第7話 侵攻開始7
すると、開いた扉から、彼女が、いたって普通に、特になんの変化もないような姿で現れた。
「もしかして、失敗したか?」
俺は最も考えうる答えを口にしたが、彼女は強く首を振った。
「この部屋を出ようとしてみたらわかるわ」
彼女に言われた通り、化学準備室を出ようとすると、鍵が閉まっている。
「あれ、斎藤先生鍵閉めていったっけ」
彼女は返事する代わりに、得意げに人差し指にかけた鍵をクルクルと回す。
「よくその扉を見てみなさい」
俺は扉の手をかけたところに目をやる。するとそこには鍵穴があった。
「その扉は、内側からも外側からも鍵で開け閉めするようになっているの。そしてトモコさん、斎藤先生は私に『鍵閉めよろしく』と言ったわ」
「つまり、先生は鍵を持って行かずに出ていったから鍵を閉めることはできない。この部屋の中で施錠できるのはあんただけってことか」
「そういうこと」
彼女は得意げに鼻を鳴らした。
確かにその場合、彼女が自らの足で扉の前まで赴いて、鍵を閉めて、そして部屋に戻り出てこないと、今の状況は成立しない。
成立しない、成立しないんだが、
「パッとしないな」
「言ってくれるわね、でも仕方ないじゃない。そういうものなんだから」
「そもそも、認識してないでしょうけど、ひとりでに扉も開いたし、その辺のプリントのうち数枚をリョウスケの前でヒラヒラさせたりしたわ」
そういえば、確かに、彼女は扉を閉めていたが、いつ扉が開いたんだったかよく覚えていない。彼女が出てきた時と言われたらそんな気もするし、それ以前にひとりでに開いたと言われたらそんな気もするが、その場合でも風で開いたのか、彼女が開けたのか、わからなかった。
「これで入部してくれる、それでいいのよね?」
そういえばそんな話をしていたな。
確かに彼女は超能力を持っていることを証明した、のかもしれない。ただ残念ながらワクワクはしなかった。
なんでだろう、とってもすごい能力のはずなのに、全くワクワクしないのだ。透明化なんて、古今東西で夢見られる能力のはずだ。イギリスの魔法使いの少年が最初に手に入れた秘宝だって透明マントだ。でも現実になると驚くほどあっけない。
理由は簡単だった。何故ならば、見えないからだ。
「まあ、いいが、いいがそもそもこれはなんの部活なんだ? なんでこんな妙ちきりんな名前なんだ」
「だって、超能力を扱うのよ? ただのオカ研なら超能力要素が薄いじゃない」
「それなら超能力研究会とかにしたらいい」
「それなら人が来ないでしょ」
人に来てもらうことを想定していたのか。そしたら、超オカルト研究部もどうかとは思うが、もう申請しちゃってるからと、トドメを刺されてしまったため、これ以上名前にいちゃもんをつけることはできなかった。
青春の高校生活、晴れて入部が決定した、らしいのだが、一から十までが釈然としないし、なんだか感動とかそういう期待していた感情の起伏がどこにもなかった。とりあえず、現実味のない現実的なことに直面したとき、人は居場所を失うことだけはよくわかった。
そうこうしている間に、五限の予鈴が狭い部室をけたたましく揺らす。放課後入部届を書くという予定を取り付け、二人はそれぞれの教室に向かった。
五限目は数aだったが、そこにいたのは外国人の先生だった。やっぱり何かおかしいような気がするが、これが超能力の力なのだろうか。
わからん、だとしたら、地味すぎるし、メリットもない。さっきあれほどパッとしないと言ったが、俺の力の方がもしかしたらパッとしないのかしれない。
午後の授業の間は、超能力のことばかりを考えていた。




