第36話:魔竜の咆哮
アルベールらを取り押さえた直後だった。
ズシン、と地響きが起こり、街の外から大地を震わせる恐ろしい咆哮が轟いた。
「――ッ!!」
ギルド内の窓ガラスがビリビリと震える。アルベールたちを追ってきたアースドラゴンが、すぐそこまで迫っていたのだ。
咆哮の距離からして、街の中に侵入されればグランバザールは一瞬で火の海になる。
「ひぃぃっ! 来た、あいつが来たんだ!!」
アルベールが頭を抱えて悲鳴を上げ、泣き叫び失禁する。
床に倒れていたエレノアも顔面を蒼白にして後ずさる。
「嘘でしょ……こんな所まで追ってくるなんて! ルクレツィア! 早く防魔結界を張りなさい! 」
エレノアの金切り声に急かされ、半狂乱に陥っていたルクレツィアが震える両手を前に突き出した。
「ひ、ひぃぃっ! 結界……結界を……っ!」
彼女は自身の命綱である国宝級の防魔結界を展開しようとした。
しかし、極度の恐怖によって正気を完全に喪失し、限界を超えて何重にも重ねがけをした結果、防魔結界はあっけなく自壊。パリンッ、と甲高い音を立てて魔力の壁は砕け散った。
「この目で直接確認します! ガストンさんは住民の避難をお願いします!」
レオンは白銀の獅子の醜態を一瞥もせず、冷や汗を拭い鋭く指示を出すと、クロと共に急いで城壁の外の荒野へと急行した。
城壁の門を抜けた先。
巻き上がる巨大な土煙の向こうから、どす黒い呪詛を纏ったアースドラゴンがその姿を現した。かつて彼らと共に旅をした誇り高き姿はそこにはなく、もはや魔竜と呼ぶのが相応しい。
その巨体から放たれる圧倒的な魔力と殺意に、城門を守護していた衛兵たちは腰を抜かし立てなくなってしまう。
レオンは眼鏡の位置を直し、マウンテンブリーザーを起動して魔力の圧を軽減しながら、研究者の目でその状態を瞬時に、かつ冷静に観察した。
充血した眼球、異常に腫れ上がった首筋の血管、そして自身の体を傷つける事さえ自覚出来ない無軌道な動き。
(……ダメかもしれないな)
レオンの脳内で、プロフェッショナルとしての冷徹な分析が下される。
(これまでのドミネイトによる慢性的なストレスに加え、過酷な使役が引き金となり、脳が完全に限界を超えている。今のあの極度のパニック状態では、俺の言葉もクリッカーの音も決して届かない。今この場で救うことは不可能だ)
魔法を使わないレオンの技術は、相手が「学習できる精神状態」にあって初めて成立する。狂乱の極致にあるアースドラゴンを前に、レオンは正気に戻す術がない事を悟り、防衛戦力が整うまでの時間を稼ぐしかないと判断した。
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