現実、だから此処は薄暗い
テーブルを囲む形で私たちはアパートの狭い部屋に集まっていた。
黄川はごめんねごめんねと私に謝ってくる。たんこぶ一つをえらく主張されたが、私と比べたらたいしたことのない怪我だ。
不意打ちを一発喰らい、気を失っていたらしい。あくまで双子たちの狙いには黄川は入っていなかったのか、ぼろぼろなのは武器だけ。それを不幸中の幸いだねと言えるほど私の心は広くないし、怪我だって軽くない。
額、腕、瞼…ガーゼやら絆創膏を張り付けているがどうにもわんぱく小僧感が拭い切れない。
痛いのと恥ずかしいのとで、機嫌もすこぶる絶不調だ。
「…桃乃ちゃん、助けてくれてありがとうね?ね?」
私を不憫に思ってか右隣の黄川が私のカップに紅茶を注いでくれる。自分で淹れるのは慣れていないのか紅茶が跳ねる。そして、私の左隣…黒澤は相変わらず顎に手をやって手を瞑っている。物思いにでも耽りたいお年頃なのか、というかコイツはいくつだ。
「…別に私は付いてきてなんて言ってないんだけどね」
「土下座までされたら断れない、大和魂だなnewface」
もういちいち突っ込んでたらキリがないので言わないが、私は黒澤に土下座なんかしていない。双子たちがいなくなり、眠っている黄川を黒澤が見つけてからもこれと言った会話はしていないはずだ。
黒澤の性格は何となく分かったし、助けてもらったのには感謝するが色々と言いたいこともある。
双子が言う通り、弱くはないようだがお願いしますなんて言うのは御免だと思ったからだ。
「一緒に戦って、友情が芽生えたのかと思ったのに…。だから黒ちゃん来てくれたんじゃないの?」
「黄川、残念だけどあんたが眠っている間にそんな素敵なオチは付いてないし、むしろ溝は深まったよ」
「桃乃さん、今度は僕たちも呼んで下さいね」
青柳からの視線を感じれば小さく頷く。どうやら双子たちが私があの場所にいるのを悟られないように電波の妨害をしていたらしい。だから私がどこにいるのか分からなかったとか。これには流石に謝るしかない。
「newfaceはおっちょこちょいだな」
コイツの言葉にはこれでも我慢している方だ。
「まあとにかく、桃乃さんはお疲れ様。顔に怪我だなんて、千代がもしそんな事になったら発狂ものだけど君ならすぐに治るだろうね。」
「バカにされてるのか慰められてるのかよく分かんないけど、とりあえず後者で捉えとくわ」
飲みごろになったであろう紅茶を見やれば、一口啜る。ぴりっとした沁みるような痛みに思わず顔を顰めた。口の中もどこか切れているのだろうか。
「でもさ、とりあえずは全員集合したんだよね?これで勝てるかなあ?」
「人数的には不足は無いんじゃないでしょうか。これで5人…ですね」
黒澤もどうやら入る気になったらしく、5人全員が揃ったということか。
「黒澤はさあ、なんで今更入ろうなんて思ったわけ?」
「newfaceの頼みだからだろうが」
小指を立ててコーヒーを飲みつつそう言われた。最初の電話では全く違うことを言われた気がするのは気のせいじゃないはずだ。
「桃乃ちゃんが来る前にね、黒澤くんが教えてくれたんだよ」
「何を?」
「双子くんたちと一生懸命戦ってて、ただ偉そうにするだけじゃなかったって。その証拠が傷だらけの顔。口は悪いけどまあまあの人間だーって」
にこにこと楽しそうに黄川は代弁してくれた。どうしてそんなに上から目線なのかとかは問いただしたいけれど今は黙っておこう。
「だから認めてやろうと、そう言ったんだnewface」
「…何それ」
「まあ、仲良くは出来ないと思うけど戦力にはなるんじゃないかな?」
白砂はどうでもよさそうに軽く笑っていた。手元には携帯端末。どうせお千代の写っている写真でもみているんだろう。
「今度、あの二人が出てきたら桃野さん以外とやりあわせる様にしようか。君の武器は剣だしやりにくいでょう?」
「…そう、だね」
ティナとティル、そしてアダム。あとは赤羽根…他にも一人いるらしいが表舞台には出て来ないらしいからそこまで気にしなくてもいいか。
「それにしても、なんか今日は割と真面目だね」
「…なに、俺のこと?失礼な事を言うね」
「だっていつもはお千代のことばっかりでしょうが」
白砂が小さくため息をつく、こいつ何も分かってねえよという顔をされた。ちょっとイラッときた。
「今日は遠足なんだよ、だから担任にビデオを持たせて千代の様子を送ってきてもらっているんだ。見るかい?ほら、今はちょうどおやつの時間で―」
「キャラがぶれてなくて大変結構」
携帯の画面を見せつけられるが顔を背ける。変わらない、ただ一つの白砂時光。
私の様子にため息を吐いてはようやっと携帯の画面を向けるのをやめたようだ。
「で?この五人が集まったのは分かったけど、これからどうするんだい?」
「…うん、やっぱりあいつらが悪さする理由をしっかり聞いてないなって思ったんだけど…みんなは知ってるの?」
そう話を振ると、少し考えたようにしてから黄川が口を開いた。
「それなんだけどね、赤羽根くんが言うには世界征服だって。でも、双子くんたちが言ったのを聞いた時は…お人形がどうとか…」
「お人形?」
「俺が聞いた時は…確か…、人間を平伏させて…まあ世界征服と同じニュアンスかな」
口々に言うのに同じ言葉はない。意味は大体同じように捉えられるけれど、どうにもちぐはぐだ。
ぼんやり聞いていると、青柳が小さく呟いた。
「…相手方にとっては大事な理由のはずなのに、なんだか統一感がありませんね」
「…そう、だよね。……変なの。」
「教える気が無いのか、…目的は一つじゃないのか…。」
「色々考えられるけど、…うーん…あー…」
自分でも分かるほどに顔を歪めてうなだれる。すっかり冷えた紅茶からは湯気も何も立たない。
悔しくて、見返してやろうと思って、何もない自分を奮い立たせて、何かあるように、空っぽじゃないように錯覚していたいから。
けれど、私は私のまま。躓いて、今もまた、考えることを放り投げた。




