噛み合わない歯車
溶けてしまったアイスを睨む様に見つめていると、ラトランドが不意にアイスの入ったビニール袋に触れた。
「直ぐに溶ける。…これが氷菓か」
「……食べた事ないの?」
「いや、人並みには有る。特別好きでも無いがな」
外国人の友人がいないからか、それが普通なんだか違うんだか全く分からない。とりあえず「ふうん」と頷いておいた。
「あの、話が途中になっちゃったけど、何でその…ラトランドは私の名前知ってんの?」
「見ていたから。…三春の事は知っている。」
…どうしよう。
警察とかに言った方が良いんだろうか。本気で考え始めると、ラトランドはようやっとアイスによって冷たくなったビニール袋から手を離した。
「お前は俺と同じ…、お前は特別だ。」
「………」
威圧的な雰囲気に低めの声。どうにも太刀打ち出来ない気がする。
ぎこちなく頷くも、納得したわけでは断じて無い。
「電話は誰からだ?」
「え、ああ…知り合い。」
「急用か?」
ふと端末を見つめる。あれから全く鳴らないんだから黄川ものんびりしてる。
「急用…じゃないのかな」
そう返すと、早速黄川から着信がきた。
「もしもし、黄川?」
「黄川じゃない、黒澤だ」
思わず顔をしかめる。また黄川の端末から電話かけてきたのか。
「何、何の用?」
「twinsと黄川が己の力をぶつかり合わせている。場所は駅前のライブハウスだ」
「は、意味分かんないんだけど。アンタが加勢してあげなよ」
「俺は高みの見物だ。newfaceを信じた末路がどうなるのか、見届けてやる。だが、newfaceには一応知らせてやろうと思ってな」
つまり、黄川が目の前で戦ってるのに無視。高みの見物とか言って何にもしない木偶の坊。
何だか苛々してきた。
「アンタの大事なライブハウスなんじゃないの。私の事は気に食わなくても黄川は違うでしょ」
「俺と黄川はsoulmateじゃない、過去の繋がりがあっただけだ。」
がちゃがちゃと轟音が聞こえてくる。本当にタイミングが良い双子だ。
「何にも出来ないだけでしょ、臆病者!」
乱雑に電話を切ってポケットに入れる。ラトランドに別れを告げればばたばたと駆け出した。
***
本当に本当に、ロクデナシ!
駆けながらも何度も罵倒してやりたくなる。格好良い言葉を並べるだけで、結局自分じゃ何にも出来ない奴だ、黒澤っていう人間は。
ライブハウスだって壊されていくのをただ見ているだけ。
「双子くらい追い返せっての…!」
息を整え、すっかりライブハウスのかたちを無くした場までやってきた。扉から派手に壊されている。周りには人気なんてなかった。
周りに気をやりながら進む。ステージにはニタニタと気味の悪い笑みを浮かべた双子が座っていた。
「やっぱり来たね、お姉さん」
「やっぱり来ちゃったね、おばさん」
「…黄川はどうしたの」
「もう黄色なんてダサい奴、仲間にするのやめなよ」
「ダサすぎ、まだおばさんの方が骨有るよ」
ガラガラと乱雑に出してきたのは黄川が使う弓だった。
「ホントはね、黒色を捕まえようと思って来たんだよ」
「ケッコー使える奴だったからね、でもいたのは黄色。ダッサい黄色」
双子が立ち上がったと思うと、黄川の弓を放り投げた。がしゃ、と音がした。
「もしかして、お姉さんも黒色狙ってた?」
「腕だけは良かったからね、そういう話聞いたんだ?」
「聞いてないし、今はもうどうでもいい。…アンタら、前回負けたくせして結構強気じゃん」
分かりやすく双子が表情を歪める。悔しいとかじゃない、大方憎たらしいとかだろう。
「前は洗礼だよ、今日はもっと苦しめてあげる」
「死にたくなるぐらいね」
反射的にバングルをはめ込み、変身する。
剣に手をかけて一気に引き抜いた。
すると見計らったかのように双子がステージから降りて駆け出してくる、手には相変わらず物騒な鉈が二つ。
「どこのホラー映画よ?!」
前回同様、私に向かって投げつけられる。頭を抑えて屈むと、壁に刃先が突き刺さっていた。二度目だからって慣れるわけがない。と言うか慣れたくない。
「…ご挨拶だよ、お姉さん」
「ちょっとは期待してたでしょ?」
楽しそうに笑う4つの瞳にぞわりと悪寒が走った。




