第13話:虜を増やす新衣装
「よし、クロ。新しいお洋服の採寸をしようか」
6日目、レオンは完成したばかりの『ウルフマークⅡ』の試運転としてクロを側に立たせた。
「ハフ?」
クロは不思議そうに首を傾げる。レオンはメジャーを手に取り、クロの身体に慎重に触れた。
「ネックが65センチ、レッグの間隔が……うん、ここを通常の物より広く取らないと、走るときに大胸筋の動きを阻害してしまうな」
プロの職人としての滑らかな手つき。あらゆる箇所の寸法をミリ単位で計測し、触診で骨格と筋肉の可動域を計算していく。
その様子を、シルヴィアは感心したように見つめていた。
「ただの服、ではないのですね。まるで、精密にサイズを合わせた鎧を設計しているようだわ」
「犬の服は、人間以上に激しく動くために、機能性が求められますから」
レオンはガストンから通常より少し安く譲り受けた『水霊蜘蛛の涼感魔糸』と『耐魔極薄ソフトレザー』を広げた。
これまでの雪山用の重厚なチェック柄から一転、平原の暖かい気候に合わせ、爽やかなシアンブルーに大きな白い水玉模様をあしらった『お散歩レトロドットのフード付きセーラーベスト』を仕立てていく。
前世のロジックを応用し、外からの熱線を反射しつつ、体熱と蒸気を効率よく逃がす透湿・遮熱効果を持たせた最高の一着だ。
さらにリードには、レオンの手首のミリ単位の合図がダイレクトに伝わるよう設計にこだわり抜いて、最高級の『聖獣のヌメ革』を採用した。
「さあ、着てごらん」
7日目の朝、新しい服を身に纏ったクロは、見違えるほどお洒落で愛らしくなった。
「ハフッ! ハフッ!」
嬉しそうにステーブルの中をトテトテと駆け回るクロ。その姿に、ガストン商会の従業員たちからも「なんてお洒落な!」「可愛い!」と黄色い歓声が上がる。
この新調された可愛いお洋服を身に纏ったクロは、前よりも散歩に出かけたがるようになり、街の住人たちとの交流をさらに深めていく。
ガストン商会のステーブルには、大人しくて巨大な亀の魔獣「ロックトータス」がのんびりと運搬用魔獣に積載するための荷物を運んでいた。それを見つけたクロは、短い尻尾をプロペラのように全力で振りながら「トテトテ」と駆け寄り、ロックトータスの大きな足元で、お互いに鼻先を突き合わせてクンクンと挨拶を交わす。そんな最高に微笑ましい日常の光景が、見る人の心を和ませた。
しかし、町に来てから8日目になる翌日、買い出しの途中で通りかかった薄暗い裏路地から、レオンの耳に、まだ幼い魔獣の悲痛な鳴き声が届いた。レオンとクロは、示し合わせたようにピタリと足を止めた。
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