第二十話 正午過ぎは昼ご飯
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どうして、私が正座をさせられているのでしょうか。
ベッドの上で項垂れる私を、なぜ彼は見下ろしているのでしょう。
「どうして……? 私が悪いの……?」
「いつから起きてたんです?」
「いつだろう、ヘルバートが夜這いしてきた時かな……」
「よばっ、……なぜ寝たふりを?」
ヘルバートが組む腕を変えた。
「すぐいなくなると思ったんだもん。知らないもん。毎夜毎夜、ヘルバートが私に向かってぶつぶつ独り言を言ってたなんて」
「つまり、意識を戻したのは、つい数十分前なんですね?」
「はぁん。数十分も一人で語ってた自覚はあるんだ……っ、あいだぁ!」
鍛えられた腕から炸裂した拳骨は、私をベッドに沈ませる。
「また気絶したらどうしてくれるの! 次はもう十年くらい目覚めないもんね!」
(でも悪役令嬢トリーゼは多分、十年も生きれない。近い将来殺されちゃうだろうなぁ)
ほんの冗談のつもりだった。
しかし、ヘルバートは睨んでいた。
声を低くし、ありったけの怒りをぶつけてきた。
「二度とそのような冗談は言うな」
「わ! 口、強!」
「おふざけに乗るつもりは無い。冗談でも、目覚めないなんて戯言は言うな。言わないで下さい」
「ご、ごめん……」
正座は土下座がしやすい。
謝るには最適の基本姿勢だと思う。
「色々聞きたいことはあるんですが、お嬢も聞きたいことがありそうですね」
「うん、めちゃくちゃある」
「どっちから質問をしますか」
「その前に」
私はすっと手を挙げた。
ヘルバートがどうぞ、と促してくる。
大欠伸をしたら、両目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
限界だ。
「もう眠いので、明日にしませんか?」
「……」
ヘルバートは、いいえと首を振る。
「え、駄目なの!?」
「いえ、その、お嬢に眠って欲しくはなくて……」
「不眠症になる」
「もう目覚めないんじゃないかと思うと、怖いんです」
私は言葉を失った。
あのヘルバートがちょっと塩らしいのだ。
なんと彼は、私が悪役令嬢トリーゼになってしまうことを、恐れている。
(この半年間、一体何があったの)
まぁ、知ったこっちゃない。
本当に申し訳ないが、私はその場で気を失うように寝てしまった。
+*+
「ふああ~」
「おはようございます」
大口を開け、私は固まる。
既に正午を回っていることに驚いたのではなく、ヘルバートが傍にいたことに驚いている。
「うわぁ!」
「遅いお目覚めですね」
「いつからそこに……」
彼はニコリと笑った。
「昨日の話の続きをしましょうか」
「ここで?」
「ここで、です」
「一旦、身支度を整えても良いですか」
「着いて行きます」
「来るなぁ!」
私は駆け出した。
一心不乱に廊下を走り、お手洗いを済ませ、顔を洗い、衣裳部屋から適当な服を着て自室に戻った。
時間にして約五分。
「お待たせ!」
肩で息をする私を出迎えたのは、湯気を立てる紅茶と朝ごはん。いや、昼ご飯。
「昼食をご用意しました」
「あ、もうお昼判定なんだ。……ありがとう」
私が手を伸ばすと、ご飯が一歩遠のいた。
寝起きの頭では、地味な嫌がらせごときでも容易にイラつくことが出来る。
「意地悪しないで! こっちは腹ペコなの!」
「答えて下さい」
「分かったから、早く頂戴」
「お嬢はローザという人間を知っていますか?」
「誰……?」
私の反応に軽く頷いたヘルバートが、私の隣に座る。
珍しく、彼がやや緊張していることが伺えた。
「お嬢を乗っ取った人間の名前です」
「私を?」
「はい。お嬢と入れ替わり、傍若無人に振る舞った元凶となる人間。お嬢はローザに恨まれるような心当たりがあるのではと思ったのですが……」
「当然、無いよね。だって品行方正だもん」
「…………」
「何か言いなよ」
ヘルバートがため息を吐いて、私のご飯を横取りした。
「正直、俺はお嬢の意識が戻らなくてもいいと思っていました」
「え……? やっぱり私の事、大嫌いだったの?」
「いえ、好きですが」
「は?」
「その話は改めてしますから、今は忘れて下さい」
ヘルバートが曰く、私の体にローザがいる間、ローザの体はおそらく寝たきりなのだそう。
だから、この半年間、昏々と眠る女性の体を探し求めていたそうで……。
「何か、その言い方厭らしいね」
「はったおしますよ」
「その表現もなんか……卑猥」
「はぁ、どうして俺はあなたなんかが好きなんでしょう」
「待ってよ、シャイラは? 泥沼三角関係が破綻しちゃう!」
ヘルバートが無言になった。
かと思えば、おもむろに立ち上がる。
目の前に立ったかと思えば、彼は私の口いっぱいにご飯を詰め込んできた。
食道まで押し込まれたかと思ったところで解放される。
「これでしばらくは静かになりますね。黙って聞いて下さい」
「ぐっ」
「詰まったら喉に手を突っ込んであげますよ。戻そうものなら、俺の口で塞いであげます」
(嫌! なんかヘルバート、変態臭い!)
室内が静かになったことに満足したヘルバートが、口を開いたその時。
一気に室内が、いや屋敷内が騒がしくなった。
「あの女はいるかぁ!?」
屋敷内に怒号が轟いたのだ。
若干聞いたことのある声に私は冷や汗ダラダラ。
「……様子を見てきます」
出て行こうとするヘルバートに私は抗議した。
(駄目! 行かないで!)
「心配しなくても、すぐに戻ります」
(違う! 会いたくない! 絶対あの人だ!)
何を勘違いしたのかヘルバートが、暴れる私の頭をポンポンと叩く。
「平気です。お嬢を狙う人間は、俺が排除しますから」
「ちが」
「だから、待っていてください」
「いや、その人は――っぐ」
喉にパンが詰まった。
胸が苦しい。
「借金取りなんだってばー!!」
虚しい私の方向は、ヘルバートには届かない。
あぁ、そうだ。
私は一億ルシカの借金を、半年以上も踏み倒していたのだ。
(いっその事、私の意識が無い間に来て欲しかった……)
近付いてくる怒号を耳にしながら、私は最後の晩餐を楽しんだ。
昼ご飯だが。
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