第二話 箒の使い方くらい分かるけど
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何も考えずに読んでください。
「たのもー!」
木製扉をバーン。
ギルドの扉を勢い良く開けると、大勢の人間が驚いて振り返った。
その驚きは、徐々に別の驚きに塗りつぶされていく。
「何でトリーゼ様が?」「うわ、厄日だ……」「また俺達を侮辱しに来たのか?」「なぁ、帰ろうぜ。また明日来よう」「早く帰ってくんねぇかな」
(んんんんん、全部聞こえてるぅ!)
ザクザクと突き刺さる視線の剣を受け止めながら、私は瀕死状態で受付に駆け込んだ。
受付のおねぇさんは、化け物を見たかの如く後ろに飛びのき、叫ぶ寸前。
そこに救いの手が差し伸べられる。
「失礼。突然押しかけてしまい申し訳ない。このお方が冒険者の方々の仕事ぶりを拝見したいとのことで、アポイントもなく押し掛けてしまいました。どうかご容赦を」
ヘルバートがよそ行きの顔で微笑む。
その甘い視線は、男女問わずイチコロだった。受付のおねぇさんが一枚の紙をおずおずと差し出す。
「で、では一番簡単なクエストから……」
「ありがとうございます。これですね? 『猫探し』。……止めましょう。お嬢は動物に好かれる人ではありませんから。『配達』? ……すみません、別のを。お嬢は人に物を投げつけそうだ。……『掃除』。よし、ありがとうございます。これならお嬢でも出来そうです」
えげつない取捨選択をし、ヘルバートはお情けのクエストを持ってきた。
クエストというか、受付のおねぇさんが困りに困った末に編み出した仕事だが。
「じゃ、これ持ってください」
「箒」
「流石ですね」
「え、今何を褒めたの?」
――まさかこの道具の名称を言えたこと?
「じゃあ、使い方を教えます。バサバサした方が下で……」
「いや、別に箒の使い方くらい分かるけど……」
ぼとり
(あ、落ちた)
落ちた箒を拾い上げ、見上げると――。
「うっわ、何でそんな驚いてるの」
「それはこちらの台詞ですよ。お嬢、本当にどうしちゃったんです」
「そ、そんな真剣な顔をされましても……」
鬱陶しいから放っておこう。
私は箒を手にし、枯葉を集め始める。
じゃっじゃっ、とレンガと箒がこすれる規則的な音だけが響いていた。
「ふい~。こんなものかな」
ぐぅ~~
気が付けば夕方になっていた。
受付のおねぇさんが粛々と差し出してきたサンドイッチをたらふく平らげたというのに、もう腹の虫が鳴り始める。
腹の音と共に鈍い痛みが。
(う。これいつ治るのかな)
「後はこれを運ぶだけ……あら?」
私が木葉の山に近付いた時、誰かの影が落ちた。
その先には一人の男性が。
「ファルシカ家の寄生虫め」
「……?」
「てめぇ。お優しいあの方々に拾われたからって、調子に乗るなよ!」
「……?」
これは……、もしかしなくとも私に言われている?
状況からして完全にトリーゼを憎む輩から因縁をつけられている。
いやいや、それよりも……。
(私のファミリーネームって『ファルシカ』なんだ……)
作者の私が知らない衝撃事実。
ぶっちゃけ貴族のカッコイイ名前とか分からないので、ファーストネームだけで何とか誤魔化して書いてきたのだ。
「お前に言ってんだよ!」
「うわ! ごめんなさい!」
男は私に向かって、唾を吐きかけんばかりの近さで怒号を浴びせてきた。
成人男性に頭ごなしに怒鳴られる経験はしたことがない。
私はすっかり委縮し頭が真っ白になってしまった。
「お前自身には何の力もねぇ癖に、オヤジさん達の力を借りて威張るばかり。挙句の果てには、あのヘルバートの坊ちゃんを小間使いしやがって! 何様のつもりだ!!」
「す、すみません……」
「さっさと消えてくれよ! お前のせいでこっちは家財を売り払うしかねぇんだよ! どうしてくれやがる! 俺には嫁がいる! 三歳になる息子がいる!」
「何のこと――」
(うっわ。アレだ…………)
私には心当たりがあった。
トリーゼはクライスを狙っていた。
ぶっちゃけ顔はヘルバートの方が好みだけれど、クライスと結婚すれば国を意のままに操れる。
打算100%でクライスにアプローチをしていたのだ。
当然、クライスはシャイラと結ばれる運命のため、トリーゼはクライスから死ぬほど嫌われ、無視をされ続けていた。
が、そんなことでヘコたれてもらっては悪役令嬢として成り立たない。
そう。トリーゼは空気と人の気持ちをガン無視し、クライスにつきまとっていたのである!
話が逸れたが、クライスの関心を買う為にトリーゼは、とあるプレゼントを用意していた。
国一番の職人に大金を払うことを約束に、最高峰のレイピアを作らせていた。
が、ストーリーの都合上、トリーゼがレイピアを渡せばハッピーエンドまでひと悶着が発生する恐れがあった。断罪は目前まで来ていたというのに。
かと言って無理矢理レイピアを渡して強引に最終回を迎えれば、「あのレイピア何の意味があったの?」とクレームになりかねない。
本当に大変申し訳ないが、面倒そうなプレゼント回を作者権限で消滅させるべく、「指定した納期に間に合わなかった」という言いがかりで、一方的に製作依頼を揉み消したのだ。
多分、その後トリーゼは職人に一銭も支払っていないのだろう。この感じ。
(くそ、支払い完了の描写を書いておけばよかった)
「どうしてくれやがる!」
激高した男は、数時間かけて積み上げた葉の山をいとも簡単に破壊した。
辺りに木の葉が散らばる。
「大変申し訳ございません。後で全額支払わせていただきます」
「俺をコケにするのも大概にしろよ? 誰がてめぇの言葉を信じられる?」
「確かにっ!」
「『確かにっ!』じゃねぇ!」
「うわわ! 落ち着いて下さい! すみません!」
とりあえず誠意を見せねば。
どうしようと俯くと、箒を握る自分の指に光る物を見つけた。
おぉ、何かすごく高そう。
「こっ、これを、前金として受け取って下さい……」
「……これは」
「指輪です。多分稀少かつ、おそらく大粒の宝石をはめ込んであるので、とても価値があるかと思われます。これを売れば――」
「っざけんな! こんなお宝売ったら、盗人と勘違いされるだろうがよ! これは国宝レベルの代物だ! というか、大昔に俺がクライス様に献上したんだよっ!」
「えぇ~!」
た、大変。
この世界は知らないことが多すぎる!
お読みいただきありがとうございました!
トリーゼはなぜあの指輪を持っていたのでしょうか。。




