↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

第二十七話 余計な一言

閲覧ありがとうございます!

 ガッシャ―ン


 マリアはいい子だ。とても。

 健気で一生懸命。真面目で正直者だ。


「マ、マリア……。これは……あなたが?」


 私は粉々になったガラスを指差す。

 遥か前方の芝生には、花瓶の破片が散乱していた。


「トリーゼお嬢様……。申し訳ありません……」

「一応、何があったか聞いても良い?」

「花瓶を運んでいたら躓いてしまって、窓ガラスに向かってぽ~んと……」

「あぁ、だから花瓶の欠片が芝生に飛び散ってるんだ……」


 目の前の光景を目にした時は理解が出来なかったが、やっと何が起きたのか理解することができた。


「け、怪我はなかった?」

「はい!」

「ならいいんだ……」


 と、私は魔法で破片をかき集めた。

 彼女は目を輝かせてそれを見ている。


「魔法、いいですね。羨ましい」

「マリアはもう十六歳だっけ。でも気を落とすことは無いよ。私はこの年で使えるようになったんだから。運、運」

「そう、なんですね。不思議です……」

「ね~」


 破片を集め終わった私は、マリアに向き合った。


「これは私が片付けておくから、マリアは食堂に行ってきなよ。お昼の時間じゃない?」

「でも、トリーゼお嬢様にこんなことさせられません!」

「平気平気。ヘルバートによくやらされるから」

「ヘルバートさんはトリーゼお嬢様を第一に考えるお人ではないのですか」

「そんな怖い顔しないで。ヘルバートはああ見えて、ちゃんと仕事はするから大丈夫」

「……違う」


 マリアが小さく何かを呟いたが、その声をかき消すようにヘルバートの声が届いた。


「お嬢!」

「何~」

「狙撃されたかと思う程の衝撃音が聞こえたのですが、御無事ですか!?」

「花瓶が窓ガラスを突き破って庭に飛んだだけ」

「花瓶が飛び……?」


 ヘルバートは私が指差す方向を見て、マリアを見た。

 全てを理解し、頷いた彼はマリアに一点を示す。


「君は昼ご飯を食べてきてください。後は俺がやります」

「申し訳ありません……」


 しょんぼりと肩を落とすマリアを二人で見届け、顔を見合わせた。


「マリアを迎え入れたお嬢が、全責任をもって彼女の面倒を見て下さいね」

「連帯責任じゃないの? 主人に一切合切を押し付けるのはどうかと思うなぁ」

「俺は、お嬢と違って忙しいので」

「私も! 忙しいんですけど。……そう言えば、ローザの行方が掴めたんだっけ」


 リスクを冒し、クラリーネの屋敷に行った収穫は十分にあった。

 消えたローザと顔見知りの人間が、金と引き換えにぼろぼろと吐いたそうだ。

 ヘルバートは手早く掃除を済ませながら言った。


「ローザは城下のパン屋の方に伝手があるとか。謎の大金を持って消えたそうです。しばらくはそこで身を隠すそうなので、今しらみつぶしに店を調べています」

「国外には逃げなかったんだ」

「まだお嬢を諦めていないってことでしょう。一層、警戒を強めた方がいいですね。……そう言えば、お嬢のお腹はどうですか? 何か異変が起きたりしていませんか?」

「最近はあんまり。多分、お腹が痛くなる時って私がローザに精神を乗っ取られようとしている時なんだと思う。勝負に負けたら私は意識を失うし、勝てばこの体は無事私の物」


 しかし、負け続きの戦だ。

 腹痛は不意に訪れ、防ぎようがないのだ。

 物理的に腹部を攻撃することでローザからの干渉を防ぐことが出来なくもないが、みっともないのであまりしたくない。

 あれは最終手段だ。


「そう言えば今朝、お嬢はお腹が痛いと言ってませんでしたか?」

「あれは下痢」

「言わなくていいです」

「自分から聞いたくせに」


 ヘルバートはわざとらしく耳を塞いだ。



 +*+



「マリア、何したい?」


 その日の午後。私はマリアを庭に呼んだ。

 ヘルバートは城下町に行ってしまったので、正直暇なのだ。

 ロメオは意外にも、本業でやる事があるみたいだし。

 マリアの気分転換になれば良いと思った。


「お庭が見たいです!」

「じゃあぐるっと歩こう」


 二人して並んで歩いていると、久しぶりにマルルスを見かけた。

 剪定ハサミの音にいちいち怯えつつも、彼に近付く。

 彼は私達に気付き、麦わら帽子を取って挨拶をした。

 流石、あの意外と生真面目ロメオ君の親だ。

 きちんとしている。


「トリーゼお嬢様と……どなだでずがね」

「最近お勤めをさせていただいてます! マリアです!」

「あ、分かるんだ。マルルス語……」


 聞き馴染みのないであろうマリアでさえ、彼の方言が理解できている。

 これは一種の呪いだ。悲しい事に私だけが彼の言葉を聞き取れない。

 シャイラに解呪を相談してみようか。


「どうぞ、みていっでぐださいな。なにがあれば、わたじにおっじゃってくだざい」

「ありがとうございます!」


 マリアが何かいい感じに返事をしているから、話はまとまったのだろう。

 跳ねるようにして先を歩くマリアの後を、ニコニコしながら追いかけていると、

 彼女はふと足を止めた。


「どうしたの?」

「……この木」


 彼女は大木を見上げていた。

 ピンク色の花弁を溢れんばかりに咲かせる美しい樹だ。


「その木は昔からあってね――……」

「私、この木はちょっと、苦手です」


 そう言うマリアの目には、光が無い。

 遠くにいるマルルスがぴくりと反応したのが見えた。


閲覧ありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。