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第7話【我、異世界の畑を耕す】② 挿絵ː12枚

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

重い、重い瞼を押し上げるようにして、我は目を覚ました。

視界に飛び込んできたのは、見慣れない木目の天井だ。剥き出しの梁には年月を感じさせる鈍い艶があり、そこがどこであるかを我の脳にゆっくりと伝えてくる。

ついに支給されたのだ。ミツハから借りる形態ではあるが、ここは我が拠点、我が城――二階のワンフロアを丸ごと使った小さな個人部屋であった。


設えは至ってシンプルだ。簡素な木製のベッドと、ガタつきのありそうな机。そして壁際に据え付けられた大きな本棚。それだけしかない。

本棚に視線を向ければ、そこには背表紙に異世界の複雑な文字が躍る難解そうな専門書がずらりと並んでいる。しかし、そのすべてにうっすらと灰色の埃が積もっていた。長い間、誰の指先も触れていないのだろう。この部屋の主が不在だった時間の長さを物語っていた。

挿絵(By みてみん)

「すぅー……すぅー……」


静寂に包まれた部屋の中で、規則正しい、妙に心地のいい寝息が鼓膜を揺らした。

視線をベッドの脇へ落とす。そこには一脚の木製椅子があり、ミツハが小さな身体を丸めるようにして、こっくりこっくりと船を漕ぎながら眠っていた。

彼女の部屋は一階のはずだ。同室であるわけもないのに、なぜ彼女が我が枕元で椅子に腰掛けたまま眠っているのか、我にはさっぱり理由が分からなかった。


(ひとまず、起こさないように静かに動くか……)


余計な物音を立てぬよう、細心の注意を払いながら、我はそっと上半身を起こそうとした。

だがしかし、エルフという種族の聴覚、あるいは野生の勘というものは、我々人間の想像を遥かに超えて敏感らしい。衣服がシーツと擦れるわずかな衣擦れの音だけで、ミツハの長い耳がぴくりと跳ね上がった。


「はっ……!」


弾かれたように目を見開くミツハ。

驚かせるつもりは毛頭なかったのだが、結果的に彼女の眠りを妨げてしまった。我は努めて穏やかな声を意識し、挨拶を投げかけることにした。


「ミツハさん、おはよう」


「呑気におはよう、じゃありませんよっ! ジョニぃーは、三日も眠ったままだったのですよ!?」


「……はい?」


我が耳を疑う。三日? 最後に時計を見た記憶を手繰り寄せるが、時間感覚が完全に狂っている。


「いや、確か昨日はベッドに入ったのが夜の九時前で、我はとても良い子、良い子で健やかに就寝したはずだが。体調的にも、何一つ問題はないはずだ」


「覚えていないのですか……? 私がお酒を奨めたまでは、そこまではいいんですけどね。それを一口飲んだ瞬間、いきなり泡を吹いてその場にひっくり返って倒れたのですよ!」


「泡を……?」


思えば、確かにそうだ。ミツハから「うちの特製です!」と果実酒のようなものを差し出され、それを口に含んだところまでは辛うじて覚えている。どうやら我が肉体は、二日酔いどころかアルコールに対する耐性が皆無に等しかったらしい。前世の自分がどれほどお酒に強かったかは知る由もないが、少なくとも現在の我が躰は、一滴の酒で三日間昏睡するほどにデリケートな代物だったというわけだ。不覚。


釈然としないまま部屋を見渡すと、視界の端、部屋の片隅に不釣り合いな直方体の影があることに気づいた。茶色い、見慣れた材質の――段ボール箱のようなものだ。


「……ミツハさん。あそこにある物体には何が入っているのか、まず聞きたい」


挿絵(By みてみん)


我の指差す先を見たミツハは、まだ怒りの冷めやらぬ顔を少しだけ引きつらせ、声を潜めて言った。


「アレ……、あれはですね、昨晩に雷が『どっかーんと』一回大きく鳴ったと思ったら、バラバラとお空から降ってきたのですよ。あまりに不気味でしたけど、高価な園芸用品なのは私が見てもすぐにわかりました」


雷と共に空から降る段ボール。その異常極まるシチュエーションに、我の背筋に冷たいものが走った。ふと、先ほどまで見ていた、気色の悪い夢の断片が脳裏をよぎる。

あの、暗黒に塗り潰された不健康で残酷な夢。すべてが記号化され、消失した言葉が虚数として漂う世界。あれは、単なる脳の悪あがきが見せた幻覚ではなかったのか。


確かめるべく、ベッドから足を下ろして立ち上がろうとした。

しかし、その瞬間に膝が笑い、世界がぐにゃりと歪む。足腰に力が入らず、まともに歩くことすらできない。三日間も身動き一つせずに眠り続けていれば、人間の足腰などここまで容易く衰えるものか。まるで大病を患った病人のようだ。我は心の中で己のガタつく躰に鞭を入れ、無理やり神経を稼働させて一歩を踏み出した。


頭で「動かす」と命じることと、肉体でそれを「体感する」ことの間には、地絶するほどのギャップがある。

案の定、二歩目で盛大にバランスを崩し、前のめりに倒れ掛けた。


「危ないですよォ! 今、私が持ってきますからぁ!」


ミツハが慌てて小さな身体で我を支え、ベッドへと押し戻した。そして小走りで部屋の隅へと向かい、例の段ボール箱を抱え上げてベッドの足元まで運んできてくれた。


我が震える手でその蓋を開けると、予感は確信へと変わった。

箱の中に整然と収まっていたのは、見慣れた鋼の光沢を放つ農具たち。鎌、鍬、そして大小二種類のスコップ。さらに、ずっしりとした重量感のある黒いロール状の塊――マルチフィルムがそこに鎮座していた。


頭を過るのは、やはりあの嫌悪を抱く黒い影と、虚数と呼ばれる消失した言葉たちの残像だ。

――アレは夢じゃなかったのか。否、そうではないのか。記号のように無意味な、あの裏の世界。浸食された現実世界の境界で、我は確かにこれらを購入したのだ。

挿絵(By みてみん)


だが、よく見ると何かがおかしい。我の記憶が確かならば、それぞれ一挺ずつ購入したはずだった。しかし、箱の中には各種三つずつ、律儀に増殖して詰め込まれている。さらに、おまけと称するに相応しい軍手が一組、一番上にちょこんと載せられていた。


そして、段ボールの側面に、白地に黒い文字で印刷された伝票らしき紙が貼られているのを見つけた。


【せかいやさしい、やさしいせかい。せかいはやさしい】

挿絵(By みてみん)

狂気を感じるほどの同義反復。世界は優しいのか、それとも優しい世界なのか。

我の導き出した答えは、断固として「否」である。世界とは常に、冷酷で厳しい現実を突きつけてくるだけの舞台だ。しかし、その厳しさに怯え、世界を恐れてしまえば、何もかもが手に付かなくなる。世界とはそういうものだ。この理不尽な配給も、何らかの意図があるに違いないが、今は利用できるものは利用させてもらう。


「ところでミツハさん、昨日から今日にかけて、この家の周りで『黒い影』のような不審なものを見かけなかったか?」


「いえ? いつも通り、お店にはお客さんがいっぱい来てくれましたが、そのような不気味なお客さんは一人も来ていませんよ」


「……そうか。なら、いいんだ」


深く追及するのはやめた。理由はどうあれ、実際にあの広大な空き地をどうにか対処するための手段と道具、そして畑へと開拓するための術が今、我の手元に揃ったのだ。

あの記号世界からもたらされた成果の中でも、農業を営む上で『マルチ(マルチング)フィルム』の存在は、計り知れないほど大きい。これから畑にうねを作るにあたって、マルチはまさに必須とも言える大発明なのだ。


ここで、前世の記憶から引き出したマルチフィルムの特徴を頭の中で整理しておく。


《マルチ(マルチング)フィルムの特徴と利点》


土壌水分の蒸散抑制:畝にフィルムを被せることで、太陽光による土中の水分の蒸発を防ぎ、常に適度な湿り気を維持する。


土壌温度の調節(地温安定):外気温の激しい変化から土を守り、作物の根にとって良好でストレスのない環境を維持できる。


雑草の抑制:黒いマルチは光を遮るため、畝の表面から雑草が生えてくるのを完全にシャットアウトする。


肥料の流出および病害の抑制:雨によって土中の肥料が流れ出るのを防ぎ、同時に雨粒が土を跳ね上げて葉に付着することで発生する病原菌の被害を激減させる。


生分解性の存在:使用後にそのまま土に漉き込んで処分できる、環境負荷の低いタイプも存在する(この支給品がそうであるかは要検証だが)。


これほどのメリットを誇る資材だ。可能であれば、その場でお馴染みのVサイン(victory)でも掲げて快哉を叫びたいところだった。

だが、課題がすべて解決したわけではない。


「……あの切り株は、どうする?」


窓の外に見える空き地に点在する、巨大な樹木の切り株。

これらは、新調したスコップで周囲を少し掘り起こせば簡単に抜けるというような生易しい問題ではない。地中深く、網の目のように張り巡らされた根強い根っこがあり、本来であれば油圧ショベルのような重機を用いなければ、人の手で取り除くことは不可能に近いのだ。

なら、どうすればいい。この世界の力で、あれを引き抜く手段はあるのだろうか。


「先輩、やるんですか? ヤサイ作り」


思考に沈んでいた我の顔を、ミツハが覗き込んできた。


「もちろん。というか、いつの間にか『ジョニー』から『先輩』に呼び方が変わっているな」


「えへへ、ヤサイの知識に関しては間違いなく『先輩』ですからね! ちなみに、幸いなことに今日はうちの休店日なのです。つまり、一日中たっぷり先輩のお手伝いができますよ!」


「それは助かる。これで、あの忌々しい荒れ果てた空き地ともオサラバできる第一歩が踏み出せるな」


やったね、と胸を張りたいところだが、切り株の問題は残ったままだ。根本的な解決には至っていない。重機がレンタルできる工事現場のような、都合の良い施設がこの異世界にあるだろうかと考えを巡らせる。だが、この街の主要な輸送手段として見かけたのは、せいぜいパカパカと音を立てて進む《馬車》なる原始的な乗り物だけだった。


やはり、こちらの都合の良いものなど、そう簡単には手に入らないのが現実というものだ。


「よし、役割を分担しよう。我は空き地の雑草をこの新しい鎌で片端から刈っていく。だからミツハさんには、こちらのメモを渡しておくので、これに従って作業をお願いしたい。前に一緒にタネを蒔いたときの要領で頼む」

挿絵(By みてみん)

「はい、かしこまりました! 私にお任せくださいね、先輩!」


空き地へと繋がる勝手口の裏口で、我は細かく栽培手順を記した紙のメモをミツハの手へと託した。ここからは時間との勝負、分担作業の開始だ。

我はこの後、新しき農具であるカマを相棒に、無限に生い茂る凶悪な雑草たちとの過酷な根気比べに身を投じることになる。それは文字通り、地獄が生温く感じられるほどの苦難の始まりであったが、その時の我はまだ、単純作業こそが最も体力を削り、膨大な労力を消費するという真実に、真の意味で気づいてはいなかった。


――ミツハside――


先輩から渡されたメモを両手で大事に持ちながら、ミツハは作り付けの作業台の上に夏野菜の種袋を並べた。


「ええっと、最初のヤサイは……これは《京まつり》? ピーマンの一種、だね。それと、シシトウってものもあるはずだけど……あ、これか!」


ガサゴソと音を立てて、ミツハは《京まつり》と《シシトウ》と書かれた小さな紙袋を両手で器用に振る。

袋を振るという行為自体には、農学的な意味は特にない。しかし、この世界で語り継がれる高名な『先導者チーター』なる偉人も、その最初の一歩は、種の入った袋をリズミカルに振ることから始めて、見事な【お花】を咲かせたという逸話がある。形から入ることは大切だと、ミツハは真剣そのものの表情だった。


「ふむふむ、これらはナスと同じタネの蒔き方でいいのね」


メモを読み解きながら、ミツハは先日先輩が作った「イクビョウバコ(育苗箱)」の手前に立つ。

細い木棒を使い、土の表面に等間隔の溝を掘っていく。列と列の間隔は、およそ八センチから九センチ。そして、その溝の中に落としていくタネとタネの間は、それよりもさらに狭く、〇・五センチから〇・八センチという信じられないほどの狭さだ。ミツハは息を詰め、指先を震わせながら、小さな種を一個ずつゆっくりと慎重に蒔いていく。


書き足された先輩のメモによると、これらの野菜は初期の生育が非常に遅いらしい。

『苗の高さが十二センチ程度にまで成長したら、一つずつ個別の鉢に植え替え、花が咲くまで大事に養成すること』と、几帳面な文字で記されていた。


「花が咲くまで育てるってことは、やっぱりヤサイもお仕事としては《お花》の一種なのね。なのねー。よし、次のタネ蒔きいってみよう☆」


自分で自分を応援するように声を上げ、ミツハは次の袋を手に取った。


「ええっと、次は……しせん……? シセン、四川……あ、『四川キュウリ』だー! キュウリなら私でも知ってる! なになに? こちらも列を細い溝にする、って書いてあるね」


キュウリという植物は、成長すると茎が「つる」となり、上へ上へと這い登るように伸びていき、やがて細長くて瑞々しい、鮮やかな緑色をした棒状の実を成らせるヤサイらしい。実物を見たことはないが、メモの挿絵を見る限りではとても美味しそうだ。


ミツハは、土が綺麗に盛られた育苗箱を見つめ、少しだけ小首をかしげた。

そして何かを閃いたように、手元にあった平らな木片を土の表面に押し当て、縦にすーっと擦り付けるようにして綺麗な直線の列を作っていく。列の間隔は、先ほどと同じく八センチから九センチ。


『タネは、溝の中に横向きで丁寧に並べること。そうすると、最初に開く二葉(子葉)も綺麗に横向きに開く(らしい)』


先輩のメモの語尾に時折混ざる「(らしい)」という言葉に首を傾げつつも、ミツハは忠実に種を横向きに並べていく。どうやら、この世界の環境が暖かければ、わざわざ箱を使わずとも、鉢に直接タネを蒔く「直播き」でも十分に育苗ができるそうだ。


「ある程度成長したら、今度は『支柱』っていう支えの棒を立てないといけないみたいなんだけど……今回はまだ立てなくていいのね。よしよし」


順調に作業を進め、ミツハはいよいよ最後の大きな種袋に手を伸ばした。


「最後は……《カボチャ》なる、少し大きいヤサイ。すごく硬い殻(皮)に包まれていて、その中にある綺麗な黄色の部分が食べられる……へぇ、潰して(マッシュ)サラダにしたり、お肉と甘く煮ても美味しい(らしい)。とっても幅広く楽しめる種類なんだ」


説明文を読むだけでお腹が空いてきそうだった。

ミツハは他の野菜と同じように、栄養のある土をたっぷりと盛った育苗箱の最後の区画へ向かう。だが、ここで先輩から特に強く念を押された注意点があった。


カボチャという植物の茎は、上に伸びるキュウリとは違い、地面を縦横無尽に這い回る「ツタ状」に猛烈な勢いで伸びるらしい。そのため、ある程度苗が育ったら、広大な地面に移植してやらなければ絶対にまともに育たない、と。


メモの最後には、『決して《ぷらんたー》なる小さな箱の中だけで栽培し切ろうなどと考えてはならない』と厳しく戒めるように書かれていたが、ミツハにはその「ぷらんたー」という言葉の意味自体がよく分からなかった。ただ、広い場所が必要だということだけは理解できた。


「うーんと、カボチャのタネの間隔は二・五センチ、列の間隔は九センチから十センチ……。これまでのヤサイよりも種が大きいぶん、数字が細かくて大変だなー」


ミツハは額の汗を小さな手甲で拭いながら、ピンセットを使うような手つきで、一粒一粒、カボチャの種を土へと埋めていくのだった。


――ジョニーside――


「よし、まずはこの目の前の雑草どもを、根絶やしに刈り取ってしまおう」

挿絵(By みてみん)

裏口の前に広がる、一戸建ての住宅が丸々三軒は余裕で建つであろう広大な空き地。その全域を覆い尽くすようにして生い茂る、腰の高さまである雑草の海。

これをたった一挺の鎌だけで刈り切るという行為が、どれほどの時間と労力を費やすものか。下手をすれば今日中には終わらず、明日、明後日へと持ち越される可能性すら十分にあり得た。

我と、異世界の荒地との、孤独で過酷な戦い。その火蓋は、現時刻をもって切って落とされた。これは我にとっての、終わりなき聖戦の始まりだった。


我は前線を駆ける孤高の兵士の如く、荒野に向かって大音量で叫びをあげた。


「ファイトぉ~~っ!! 一発~~っ、ゲキダマァアアアッ!」


前世の記憶の底に眠っていた、某栄養ドリンクの有名なコマーシャルメッセージの文句を、我が今の気分に合わせて大胆にアレンジしたものだ。

一発、魂の底から気合を注入する。

改めて目の前に広がる荒れ果てた土地を見つめると、未だに我が顔は絶望で引きつったままであったが、こうして悠長に構えている時間すらも惜しい。


しっかりと軍手をはめた右手に、新品の鎌を握りしめる。

ザク、と硬い茎に刃を当て、刈り取り作業を本格的に開始した。

正しい草刈りの作法に従い、左手で草の上部をしっかりと掴んで固定し、右手の手首を鋭く返して、根元からばっさりと一気に刈り取る。刈り取った草は放置せず、後で処理しやすいように一箇所にまとめて山積みにしていく。


現状の我にできるアプローチとしては、これ以外に方法が分からなかった。泥臭く、地道に、肉体の限界に挑むようにして鎌を振り続けるしかないのだ。


(……前世にあったような、エンジンで動く金属刃の草刈り機さえあれば、こんな広さ、一時間もかからずに更地にできるだろうに)

挿絵(By みてみん)


そんな無い物ねだりの妄想が頭をよぎる。だが、仮にその機械が奇跡的に空から降ってきたとしても、それを動かすための燃料である「ガソリン」がこの異世界にあるかどうかという問題に突き当たる。結局のところ、今ある道具と、我が五体を使って愚直に進めるのが一番の近道なのだ。


ザク、ザク、ザク、と小気味よい音が、静かな空き地に響き続ける。

どれほどの時間が経過しただろうか。我の背中が強烈な熱を持ち始め、額から流れる汗が目に入って沁みた。


気づけば、我が作業しているすぐ脇の方から、もう一つの小さな草刈りの音が聞こえてきていることに気がついた。


「ふんぬぬぬ……っ! この草、結構硬いです……!」


見れば、自らの担当分の種蒔きを終えたらしいミツハが、我が持っているのと同じ新しい鎌を両手で握り締め、我の動きを必死に真似るようにして雑草の刈り取りに参戦していた。小さな身体を大きく使って草を刈る姿は微笑ましくもあるが、危なっかしくて見ていられない部分もある。

挿絵(By みてみん)

当然だが、農業の経験者であり、肉体の出力でも勝る我の視点から言わせてもらえば、草を刈る効率も、そのスピードも、そして均一に根元から刈る正確性も、我が方が圧倒的に勝っている。


「ミツハさん、無理はするなよ。刃物を持っているんだから、手元には十分注意して――」


「先輩こそ、病み上がりなんですから無理しないでください! 私だって、これくらい……あちゃっ、根っこが固くて切れません!」


そんな他愛のない会話を交わしながらも、我らの手は止まらない。

ザク、ザク、と二つの金属音が重なり合い、少しずつ、しかし確実に、荒れ果てていた空き地に「地面」の姿が露出していく。


時は一刻一刻と、残酷なほどの速さで暮れ方へと移り変わっていく。

空を見上げれば、燃えるような茜色と、深い群青色が混ざり合う、立夏の黄昏たそがれ

長く伸びた我らの影が、刈り取られた草の山の上に投影されていた。


異世界の地を踏みしめ、我らは今、確かに歴史の一歩を刻んでいる。

果てしない荒地が、いつか緑豊かな、命溢れる畑へと姿を変えるその日まで――我らの、地味で、しかし熱い聖戦は、どこまでも続いていく。

挿絵(By みてみん)

つづく。


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