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無能と蔑まれた装備職人、実は【動物行動心理学】の天才でした〜天災と呼ばれるドラゴンを現代知識でしつけたら、ただの角が生えた犬になりました〜  作者: マーゴン
第1章 物流革命

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第12話:ウルフマークⅡ

4日目の午後、ガストン商会のステーブル(魔獣宿舎)の一角を借りた臨時の工房で、

ガストンとレオンが今後のビジネスについての意見交換と、他愛のない世間話を交わしていた。

その中で、レオンが語る魔獣や道具への飽くなき情熱、そして澱みなく溢れ出る専門知識に、ガストンは圧倒されていた。

「私が開発した『マルチフィットサスペンションキャリア』の普及には、魔獣たちの身体への負荷を極限まで減らしたいという思いがあります。……私は、人間の都合で動物たちが痛い思いをし、傷ついていく状況が許せない。彼らが苦しむ姿を見るたび、激しい憤りを覚えていました。だからこそ、その残酷な現状をこの手で少しでも改善するために、結果としてクビにはなってしまいましたが私は『白銀の獅子』へと参加したのです」

真っ直ぐに前を見据えるレオンの瞳には、魔獣への深い愛情と、それを支える確たる技術への自信が宿っていた。

ガストンは息を呑み、目の前の若者を凝視する。

(……この男は、正真正銘本物だ。ただの利口な職人ではない。魔獣に対する底知れない愛と情熱、底のない探求心、そしてそれを形にする圧倒的な知識と技術を持っている。この才能は、いずれこの国の物流を、いや、世界を変える。これから手にするであろう莫大な利益のためにここで恩を売っておくのではない。この歳まで生きてきて初めて、私はこの少年の情熱と技術に、心底惚れ込んでしまったのだな。彼の歩む道を、商人として、個人としての全てを賭して支えよう――)

ガストンは胸の中で、レオンへの助力を一切惜しまないことを固く誓った。

その後、他の職人が作りやすいよう更に改良を加えた試作品の作成のためにレオンは黙々と作業を続けていた。

ミシン『ウルフマークⅠ』の駆動音が、わずかに高い。金属が擦れ合う微細な違和感が、レオンの右手に伝っていた。

(……部品の摩耗が、いよいよ限界か。こいつを使い始めてから20年になるか。そろそろ考えないとな)

レオンが作業を止めて問題箇所の確認をしていると。

古いお茶を淹れ直したカップを持ったガストンがやってきた。

「レオン殿、一度休憩に……おや、その『縫製の魔道具』、調子が悪いのか?」

「ええ。これは魔道具ではありませんが、長年連れ添った相棒です、いろんなところがそろそろ限界に来ているようですね」

ガストンはカップを置くと、不敵な笑みを浮かべた。

「ふふん、それなら良いものがあるぞ。最高の職人には、最高の道具が必要だ。1日待っておれ」

5日目の朝、ガストンがステーブルの奥から仰々しく持ち出してきたのは、1つの木箱だった。

蓋を開けると、中から神秘的な光沢を放つ塊と部品が現れる。

「これは……ミスリル合金塊?」

「それだけではないぞ。『ミスリル合金製の超硬質精密ギア』、名は迅速、そして我が商会の中部流通ルートでも滅多に手に入らぬ『深海鯨の極上潤滑油』だ。お主のその腕なら、これを使ってさらにいい性能の道具を作れるのだろう?」

レオンの目が、純粋な技術者として爛々と輝いた。

「……素晴らしい。これほどの素材、職人冥利に尽きます。ガストン様、ありがとうございます。ミスリルほど強度のある合金なら、温めていた改良型――『ウルフマークⅡ』を形にできます」

その夜から、レオンは寝食を忘れて工房に引きこもった。

シルヴィアは、工房の隅の仮眠用のソファでクロと一緒に毛布にくるまりながら、その様子をじっと見守っていた。

カチャ、カチャ、と精密な部品を組み付ける音が響く。レオンの手元は、まるで現代の精密機械のように正確で、無駄がなかった。

前世のミシンの基本構造――足踏み式のアシスト機構や、自動糸調子の概念を、この世界の魔力を帯びた素材と融合させていく。

「できた……」

5日目の深夜、完成したのは、従来の『ウルフマークⅠ』よりも一回り頑強でありながら、どこか洗練された流線型のボディを持つ『ウルフマークⅡ』だった。

あえて「右手による手回し式」のハンドルは残してある。

これにより、針が布地を突き抜ける瞬間の抵抗や、糸の締まり具合といった「微細な情報」が、寸分の狂いもなくレオンの右手にダイレクトに伝わる。

さらに、摩擦係数を『深海鯨の極上潤滑油』によって極限まで減らし『余ったミスリル合金を精密に削り出した針』を導入したことで、いかなる硬質の魔獣革をも、繊維を傷つけずに縫い上げることが可能となった。

「レオンさん、それは……?」

起きてきたシルヴィアが尋ねる。

「私の、新しい相棒です」

レオンは誇らしげに、しかし静かに眼鏡を直した。

レオンは完成した流線型のボディを撫で、誇らしげに、しかし静かに眼鏡を直した。

その新しい相棒が紡ぐ最初の奇跡は、翌朝すぐに披露されることになる。


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