第32話:バディ初めてのノーズワーク
ある日の午後。グランバザールの街が騒然としていた。
有力貴族の幼い子供が迷子になり、さらに凶暴な野生魔獣が生息する「旧地下水道」へ迷い込んだ可能性があるという大事件が発生したのだ。
冒険者ギルドの探索部隊や魔法使いがすぐさま動員されたが、事態は難航していた。
旧地下水道は複雑な魔力の乱れが発生しており、魔法による生体探知が完全に無効化されていたのだ。
「ダメだ、魔力探知が弾かれる! 目視で探すには広すぎるぞ!」
焦燥感が街を包む中、「俺とバディに行かせてください!」と声を上げたのは、一番弟子であるルカだった。
大人たちが「子供のテイマーに何ができる」と渋る中、ルカの瞳には確かな自信が宿っていた。
ルカは、バディの鼻先に子供が脱ぎ捨てた上着を近づけた。
「バディ、匂いを覚えて。……サーチ!」
それは、レオンから毎日丁寧に教わっていた、正の強化(おやつによる報酬)に基づく『嗅覚追跡』だった。
バディはドミネイトによる強制ではなく、大好きなルカとの「楽しいゲーム」として、尻尾を振りながら驚異的な集中力で地面の匂いを嗅ぎ取り始めた。
魔法の乱れなど、バディの純粋な嗅覚には何の関係もない。
暗く入り組んだ地下道。バディは迷うことなく進み、やがて崩落しかけた瓦礫の隙間で泣き叫ぶ子供を発見した。
その時、暗闇から野生の魔獣が子供を狙って飛び出してきた。
「グルルゥゥッ!!」
バディは一歩も退かず、鋭い牙を剥いて猛烈な威嚇の咆哮を上げた。
その気迫に気圧された魔獣が逃げ去る隙に、ルカは迅速に子供を抱き上げ、救出に成功した。
地上に戻り、無事に子供を親の元へ送り届けたルカとバディを、集まった街の人々が割れんばかりの歓声と拍手で迎えた。
「すごいぞ、坊主!」「魔法も使わずに見つけ出すなんて、本物のテイマーだ!」
ルカは照れくさそうに頭を掻き、バディの頭を力いっぱい撫でた。
街の片隅でドミネイトに頼らずとも、魔獣と人間が強い絆で結ばれ、奇跡を起こせる。
ルカとバディの確かな成長が、街の景色を少しずつ、しかし確実に変えていた。
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