第37話:天災級黒竜vs魔竜アースドラゴン
第1章完結となります。
ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。
お話を書くと言う事にかなり慣れてきた感覚があり、第2章はより詳細に詰めて書いています。
ぜひ引き続き読んでください!
「クロ。戦線が整うまで少しだけ、時間を稼いでくれ」
レオンの静かな指示を受け、街への侵入を阻止するため、ここで初めてクロが動いた。
「グルルルゥ……」
クロはレオンの前へ静かに歩み出ると、生半可な力ではどうにも出来ない事を察して「黒竜としての、全開の覇気」を凄まじい衝撃波と共に撒き散らした。
ドォォォォォンッ!!
空間そのものが歪むような、天災そのものの絶対的捕食者のプレッシャー。
後方に控えていた衛兵やギルドの冒険者、街の人々は一斉に恐怖で膝をつき、呼吸すら困難なほどの威圧感に包まれていた。
死の恐怖が直接脳髄を焼く感覚。
その圧倒的な絶望の渦中で、這いつくばった衛兵の一人が震える視線を上げた先。彼らは信じられないものを見た。
天災が放つ覇気の直近、その真横に立っているというのに、魔力をほとんど持たないはずの職人レオンは、汗一つかかず、平然と眼鏡の位置を直していたのだ。
(ば、馬鹿な……っ! 息をするのすら命がけのこの状況で、あの男、顔色一つ変えずにただ突っ立っているのか!?)
実際にはマウンテンブリーザーによる魔力軽減の恩恵と、研究者としての冷静さでクロを見守っているだけなのだが。
恐怖で身動き一つ取れない群衆の目には、その常軌を逸した静けさが『天災すら手懐ける、底知れぬ絶対者の余裕』として強烈に映り込んでいた。
しかし、正面からその全開の覇気を浴びた魔竜アースドラゴンもまた、例外ではなかった。
「ギャァァァッ!?」
真の頂点からの圧倒的な気迫に直面した魔竜は、狂乱状態から一転して本能的な恐怖に完全に支配され、逃走を開始した。
あまりの圧力に完全に気圧され、来た道を大断絶山脈の深部へと、脱兎のごとく逃げ帰っていくのだった。
脅威が去り、クロが覇気を収める寸前。
レオンの脳にかつて黒竜と対峙した時と同様の魂の慟哭が起こった。
(主よ、力を解放した今しか伝える事が出来ないようなので、場違いは承知で思いを伝えたい) (あの哀れな地竜の姿は、かつての私そのものだ。強大な魔力と孤独に苛まれ、ただ心を壊すしかなかった。……だが、私はお前に救われた。あの澄んだ音と、極上の温もりを知った。私は今、最高に幸せだ。たとえこの先、世界の全てを敵に回そうとも、私はお前の『犬』として、永遠にお前の隣に在り続ける)
レオンは、周囲の空間が陽炎のように歪むほどのすさまじい覇気の中心にいるクロへ、一切の躊躇なく手を伸ばした。
そして、かつて大断絶山脈の雪原で初めてそうしたように、犬のそれではなく、竜の硬い額を優しく撫でる。
「ありがとう、クロ。お前は私の大切な家族だ。……あの竜も、いつか必ず、一緒に救おう」
(ああ……お前と共に行く道に、一切の後悔はない)
クロは至福に目を細め、ゆっくりとその漆黒の覇気を霧散させた。
静まり返る荒野と城壁。人々は激しい恐怖にガタガタと震えながらも、時間をかけて目の前の光景を理解し始めた。
「……また、あの黒い魔道犬と、職人さんが……俺たちを救ってくれたんだ」
誰かがポツリと呟いた。
その言葉を皮切りに、恐怖を押し殺して感謝すべきとじわじわ周囲が判断し、一人、また一人と声を上げ始めた。やがてそれは、地天を揺るがすほどの「レオンとクロへの賞賛の大歓声」へと伝染して行った。
「レオンさん! クロちゃん! ありがとう!!」
歓声の中心で、兵士と一緒に動けなくなっていたルカは、クロの圧倒的な力と、それを従えるレオンの大きな背中に、深い憧れと尊敬の眼差しを向けていた。
レオンは人々の不器用な歓声に優しく手を振って応えつつも、その眼差しは、遠ざかる魔竜の背中を静かに見つめていた。
(……救えなくて本当にすまない。)
レオンはポケットの中のクリッカーを強く握りしめた。
(いつか必ず、私の技術で恐怖の呪縛から救ってあげるからね)
魔法至上主義の常識を壊す熱い誓いを、誰にも告げず、自身の胸の内に深く秘めたのだった。
第一部 完
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