第15話:技術の証明
ルカとバディと別れたその足で、レオンはガストンの紹介を受け、地元の老革職人オルセンの工房を訪ねた。
『マルチフィットサスペンションキャリア』の量産に向けた協力を仰ぐためだ。
しかし、頑固一徹で知られるオルセンは、事前に展開図を受け取っており、工房に入るなり作業台を叩いてレオンを怒鳴り散らした。
「ガストンの旦那の紹介だから会ってやりゃあ何も出来なそうなおっさんじゃねえか、こんなひ弱ですぐに壊れそうな装着具が、魔獣の役に立つわけねえだろ! 魔獣の荒ぶる力に対抗するには、肉厚の頑強な革と、力で強引にねじ伏せる構造が必要なんだよ! 職人の世界を舐めるな、若造が!」
職人気質の激しい拒絶。シルヴィアがハラハラと見守る中、レオンは動じず、オルセンに話しかける。
「オルセンさん。では、少しだけ私の仕事を見ていただけますか。加工が非常に難しく、縫い上げるのにも多大な時間と労力がかかると噂される、その極厚の魔獣革を一枚、貸してください」
「ああん!?……ふん、口だけは達者なこった。ほらよ、手こずって泣き言を言うなよ」
オルセンから渡されたのは、並の職人では針を通すことすら困難な、硬く分厚い魔獣革だった。
レオンは深く息を吐くと、円筒形の比較的安価な魔道具『パッとスタンド』のボタンを押すと、魔力によって軽量かつ頑丈な木目調の作業テーブルが「パッと」展開された。
簡素だけど便利で、職人から行商人まで誰もが持っているベストセラーであり、レオンも出先でのミシン作業や打ち合わせに愛用しているものだ。
その上に自身の作業道具を展開し、革を据え、レオンは作業を始めた。
それから、レオンは一切の妥協なく、オルセンが行なっているであろう手縫いで作業を進めていく。
チク、チク、チク、チク
驚異的な集中力で右手を動かし続けた。
ウルフマークⅡの作成時に、一緒に作っておいた、ミスリル合金を精密に削り出した特製の縫い針を使用して、極厚の魔獣革を縫い上げていく。
三時間が経過し、作業が完了する。
「……できました。確認してください」
それは構造がシンプルな職人用の道具入れではあったが、オルセンのその目は驚愕に見開かれた。
そこには、人の手業とは思えないほど、寸分の狂いもない均一なピッチで美しく縫い上げられたステッチがあった。
本来であればこの素材は極厚であるため特別頑丈で針の通りが悪く、扱いが難しい。オルセンの技術をもってしても丸1日はかかるであろう見事な加工が、完璧に成し遂げられていたのだ。
「……バカな、この厚みの加工が難しい素材を、こんなに綺麗に。わずか三時間で……? お前さんのその技術、一体どうなっていやがる……!」
レオンが普段使っているミシン『ウルフマークⅡ』は、この世界には存在していない、前世の知識からレオンがオリジナルで作成した彼専用の道具であり、使った事のない一般の職人がそのまま量産に使えるものではない。
そのため、レオンは今回あえてミシンを使用せず、卓越した「指先の技術」そのものを見せる事で情熱を持って取り組んできた職人である事を証明した。
プライドは崩れ去ったが、オルセンの職人としての純粋な敬意が胸を突き動かす。
彼は深く頭を下げ、真摯な声で言った。
「……偉そうに言ってすまなった。大言壮語でも何でもねえ、お前の腕は本物だ。……レオン、頼む。見窄らしいプライドはたった今捨てた。俺にその縫製のコツを、技術を教えてくれ。お前の指導を仰ぎたい!」
「ありがとうございます、オルセンさん。よろしくお願いします」
レオンは静かに微笑み、固く握手を交わした。
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