第30話:激突!オルセンvsマイスターギルド
ガラルド帝都での目的を完璧に完遂したレオン一行は、長居することなくグランバザールへと帰還の途についた。
道中、ルカは馬車に揺られながらもバディと共に「待て」や「お座り」の基礎訓練を繰り返し、レオンの技術を少しでも吸収しようと奮闘していた。
その直向きな姿を、レオンとシルヴィアは微笑ましく見守っていた。
数日後、グランバザールに到着した一行。
街の門をくぐると、この世界ではごく当たり前の日常風景が広がっていた。
首に嵌められた魔道具から鈍い光を放ち、感情を消された『グランドバイソン』が重い建築資材を引きずり、路地裏では『キャトルタスク』が痛覚を麻痺させられたまま、荷車に鞭打たれて歩いている。
ドミネイトが、人々の生活インフラとして完全に馴染みきっている光景だ。
しかし、ガラルド帝都からの道中ででレオンの技術を目の当たりにしてきた15名のマイスターたちは、その光景を見て密かに眉をひそめていた。
彼らもまた、レオンの生み出す「痛みのない世界」の美しさを知ってしまったからだ。
一行を大歓喜で迎えたガストンだったが、彼が用意した広大な量産工房にて、早々に大きな問題が発生した。
プライドの高いガラルド帝都の職人たちと、地元の頑固職人オルセンが、革の乾燥度合いや縫製のピッチ管理などの作業工程を巡って激しく衝突してしまったのだ。
「ガラルド帝都の湿度は低い! だからこのなめし方が最高なんだ!」
「馬鹿野郎、ここは中部の盆地だ! この土地の湿気には俺のやり方じゃなきゃすぐに革が傷む!」
怒鳴り合う職人たち。一歩も引かない両者を見かねて、レオンが静かに仲裁に入った。
「言葉でぶつかるより、職人らしく技術で語り合いましょう」
レオンは両者に、同じ硬質魔獣革と図面を手渡した。実演勝負である。
ガラルド帝都の職人たちが手慣れた様子で縫製を進める中、オルセンはレオンから直伝された方法で「手縫い針」を手に取った。
「……シューッ」
オルセンが短く息を吐いた瞬間、その手の動きが変わった。
レオンから教え込まれた、繊維を一切殺さない完璧な「手縫いのピッチ」
ガラルド帝都の職人たちすら目を見張る圧倒的な速度と精度で、極厚の革が次々と縫い合わされていく。
さらにオルセンは、現地の気候に合わせた革の伸び縮みすら計算に入れた微調整の最適解を、見事に作品に落とし込んでみせたのだ。
「……負けた。あんたの技術と、この土地を知り尽くした勘には敵わねえ」
ガラルド帝都の職人の一人が脱帽し、頭を下げた。
「あんたがこの工房の棟梁だ。指示を出してくれ」
その言葉に、オルセンは照れ隠しのように鼻を鳴らし、「おう、ビシビシしごいてやるから覚悟しろよ」と笑った。
こうして、グランバザールに最強の量産体制が構築された。
熱気を帯びる工房の隅。
レオンとシルヴィアは、足元で丸くなるクロを優しく撫でながら、量産ラインが美しく稼働していく光景を穏やかに見つめ合っていた。
シルヴィアは、ガラルド帝都で感じたような激しい感情を静かに胸の奥にしまい込んでいた。
今ここで強引に恋を進展させようとは思わない。
ただ、大好きなレオンとクロのすぐ側にいられること。
そして、彼の描いた優しい夢が形になっていく瞬間を特等席で見守れることに、純粋な幸福感と愛おしさを噛み締めていた。
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