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第十七話 結局飲めなかった

閲覧ありがとうございます!

フワッとお読みください!


 ――そこそこ騒がしい昼下がりのギルドに、二人はいた。


 私はずずず、とよく分からない冷たくて甘い飲み物をすする。

 ロメオはブラックコーヒーをゆっくりと飲んでいる。

 大人ぶっちゃって。


「猫舌?」

「味わってんだよ」

「ここは喫茶店じゃないよ」

「じゃあ! とっとと! 決めろ!」


 ロメオは机の上に広げられた依頼書を、目の前に突きつけてくる。

 国家治癒魔法士のロメオがいれば、少々ランクの高いクエストに挑めるという事を初めて知った。

 つまり、初心者でも随行者によって受注できるランクが異なるというのだ。


 あち、と舌先を出したロメオが口を開いた。

(やっぱり猫舌なんじゃ)


「ヘルバートさんとなら、もっと上位のクエストに挑めるんじゃねぇの」

「駄目。どさくさに紛れて私が殺されるから。あの人、私に長年の恨みがあるんだよね」

「ヘルバートさんの気持ち、痛い程分かるぜェ」

「ロメオのはたかが数週間でしょ」

「濃密で濃厚な忘れられない数週間、な」

「げぇ。気ん持ち悪い」


 当然だが、ロメオは嫌がる私の顔を見て物凄く嬉しそうだった。


「ヘルバートねぇ……」


 よく分からない飲み物に映った、ぼやけた自分の姿を見ながら考えに耽る。


 彼の考えは私にも分からない。

 私はヘルバートの弱みを握り、彼を傍に置いているに過ぎないことだけが確か。

 一体その弱みとは何なのか。

(ヘルバートの隠し持つエグめの性癖とかだったりして)

(……いや、考えるの止めておこう)


 しかし、歪な関係だとしても、彼は私から離れる気が無いと言う。


(できる限り、ヘルバートのお荷物にはなりたくないね。自分で出来る事は、頑張らなくちゃ)

 勿論、ロメオの協力は計算外だ。


「じゃ~、これ!」


 私は目を瞑り、一枚を指差す。

 ロメオはついに、コーヒーにふーふーと息を吹きかけ始めた。


「『従業員の失踪により急募・楽ちんお手軽な農作業』だって」

「……オレの出る幕ねぇじゃん」

「でもランク高めだよ。魔法が使える人って条件があるからかな」

「見せて見ろ」


 ロメオがついにコーヒーをグイ、と飲む。

(あ、顔顰めた)

 顔を顰めたのは、熱さのせいだけではなかった。

 勿論、ブラックコーヒーの苦さのせいでもない。


「……この住所。評判悪い貴族の土地だ。きなくせェな」

「へぇ。鼻も舌も敏感だね」

「オマエいいのか? 一応、ファルシカ家のお嬢サマだろ。泥仕事するキャラでもねぇし」

「いい……んじゃない?」


「立場を考えたらどうかな」


 私の手から、一枚の紙が乱雑に抜き取られる。

 こんな事をするのはヘルバートくらいなものだ。


「ちょっと、私の栄えある自立生活に口挟まないでよね。よいですなぁ! 借金が無い裕福なお方は! さぞかし贅沢で……たらふく……美味しいご飯……を……」


 ――と、不細工な顔をして上を見上げた瞬間。

 ――清く端正な顔が私を見下ろしていた。

(金髪赤眼。このオーラは間違えようがない)


「すっ、すみませ、いや……、申し訳ありません。クライス……王子」

「…………」


 彼と目が合った。鷹のような鋭い目つきに身が竦む。

(こ、こわぁい)

 訳のわからない甘い飲み物を持つ両手が、訳も分からずガタガタと振るえ始めた。

 完っ全に失敗した。調子に乗り過ぎた。

 絶対に唇をひん曲げて睨みつける相手では無いのだ。絶対に。


(やばいやばいやばいやばい)


 焦りを通り越し、謎の迷いが生じる。

 目を瞑り、脳の神経を酷使した。


 この変顔を一刻も早く真顔に戻すべき?

 いや、それは逆に滑稽ではないか?

 ではいっそのこと、この不細工をデフォルトにしてしまうのが最善なのでは?


(良案!)


「君の立ち振る舞いは、僕にも影響を及ぼすということが理解できないのかな」


(えぇい。もうこのままクライス王子の抱腹絶倒を勝ち取るしかない……!)


 目を開けた次の瞬間、私は速攻で目を瞑った。

 クライス王子はすでに私の顔を見ていなかったのだ。

 私が持っていた依頼書を値踏みするように見ていた。

 もう何でもいいから笑ってくれ、とチラリとロメオを盗み見ると、あいつはまだブラックコーヒーを冷まそうと躍起になっていた。


「冒険者を蔑視する君が、なぜここにいるんだ」

「お金が……、いや、えぇっと」

「国を支える民を無下に扱う君は、この場に相応しくない」

「あ……」

「出口はあちらだよ」


 口調は至って穏やか。

 だが、彼は有無を言わさぬ拒絶をはっきりと示している。

 クライス王子は私がトリーゼになってから、初めて感じる本物の敵意を向けてきていた。

 取り付く島もない、と直感で分かってしまう。

 彼は本気で私を排除しにかかってきている。


(……これが本来の反応だ。私がしてきた悪事の数々を考えれば)


 私は立ち上がり、振り向いた。

 入口……いや、出口までの一本道が開けている。

 なぜならば、皆が避けているからだ。

 「早く出ていけよ」。視線たちが私を責め立てる。


 まだ残っている飲み物を名残惜しく一瞥し、私は再び視線を出口に戻した。

 ふーふーロメオは後で帰ってくるだろう。


 ――その時、だった。


「わぶっ」


 顔面と頭が、一瞬で真っ白に塗りつぶされる。

 比喩でもあるが、比喩ではない。

 冷え切ったミルクが、顔面にかけられている。

 残った液体は、そのままご丁寧に頭頂部に注がれる。

 髪からポタポタと液体が滴り落ちた。

 鼻に入りツンとした痛みが広がるが、それどころではない。


「え……?」


 理解が追いつかなかった。

 しかし、そうか。

 目の前の女性がミルクの持ち主だったのだろう。

 彼女はご丁寧なことに、私に空のガラスを投げつけてきた。

 それは不運にも私の鳩尾大直撃。


「っぐ」

「トリーゼ・ファルシカ! よくものこのこやって来たわね! 相変わらず王子を侍らせて女王様のつもり? さっさと失せなさいよ! あんたはクライス王子に相応しくない!」


 女性は狂ったように叫び喚き散らかす。

 クライス王子の指示により、兵士によって建物を追い出された。

 ……私を守るというよりは、私から女性を守るためなのだろう。


 ロメオが出会って初めて、心配の表情を見せる。


 ――痛い。痛い。痛い。


「……大丈夫か」

「これ、コーヒーに、注いであげようか。ミルクコーヒー。へっ、飲みやすく、なるよ」

「顔色悪ぃぜ」

「はは。そりゃ、ミルクだもん。顔面も蒼白になっちゃう、ね」

「笑えねぇよ」


 物理的な痛みもさることながら、内側からガンガンと何かが叩いている。

 出せ、と誰かが私の内側を食い破る。


「ロメオ、ごめん。ちょっと嫌なこと……言っちゃうかも」

「あ?」

「嫌いに、ならないで」


 私はついに意識を手放した。

 誰かがどこかで倒れる音がした。


閲覧ありがとうございました!

次話はかなり短めの誰かの記憶です。

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