第34話:魔竜の誕生
グランバザールが平和と繁栄を謳歌している頃。
再び、大断絶山脈の深部。猛吹雪の中、勇者パーティ『白銀の獅子』は完全なる破滅の時を迎えていた。
「ガァァァァァァァァァッ!!」
ついに、アースドラゴンのストレスと脳への過負荷が臨界点を突破した。
ドミネイトの強制支配に対する凄まじい拒絶反応。
肉体のリミッターが完全に外れ、アースドラゴンの美しい鱗はどす黒く変色し、全身から呪詛の魔力を撒き散らす天災級の「魔竜」へと変貌を遂げたのだ。
「くそっ! なぜ俺の命令を聞かない! くたばれ、欠陥トカゲめ!!」
パニックに陥ったアルベールが狂ったように最強の攻撃魔法を連発する。
しかし、光の刃も、狂暴化した漆黒の皮膚に触れた瞬間に虚しく弾き返され、傷一つ負わせることができない。
「ひぃっ……! いや、こっちに来ないで!」
無様に逃げ惑うアルベールをよそに、宮廷魔術師のルクレツィアは雪の中にへたり込み、かつてレオンが残していった防寒外套の端切れを力強く握りしめていた。
(絶対的な熱遮断と、衝撃分散のロジック……。この布一枚に、どれほどの途方もない計算と技術が込められていたのか……っ!)
今更になって、自分たちが捨てた男の常軌を逸した価値に気づいた。
彼がいなければ、自分たちはただの雪山の遭難者であり、魔獣一頭まともに管理できない無能だったのだ。
「私たちは……なんて取り返しのつかない本物の『天才』を、捨ててしまったんだ……!」
ルクレツィアは絶望の涙を流し、後悔に泣き叫んだ。
一方、聖女エレノアは極めて冷静だった。
(馬鹿馬鹿しい。ここで死ぬ義理はないわ)
彼女はいち早くアルベールを肉壁にするようにして自身の安全を確保し、温存していた魔力を使って命からがら逃走を開始した。
パーティは完全に瓦解した。
彼らは迫り来る魔竜の圧倒的な恐怖に怯え、誇りも何もかも投げ捨てて、最寄りの大都市であるグランバザール方面へと惨めに逃げ延びていくのだった。
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