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無能と蔑まれた装備職人、実は【動物行動心理学】の天才でした〜天災と呼ばれるドラゴンを現代知識でしつけたら、ただの角が生えた犬になりました〜  作者: マーゴン
⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎勉強編

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第40話 : 愛と狂気の祭典(後編)〜強くて優しい衛兵たち〜

午後三時。広場の中央に特設された木造のステージから、熱気を帯びた歓声が湧き上がった。

イベントの目玉である『街を守る強くて優しい衛兵さんによる第1回腕相撲大会』の開幕だ。

大仕事を終えたクロは、レオンの足元に敷かれた布の上で「ふぅ」と一息つき、丸くなって休憩していた。

予選は和やかな空気に包まれていた。

ガストン商会の屈強な荷運び人たちや、腕自慢の市民たちが次々と衛兵に挑む。

衛兵たちは和やかに笑顔で手加減をしながらも、最後にはきっちりと「街を守る強さ」を見せつけ、市民からの拍手を浴びていた。

だが、その和やかな空気を一人でぶち壊す男がいた。 「肉ぅぅぅぅ!!」 超食いしん坊の衛兵ゴードンである。

優勝賞品である「超高級霜降り肉」の塊がステージ横に飾られた瞬間、彼の目の色が完全に変わっていた。

「お、おいゴードン、少しは手加減……痛ぇっ!?」

「すまんな! 俺は今日、何が何でもあの肉を食う!!」

肉への執念に憑りつかれたゴードンは、同僚の衛兵たちを次々と秒殺。

容赦なく盤面に腕を叩きつけるその暴走っぷりに、観客からはドッと爆笑が巻き起こった。

そして迎えた決勝戦。

息を荒らげるゴードンの前に、満を持して重厚な足音を響かせる男が現れた。衛兵長バルドだ。

「強くて優しい衛兵、か。ならば、真の力というものを示さねばならんな」 「へ、へへっ……隊長だろうが、肉は譲りませんぜ!」

両者の太い腕が組み合わされる。

試合開始の合図と共に、ゴードンが顔を真っ赤にして渾身の力を込めた。 バキィッ、と台がきしむ音が鳴る。

だが、バルドの腕はピタリと止まったまま、微動だにしない。

涼しい顔で受け止めるバルドは、歴戦の武人としての圧倒的な貫禄を漂わせていた。

「まだまだ鍛錬が足りんな、ゴードン!」

バルドが豪快に笑い、一気に腕を倒す。

ゴードンの腕が盤面に沈み、勝負は一瞬で決した。 「くっそー! 俺の肉がぁ……!」 崩れ落ちるゴードン。

バルドは清々しい笑顔でその肩を強く叩き、健闘を称え合った。

その男たちの熱い姿に、市民から割れんばかりの拍手と歓声が上がり、会場の熱狂は最高潮に達した。

午後四時半。

いよいよ賞品の授与式である。

「クロ、出番だよ」

レオンの合図で立ち上がったクロは、再び荷台を背負い、イベントステージへとトコトコ登壇した。

荷台には、美しく包装された高級肉が乗せられている。

ステージの中央。

クロの前に進み出たのは、優勝者のバルド衛兵長だった。

バルドは、魔竜騒動の際にクロの全開の覇気を正面から浴び、死の恐怖を骨の髄まで刻み込まれた漢だ。

その震えを抑え込むように、彼はゆっくりと息を吐き、クロの目の前で片膝をついた。

(……この黒き獣は、敵ではない。我が街の民を笑顔にする、優しき隣人である!)

バルドは、己の恐怖心に打ち克とうとする武人としての度量を見せ、クロの背の荷台から賞品を力強く受け取った。

そして、微かに震える大きな手を伸ばし、クロの頭を短く撫でたのだ。

「おお、クロか。大役、ご苦労だったな!」 「バフッ!」

衛兵のトップが示したその度量。

それは、広場で見守るすべての部下たちへ「クロは安全だ」と無言の証明を果たす、雄弁なメッセージだった。

大会終了後。

午後五時を回り、夕日が広場をオレンジ色に染め始めていた。

衛兵や市民たちが笑顔で帰途につく中、クロは荷台をつけたまま、閉会の挨拶を行うガストンの隣でビシッと「ステイ」をして待機していた。

「皆様、本日は誠にありがとうございました! これにてお開きといたします!」 ガストンが挨拶を締めくくると、彼は満面の笑みでレオンから預かった特製おやつを取り出し、クロの口元へ差し出した。 「よくやったな、クロちゃん! これはお前の分だ」

クロが喜んでおやつを頬張っていると、その後方から、何故か口元を歪めて破顔したシルヴィアがツカツカと歩み出てきた。

彼女は市民の視線がまだ残っているにも関わらず、クロの横で"わざとらしく"パタンと膝を折り、自身の自腹で用意した超高級肉を、そっとクロの荷台に置いた。

「……これは私からのご褒美よ、食べてくれる?」

「ハフッ! ハッ、ハフッ!」 クロは目を輝かせ、シルヴィアの顔をベロベロと舐め回した。

「ああっ、クロちゃん……! よしよし、いい子ね……ふふっ」

国家の最高監査官が犬に顔を舐め回されて恍惚とするという、少し異様な、しかし最高に微笑ましい光景を以て、セレモニーは大盛況のうちに幕を閉じた。

権力と財力を最大限に活用したこのイベントは、大盛況のうちに幕を閉じた。

非日常の祭りの空気と会場の熱狂に助けられ、衛兵たちはクロと打ち解けたように見えた。

だが、それはあくまで表面上のことである。レオンは冷静に見抜いていた。 彼らの心の奥底に刻まれた「天災への根源的な恐怖」という根本の問題は、まだ何も解決していないのだと。

(彼らの中にある『仲良くしたいという善意』と『抗えない本能的な恐怖』がせめぎ合っている。……ここからが、私の出番ですね)

見返りを求めず奔走してくれたガストンとシルヴィアの想いを無駄にはしない。

レオンは前世で培った【動物行動心理学】の思考モードに入り、衛兵たちの恐怖心を根本から治療する施策を導き出す。

この日を境に、クロを真のマスコットへと導く壮大で温かい「給仕犬マスコット化計画」が、本格的に始動することになるのである。


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