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無能と蔑まれた装備職人、実は【動物行動心理学】の天才でした〜天災と呼ばれるドラゴンを現代知識でしつけたら、ただの角が生えた犬になりました〜  作者: マーゴン
第1章 物流革命

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第35話:英雄たちの失墜

その日の午後。大盛況のグランバザール冒険者ギルドのロビー。

レオンは、シルヴィアやルカと共に、新設した魔獣専用の憩いの広場(魔獣のためのドッグラン)の書類手続きを和やかに行なっていた。

その時、凄まじい騒音とともにギルドの重厚な扉が乱暴に押し開けられた。

「はぁっ、はぁっ……!」

現れたのは、かつての輝かしい白銀の聖鎧を粉々に砕かれ、目を血走らせながら泥と血、そして極度の恐怖による己の失禁にまみれた勇者アルベールだった。

英雄の面影など微塵もない。

その後ろから、力なく足を引きずって入ってきたのは宮廷魔術師のルクレツィアだ。

彼女の瞳は完全に虚ろで、凍傷で赤く腫れ上がった両手には、泥だらけになった「防寒外套の端切れ」がすがるように固く握りしめられている。

そして最後に、純白の法衣の汚れを最小限に抑え、二人とは明確に距離を取って歩み入る聖女エレノアの姿があった。

ギルド内の空気が凍りつく中、アルベールはロビーにいるレオンの姿を見つけるなり、血走った目で剣を抜き、狂ったように突進してきた。

「レオン!! お前、お前が未踏破地帯に入る直前にアースドラゴンの装備に施した妙な細工のせいで、あいつが暴走したんだ! お前が余計なことをしなければ俺たちは完璧だった! 責任を取れ! 今すぐあれを止めろ!!」

己の無能を棚に上げた、完全な責任転嫁。

だが、レオンが口を開くより早く、背後のルクレツィアが糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

「違う……違うのよ……」

ルクレツィアは握りしめた端切れを胸に抱き、絶望の涙をボロボロとこぼしながら床に額を擦り付けた。

「未踏破地帯の極限環境で、私の国宝級の防魔結界すら破綻しかけていたのに……この布の繊維、熱対流の遮断と衝撃分散の精度……。あの過酷な環境下でアースドラゴンを守っていたのは、私の魔法なんかじゃなかった……! 私たちは、なんて恐ろしい才能を捨ててしまったの……。ごめんなさい、ごめんなさいレオン……私たちが、無能な愚か者だったわ……!」

「黙れルクレツィア! 狂ったか!」と怒鳴るアルベール。

そこへ、冷ややかな声が響いた。

「……ええ、狂っているのはあなたよ、アルベール」

聖女エレノアが、軽蔑しきった瞳で勇者を見下ろしていた。

「私たちは確かにこれまで一流のパーティとして機能していたわ。でも、それは安全な領域での話よ。『未踏破地帯』という極限の環境で、これまで通りの『ドミネイト』で負荷をかけ続ければどうなるか……。挑む直前に加入したレオンの完璧なケアがあったからこそ、あのアースドラゴンはギリギリで正気を保てていたのよ。それを理解できず、彼の技術を捨てて魔力だけで支配できると過信したあなたの無能さが招いた結果よ」

エレノアはアルベールを冷酷に切り捨てると、艶やかな笑みを浮かべてレオンへと歩み寄った。

そして、あろうことかレオンの腕に自身の豊満な身体をぴったりと密着させ、熱を帯びた上目遣いで甘く囁きかけた。

「レオン。私はこの愚か者たちとは違うわ。あなたの技術の素晴らしさを一番理解できる……。どうか、私をあなたの陣営に加えてちょうだい? 私の高度な回復魔法と……お望みならこの『身体』も、必ずあなたの役に立つわ」

これまでの栄光を即座に捨て去り、自身の生存と利益のために女の武器すら躊躇なく使う、鮮やかな寝返り。

しかし、レオンが溜息をついてその腕を振り払おうとした瞬間。

「……気安く触るなッ!」

ギルド内の空気が物理的な圧を伴って凍りついたかと思うと、隣にいたシルヴィアが恐ろしい膂力でエレノアの腕を乱暴に引き剥がし、そのまま床へと無慈悲に突き飛ばした。

「きゃああっ!?」

床に倒れ込んだエレノアを見下ろすシルヴィアの全身からは、目に見えるほどのどす黒い殺気が立ち昇っていた。彼女は般若すら生ぬるい、凄まじい大激怒の形相で抜剣した勇者をも鋭く睨みつけ、地を這うような声で言い放った。

「私の……っ、愛する、愛するレオンさんにその汚らわしい肉体を擦り付けた挙句!今更すり寄ろうなどと……万死に値します!! 今すぐその薄汚い口と浅ましい根性を縫い合わせ、豚の餌にしてやりましょうか!!」

さらにその直後、「何事だ!」という怒声と共に、騒ぎを聞きつけたガストンが多数の衛兵を引き連れてなだれ込んできた。日々のウォーキングで少しだけスリムになった彼の顔には、明確な怒りが浮かんでいた。

「レオン殿! ご無事か! ええい、この街の恩人であり我が神とも呼べるレオン殿に対し、抜剣するなど何たる暴挙! 衛兵、その薄汚い男を今すぐ取り押さえろ! そこの床に這いつくばっている女たちもまとめて叩き出せ!!」

「なっ……なんだお前たちは! 俺は勇者だぞ!」

喚くアルベール、泣き崩れるルクレツィア、そして床に突き飛ばされて顔を歪めるエレノア。周囲の冒険者たちからも「今や街の英雄であるレオンさんになんて醜態を」と冷ややかな蔑みの視線が注がれる。

その中心で、二人の強烈すぎる「レオン至上主義(狂気)」の爆発を背後で見ていたレオンは、この異常事態の中、それを塗り替えてしまう程の衝撃に冷や汗を流していた。

(……えっ? 神? えっ?愛する? いや、ちょっと待っ……どうしてそんなことに……?)

レオンは本気でドン引きし、思わず数歩後ずさった。

かつて彼を追放した天才たちは、レオンに触れることすらできず?ガストンとシルヴィアの圧倒的な権力と狂信的気迫の前に、叩き潰されたのだった。


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