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第五話 予期せぬ目覚め

閲覧ありがとうございます!

魔法練習回……のはずでした。



「そもそも何で俺を解雇しようなんて思ったんですか」

「あ! そうだった。もしかしてあなたって……いいところのお坊ちゃんだったりする?」

「会話をして下さい」


 何とか額の指紋を消し去ることに成功した私は、外を歩きながらヘルバートと建設的な会話を楽しんでいた。

 そして互いへの配慮がない二人は、同時に声を発する。

 ――相手の問いかけに答える形で。


「解雇した理由? 身の危険を感じたからだけど」「俺は別にお坊ちゃんってほどの身分でもありませんよ」


 喋るのに一生懸命な私は、ヘルバートの言葉を全く聞き取れなかった。

 ヘルバートは先にどうぞと、手で促す。


「解雇したのは、身の危険を感じたからだってば」

「身の危険? 俺がお嬢に危害を加えるとでも?」

「うん。寝込みを襲われたら、たまったもんじゃないじゃない」

「まどろっこしい言い方ですね……」


 既に前科有りなのだ。この男は。


「……いくら俺でも、互いの同意も無しに夜に女性を襲ったりしませんよ」

「えぇ!? 同意があっても暴力は駄目だと思いますけど!」

「あ。面倒だな」


 ヘルバートは何かを察したような顔をしたと思えば、私の事を完全に無視し始めた。

 残念だが、これ以上は建設的な会話は不可能なようだ。


「じゃあ、はい。次どうぞ」

「俺が『お坊ちゃん』かどうかですね。答えはノー。俺は普通の人間です」

「みんな普通の人間だよ……」

「あのね、お嬢がそれを言いますか? 街を歩けば、店の品に難癖ばかりつけて困らせる。心優しい人間を搾取し、用が済めば捨てて知らんぷり。献身的な人間も、気に食わなければ容赦なく解雇。――そう、長年お側で仕えている俺でさえ、身勝手にも解雇しようとした。言いたくは無いですが、異常者ですよ」

「言ってる言ってる」


 ヘルバートが段々となじる口調になってきた課と思えば、毒を吐く。

 吐くどころではない、口内に毒を擦りつけてきている。


「さては、今朝の解雇宣言を相っ当恨んでるね?」

「さぁ? 話を戻しますが、俺は貴族サマでもないけれど、顔は広い方ですよ。冒険者ギルドで飯を食わせてもらう内に、知り合いが増えたんでね。お嬢に見初められたのも、俺の名がある程度広まったからです」

「……そっか」


 私は項垂れた。


(ごめん、ヘルバート)


 トリーゼとヘルバートの出会いは、申し訳ないが全く記憶にない。

 確かに、薄っすら触れた様な気がする。

『冒険者ギルドのエースであったヘルバートをトリーゼが無理矢理引き抜いた』とか。

 おそらくトリーゼが強引にヘルバートを従えたのだろう。

 意外にも彼の口調は穏やかなのが唯一の救いか。


「はい、ここですよ」


 ヘルバートの声が沈黙を破る。

 彼に案内されたのは、我がファルシカ家の庭。

 これでもかという広さを誇るこの庭は、騒音対策も完璧。誰かに見られる心配もない。

 私の魔法練習にうってつけの場所なのである。


「俺、長年お仕えしてきてお嬢が魔法を使う姿を見たことがありませんけど」

「もしかして、私って魔法使えない?」

「知りません。こっち見ないで下さい」

「使わないのには理由があったのかな……」


 私は物語の中で「魔法」に言及したことは無い。

 ならば、「使わない」というより、「使えなかった」のではないだろうか。

 だとすると、非常~~~に困った。

 みなが忘れかけていた借金一億ルシカ。

 魔法によってクエストを華麗に捌き、そして優雅に返済する。

 天才的なプランが早くも頓挫寸前だ。


「一応、教えて。魔法はどうやって使うの?」

「感覚です。こればかりは本人の資質に左右されるので何とも言えません。座学である程度掴むことは出来ますが、限界がありますね」

「そう! じゃ、まずは座学から……」

「嫌ですよ。突然、外に連れ出せとゴネたのはお嬢じゃないですか」

「嘘、有り得ない。弟子を放置するなんて!」

「そもそも、誰がいつお嬢に教えるって言ったんですか」

「…………」


 ここに来るまでの道のりで、「魔法を使ってみたい」という私の希望に「魔法? いいですよ」。

 彼は二つ返事でそう答えた。

 だからこうやって鼻息を荒くして庭まで来たのだ。

 だが彼の言葉の正体は、「教えてあげます」などと言う甘い言葉では無かった。

「勝手にしてください」。苦い一言だったのだ。






「こう、なんか、手からぐっと……。ふん! ふん!」


 手を伸ばし、想像で力を込めてみる。

 無論、お優しきお師匠様は遥か後方のお木陰でお腕組をしている。


「お、何か分かって来たかも」


 何か、空気の流れが変わってきた気がする。

 見えない何かが集まって、集合している。

 一点に向かって集まって、集まって、集まって、集まって、集まって、集まって、集まって、集まって、集まって、集まって、集まって……。


(ななな、なんか、ちょっとマズくない……?)


 吸い込まれる点の力が加速度的に強くなる。

 得体のしれない何かが、想像を超えた何かを生み出そうとしている。


(ぎゃー! ヘルバート!)


 先生!と背後を見ると、あろうことか彼は明後日の方向を見ていた。完全に外に気を取られている。


(馬鹿! アンポンタン! ……大変。本当にマズいかも)


 力を込めるのを止める方法が分からない。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。点に向かって集まって。

 ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。押し込められる。

 そして収束し――、突然、全てが、ピタリと止む。


(――――――……へ?)


 ドゴッ


「お、お嬢~~~~~っ!!!!」


 快晴の青空に打ち上げられた私を見たヘルバートの叫びが、徐々に消えていく。

 青空を飛ぶ影は、既に意識を失っていた。



 ドスン


 無様な墜落。

 ヘルバートは流石に焦り、全力疾走で彼女に駆け寄った。

 トリーゼに魔法は使えまいと、たかをくくっていたのが誤りであった。


「う……」


 背中から墜落したにもかかわらず、トリーゼは小さく呻き、上半身をむくりと起き上がらせた。美しい銀髪がシャラリと彼女の肩を撫でる。

 長い睫毛に縁どられた瞳が、ゆっくりと世界を捉える。


「お嬢、大丈夫ですか……?」


 ヘルバートは手を差し伸べた。


「ヘルバート」

「……っ!」


 彼の名を呼ぶたった一言。

 それだけで彼の指先がピクリと震える。

 ヘルバートの手に、細長く美しい指先が重ねられた。

 それは精錬され、計算された所作である。

 ――彼らを中心に世界が、灰に塗り替わっていく。


「相変わらず、紳士的な男だわ」


 妖艶にかつ冷ややかに。彼女はうっそりと微笑んだ。


お読みいただきありがとうございました!

出ました、前トリーゼ。

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