第18話:魔獣の拒食を治す出汁
10日目、ガストン商会のステーブルで、獣魔の管理主任であるミレイナが頭を抱えて泣きそうな声を上げていた。
「どうしよう……。運搬魔獣たちが、みんな元気がなくて、ご飯を全然食べてくれないの。このままだと、明日の便が出せないわ……」
それを聞いた作業中のレオンが手を止め、魔獣房の中の魔獣たちを観察する。
せっかくの広い空間にお粗末な柵を置き、魔獣を閉じ込めている事で、まるで並んだ牢屋のようになっている
レオンはひとしきり歩いて全ての魔獣と目を合わせ、状況をその目で正確に把握した。
「これは……『学習性無力感による拒食』ですね」
「がくしゅうせい……むりょくかん?」
ミレイナが瞬きをする。レオンは頷き、魔獣房の配置を指差した。
「ドミネイトがかかった状態で狭いところに無理矢理押し込んで動けないようにしているため、過度なストレスがかかっています。
結果、『何をしても無駄だ』と心を閉ざしてしまっているのです。ミレイナさん、まずは魔獣房の柵の配置を変えて、お互いの顔が見えるようにしてください。それから、これを試してみてください」
レオンが懐から取り出したのは、旨味成分(前世の出汁)を濃縮した液体で農作物を炒った特製のふりかけだった。
「これはギルドの一般的な餌ではなく、旨味成分を濃縮した特製のふりかけです。いつものご飯に少しだけ混ぜてください。香りで嗅覚を刺激し、思考が鈍っている脳が覚醒します」
ミレイナが半信半疑でふりかけを混ぜて与えると、それまで横たわっていた魔獣たちが、ピクリと動いた。そして、貪るようにガツガツとご飯を食べ始めたのだ。
「あ、あわわ! 食べた! みんながご飯を食べてるわ!」
ミレイナは涙を流し、レオンの手を握りしめた。
「レオンさん、あなたこそが、私の救世主様だわ……!」
11日目、レオンが市場での買い出しの帰りに大通りを歩いていると、1人の40代くらいの働き盛りの見た目の行商人が、涙を流しながら老いたアースミュールの首を抱きしめている場面に遭遇した。それが二人の最初の出会いだった。
「すまねえ、すまねえな……。ドミネイトの維持費ももう払えねえ。お前を引退させてやる金もないんだ……」行商人は人目もはばからず嘆いていた。放っておけなかったレオンは優しく声をかけ、トトと名乗った行商人に翌日自分の工房へ来るよう伝えていた。この出会いが、街の物流を根底から覆す火種になるとは、まだ誰も知らなかった。
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