね。この鉄は魔法の影響を極めて受けにくくするんです。

 ただしそれを加工する工程で出る全てのものはこの成分を含みますので全ての物に魔力を帯びてるこの世界では有害以外の何物でもありません。

 消すわけでは無いのが厄介で最初はこの有害性を理解するのに時間がかかるのも難点です。

 魔法に関しては天才で、見てる世界の違うレベルの姫にはこれの危険性はすぐに分かったそうで触るのも嫌がるほどでした。

 専門家の見解ではコレがアスラ川に流れたら数年で殆どの生き物は姿を消すそうです。また、近隣に住まう人も100年後には死滅しているという見解です。

 数年で健康な者はほぼ居なくなり子孫など残せる状態にはならなくなり…等と言ってましたが身体に蓄積し魔力を帯びる事が困難になると考えれば当然の試算です。

 あ、因みに私、消音のブレスレットをしておりまして音は小さかったと思いますがこの武器とんでもなくうるさいので使い所が極めて限られて来るんですよ」


 長難かしい…

 さてはこの人お喋り好きだな?興味深い話してるのは事実だけど俺の知識が追い付いてないんだよ。


「黒鋼鉄が本当にやべぇのは理解出来ましたよ。まあエリス様がしっかりやればその山の開発は止められるんじゃないすかね?」


「実は皆様の所に来てる間、本国で姫は病床に伏せてる事になっております」


「え!?なんでまた?」


 また話が飛んだけど…なんとなくゴールに近付いてる気はするよ


「私の孫は姫と背丈が似てるので顔を露骨に見られなければ影武者にもなれまして。それでその間に我々の国の影の者達で調査しておりました。間違いなく鉱山開発を狙うトルクスと断固反対の王女、それに対してどういう狙いがあるかを」


 きな臭い話になって来たぞ…巻き込まれたりはしないよな?


「それで他国のトップを使ってまでして間接的に依頼して来たって訳ですね」


「その通りです。モリウス殿が気を利かしてくれたのもありますが…結局狙いに関しては分からなかったといいますか、懐柔するのか強引にどうこうするのか、そんな話をしてるとまでは調べられた訳ですが……長くなりまして申し訳ないです。ここからが本題です」


 本当になげーよ!でも悔しいけど気になる言い回しだな…だから長い事詳細を話してたのか



「本題…といいますと?」




 

「3日後、我々はトルクスに宣戦布告し、総攻撃を仕掛けます!」




「はぁ!!?なんでそうなる?上手く行かなそうだからか?エリスは知ってんのか?」


「姫の…判断です。姫はバカですがやはり王家の者だけありますね。全く理解してませんがちゃんと芯をとらえてるんですよ。黒鋼鉄に対する本音を調査という名目で病床に伏せるフリをしたりして時間を稼いでました。当初は元旦に結婚の発表でしたので」


「そうだったんすか?いやいや、見えて来ないわ!それで宣戦布告する程なのか?」


「それ以前に…影の者達はある調査を1年程前からやっておりました」


「1年…前」


 エリスの家族が亡くなった時か…まさか


「そうです。物的証拠こそ無理でしたが…確証に至りました。昨日の話です」


「マジ…か」

 

「赤熱と呼ばれる感染症でして、砂漠のブドウサソリの幼体で羽虫の頃に人間に接触して稀に感染症を引き起こします、致死率50%の感染症です。10年に1度くらいの頻度で感染者が出る事はあり、ごく一部で流行る事はありますがヒトからヒトへは感染らないので付き合っていくしかないと思われてる感染症です。姫も掛かりました」

 

「そうなのか?こんなの明らかに…って訳でもないのか?」


「ええ、勿論色々な噂が立ちましたが物的証拠は皆無でしたので首都でも少し流行ってた事もあり、結果的には運が悪かったという見方が強かったですね。最も王族が複数名亡くなってるので陰謀の線も強く調べては居ましたが…そのまさかでした」

 

「報復って訳か」

 

「決して我々には言いませんがおそらく最初から報復のつもりで結婚も受け入れてると思います。真っ先に調査を命令して証拠見つけるまで辞めるなって言い切りましたからね」

 

  それ、命令された方はたまったもんじゃないだろうな


「そりゃ止めるのは難しいんだろうな………コレ聞いちゃってもいいかな?ズバリ言って勝算は?」


「0ですね。首都近くにある山を守る必要がなければ持久戦による痛み分けは充分算段がつきますが」


  だからこんな疲れ切ってる感じなのか。聞きたくなかったですぅ


「主だったお偉いさんはどう思ってるのよ?黒鋼鉄の情報を売ったヤツも居るんだろ?」

 

「既に見つけてますがまだ放置です。総じて言えるのは皆、売国する気は無いんですよ。なのでこの情報を各人に伝えた所、満場一致で宣戦布告になりました」


  マジかぁ…てかエリスやべぇな。多分これがこの人の言いたかった国民と意見が一致しちゃうってやつなんだろう。こんなの満場一致はあり得んて


「確かに王を殺してるって分かれば国を乗っ取る気満々だってなるもんなぁ…でも無茶じゃないの?そんな勝算0とか言い切れる時点で」


「そうですね。なので宰相や私は皆さんに近付いて少しでも強さを誇示するなんて入れ知恵もしたんですが…どのみちヤマト村の者達の手助けは望めないですしこっちはあくまで王女の立場が下に見やれないようにするためのカードのつもりでしたからね」


 メロにゃんから少し聞いた事あるな。ヤマト村の人が他所に干渉すると…それは過去2度あったヤマト村vs世界の争いと似たような引き金になりかねないから余程悪辣でない限り、極力他国には干渉しないってヤマト村自身が声明を出してるんだとか。

 まゆもとかからも似たような話聞いた事あるし


「止められないよね?」


「きっちり報復はしたいのは我々もそうですし何より…姫の性格はもうお分かりでしょう?私の視点からすると本当恐ろしい王女ですよ。皆意見が一致してしまうんですから」

 

「それでエリスはあんな態度取った訳か」


「そうです…巻き込みたくなかったのでしょう。皆さん助けを頼んだら来ちゃいそうだと仰ってましたので」

 

 それは買い被り過ぎだ。そんな話ついて行けないわ


「俺達…少なくとも俺はそんな気前良くないですよ?」


「はは、それが当然ですのでお気になさらず。1つだけ、年長者であるみー殿にしか頼めない事なので頼んでもよろしいですか?」


「なんすか?」


「多分結果はすぐ世界に知れ渡ります。我々は歴史ある国ですので貧困ながらも兵は強力で防衛力にもそれなりに自信はありますしある程度勝手知ったるトルクスだけでしたら即陥落とまでは行かないと見通せますが、近年トルクスと蜜月化してるソウセンが十中八九絡んで来ると思いますので……姫も最後の手段として自身の魔法で戦争に参戦する気満々です。

 なので…我々の死が確認出来ましたら、御三方に真相を伝えてあげて欲しいのです。

 エリス姫は赤子の頃から見てましたが、姉妹の様な関係のうちの孫を除くと、ここまで姫と仲良くなったのは皆さんが初めてですので。

 せめて最後に酷い事言った事だけは訂正させたいのです。姫も泣いて…いや、コレはやめときましょう」






「分かりました」


「ありがとうございます」






「御武運を」



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