第9話:魔力絶対主義
ギルドの最奥にある応接室。
陶器の擦れ合う高い音が響き続けていた。シルヴィアが温かい紅茶を飲む手はいまだに震え、カップが小刻みにソーサーとぶつかっている。
足元には、クロがレオンの泥だらけの靴を枕にして、気持ち良さそうにスースーと寝息を立てている。
「ド、ド、ドミネイトしていないですって!? レオンさん……あり得ません。私たちの……今までの常識が、根底から覆されました……。私たちが必死に学んできたドミネイトの魔術が、ただの干し肉と金属の板に平伏するなんて……」
シルヴィアは青ざめた唇から、一人の人間としてアイデンティティを粉々に砕かれ、エモーショナルな声を絞り出した。
「むしろ、魔法で魔獣の脳を縛る今のやり方こそ、無知からくる虐待であり、いずれ物流を崩壊させる暴挙だと考えています」
レオンは落ち着き払って愛用のミシンを机の上に置き、布で丁寧に拭きながら淡々と続けた。
「ではなぜ、世界中で年間数百件もの暴走事故が起こるのですか? 暴力的とも言えるドミネイトによるテイムは、恐怖と強制による脳への過負荷――つまり持続的なストレスです。私がやっているのは、動物行動学と言う私の提唱する学問に基づく正の強化です。望ましい行動に報酬を与え、自発的にその行動を選択させる。恐怖ではなく、メリットの提示です」
レオンの言葉に、事故処理の責任者であるシルヴィアは反論の余地もなく押し黙った。
「……おっと、お喋りが過ぎましたね。そろそろロビーに戻りましょう」
「え? なぜですか?」
レオンはカップを置き、静かに扉の方へ視線を向けた。
「聞こえませんか? 表で限界を迎えた哀れな悲鳴が」




