第33話:物流革命のタイムライン
数ヶ月の月日が流れた。
ついにオルセン率いる量産工房から出荷された『マルチフィットサスペンションキャリア』は、中部の物流網を完全に席巻し始めていた。
その仕様は、極めてロジカルかつ革命的だった。
首、胸、胴回りに配された伸縮魔繊維の帯と、締結圧を均等にする『レースアップシステム(調整式編み上げ構造)』
これにより、各サイズの許容範囲内であれば、サイドのベルトを一本引くだけで、自動的にその個体の最適な荷重分散位置へジャストフィットする。
「木製サドルに比べて軽量で省スペース、その場で着せられ、すぐに積載量を一・五倍に増やせる」。その劇的な即効性とコストパフォーマンスが最大の武器だった。
普及の波は早かった。
最初のひと月、ガストン商会長が息のかかった運送業者に一斉導入させた。
その圧倒的な成果――暴走事故がゼロになり、魔獣の疲労度が激減したこと――さらに試作品を事前に使っていた個人行商人のトトが、口コミで仲間たちに猛烈に拡散したのだ。
「レオン先生の装具は奇跡だ! うちの老いたミュールが、また元気に歩けるようになったんだ!」
オルセンの工房の前には、アイテムを求める商人たちの長蛇の列が毎日途切れなくなる。
半年が経過する頃には、グランバザールおよび周辺都市の物流魔獣の実に四割にこの装具が普及していた。
かつては街の風物詩とまで言われた「魔獣の暴走事故」は、この半年間で30%減になった。
レオンの技術は、社会のインフラそのものを優しく塗り替え始めたのだ。
一方、この独占流通によって莫大な利益を上げたガストンは、レオンの勧めで高級嗜好品である歩数計の魔道具を購入し、自身の運搬魔獣と共に、毎朝一万歩の散歩と食事管理を続けるようになっていた。
「はっはっは! どうだシルヴィア殿、この軽やかなステップは! まだ少し肉はあるが、見違えるほどスリムになっただろう!」
「ええ、会長。ですが、それもこれも全ては我らがレオン様の偉大なるご指導のおかげですわ!」
ガストンとシルヴィアは、定期的に商会の奥室で「レオン様とクロちゃんの尊さを語り合う秘密のお茶会」を開いては、レオンの一挙手一投足を語り合い、周囲の職員たちから盛大にドン引きされるという、平和で狂気に満ちた日常を謳歌していた。
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