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無能と蔑まれた装備職人、実は【動物行動心理学】の天才でした〜天災と呼ばれるドラゴンを現代知識でしつけたら、ただの角が生えた犬になりました〜  作者: マーゴン
第1章 物流革命

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第14話:孤児の少年

クゥーン、クゥーン……。

細く、震える鳴き声が、建物の隙間の薄暗い路地裏から響いていた。

レオンが足を止め、視線を向けると、そこには泥と煤にまみれた、一人の孤児の少年がいた。

名前はルカ。親を亡くし、このグランバザールの底で必死に飢えをしのいできた、鋭くも寂しげな瞳をした11歳ほどの少年だった。

ルカは、自身の小さな身体で庇うようにして、一頭の傷ついた野良の魔導犬を強く抱きしめていた。

その犬は、右の前足から酷く出血しており、ガラスの破片が深く突き刺さったまま、患部が痛々しく腫れ上がっている。

「薄汚い野良の魔獣なんか放っておけ」

「下手に近づいて噛みつかれたらどうする。衛兵を呼んで処分させろ」

路地の間から覗き込む大人たちは、ルカと犬を見ると途端に汚い物を見る目に変わり、冷酷な言葉を吐き捨てるだけで、誰一人として手を差し伸べようとはしなかった。

「この子はひどい怪我をしてる! 俺だって、こんななりだけど悪い事はしてないんだ! 頼むから……誰か、助けてくれよ……っ!」

ルカは周囲の大人たちに届かぬ叫びを上げ、悔し涙を流していた。

レオンは静かに歩を進め、薄暗い路地裏へと足を踏み入れた。その隣には、シアンブルーのドット柄セーラーベストを着たクロが、レオンの右側にぴたりとくっつくヒールで寄り添っている。

「なんだお前……! こいつを殺しに来たのか!?」

ルカが野生の小動物のように身を硬くし、大人への強い警戒と敵意が混ざった目をレオンに向けた。

「私はレオン。殺しに来たわけじゃないよ。君のお名前は?」

レオンはルカを刺激しないよう、ゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。

「俺はルカ、この子が、足が大変なんだ!」

錯乱した様子で助けを求めるルカへ、優しい声でレオンは続けた。

「ルカくん、僕は君の敵じゃない。多分そのままにしておくと、その子の足が腐ってしまう。……少しだけ、私に診せてごらん。専門ではないけど、出来る限りの処置をしてあげるから」

レオンの物静かで、嘘のない誠実な声。

そして隣に立つクロが、敵意がないことを示すように優しく「ふにゃあ」と鼻を鳴らした。その不思議なほど穏やかな空気に、ルカは思わず毒気を抜かれ、そっと腕の力を緩めた。

「……本当に?治せるのか?」

「出来る限りの事をすると、約束するよ」

レオンは手際よくカバンから、薬草を調合して作った特製の痛み止めの軟膏を取り出した。そして、犬型の魔獣の足に深く刺さっていたガラスの破片を、洗練された器用な指先の動きで一瞬のうちに抜き去る。

「キャンッ!」

一瞬だけ短い悲鳴を上げた魔獣だったが、すかさずレオンが腫れ上がった患部へ丁寧に軟膏を塗り込むと、ひんやりとした強力な薬効によって劇的に痛みが引いていくのを感じ、安堵したように細い息を漏らした。

仕上げに、レオンはカバンから、クロのセーラーベストを仕立てた際に余った、シアンブルーに白い水玉模様の伸縮魔繊維の端切れを取り出した。

「ほら、僕の家族と同じ柄なんだよ。この綺麗な布を包帯の代わりに使ったら、この子ももっとかわいくなるよ」

手際よく布を手縫いし、魔獣の細い足へ適切な圧をかけてくれるレッグウォーマーにする。

痛みが和らぎ、右足に爽やかなシアンブルーの水玉のレッグウォーマーをつけた魔導犬は、嬉しそうに耳を震わせ、レオンの指先をペロペロと優しく舐めた。

「す、すげえ……! 魔法も使ってねえのに、おっさん、すげえな!」

ルカは目を限界まで見開き、大興奮で声を上げた。

魔獣を暴力やドミネイトでねじ伏せる大人しか見たことがなかった少年にとって、レオンの手際は衝撃そのものだった。

「この子は君のことが大好きなんだね。……ルカ、この子に名前はあるのかい?」

レオンの問いかけに、ルカは少し照れ臭そうに、しかし愛おしそうに犬の頭を撫でながら、レオンがつけてくれたレッグウォーマーを見つめた。

「ううん、名前はまだなかったんだ。でも……今決めた。おっさんから貰った綺麗な水玉の布をつけてるから……この子の名前は『バディ』にする。俺の、たった一人の大切な相棒だからな!」

「バディ、か。いい名前だ」

レオンが微笑むと、ルカはレオンとクロの姿をじっと見つめ、その胸の内に強烈なエモーションを滾らせていた。

「なぁ、おっさん。おっさんと、その黒い魔獣……クロ、だっけ? 二人を見てると、街にいる威張ったテイマーたちと全然違うんだ。お互いに、すげえ信じ合ってて、大好きなのが伝わってくるっていうか……。俺とバディも、おっさんたちみたいな関係になりたい!」

ルカの瞳には、ドミネイトという強制の魔法ではなく、レオンとクロが紡ぐ、言葉を超えた本物の「絆」への深い憧れが宿っていた。

そこへ一部始終を見ていたシルヴィアがギルドの魔術師を連れて戻ってくる。

「ボク、お金はいらないから、お友達の足を少しだけ見せて欲しいの」

シルヴィアの連れてきた魔術師は決して優秀ではなかったが、バディに自己治癒力をあげる魔法をかけてくれた。

「お姉ちゃんもありがとう!俺はルカでこいつはバディ!今はお金はないけどいつかお返しが出来るように、俺頑張るよ!」

この日を境に、ルカは路地裏でバディを相手に、レオンがクロに行っているペットトレーニングの真似事――おやつの欠片を使いながら「ヒール」や「ステイ」を覚えさせようと、一生懸命に挑戦し始めるのだった。

ルカの真っ直ぐな瞳に見送られながら、レオンは『マルチフィットサスペンションキャリア』の量産という次なる任務のため、地元の老革職人の工房へと歩みを進めた。」


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