魔術師ギルド
魔術師ギルドは、冒険者ギルドとはまるで違う空気が漂っていた。
受付には魔道士らしき老人が座っており、入り口には魔法陣が刻まれた石板が飾られている。天井まで届く本棚が壁を埋め尽くし、あちこちで魔法の光が揺れている。
冒険者ギルドの喧騒とはほど遠い、静かで重い空気だ。
オレたちは案内された閲覧室で、狂光に関する文献を探した。
しかし……
クー、クー、
スー、スー
マチとクノは1時間ほどで飽きて寝てしまった。
二人はイスを並べて爆睡している。
(まあ無理もないか……)
分厚い羊皮紙の束をめくっても、出てくるのはおとぎ話程度のことばかりだ。
インクの匂いと古い紙の埃が漂う中、ミコさんだけがオレと並んで黙々と本を読んでいた。
「あまり大したものはないですね。」
本を抱えながらミコさんがため息をつく。
「人間に近づき、願いを叶えるといって曲解して破滅させる。人間に力を与えて、悪事を働かせる。そういう話が多いですね。」
「最終的に人間に裏をかかれて封印されてしまった、そんなおとぎ話ばかりだ。」
ミコさんが続ける。
「でも、あの精霊が言っていたのは、そんな伝説ではなくて、実際に存在したという話ですよね。おとぎ話から探すなんて雲を掴むような話ですね。」
オレたちがため息をついていると、扉がノックされた。
コン、コン。
静かな閲覧室に乾いた音が響く。
(だれだろう)
「どうぞ。」
オレが声をかけると扉が開いた。
それは意外な人物だった。
鋭い目つきが印象的な女魔道士。
冒険者パーティー養成学校の最終審査委員長、ジジさんだった。
「久しぶりだな。ライト、それにクエスターの諸君、といいたいところだが、これは……。」
クノとマチがイスを並べて爆睡している姿をみて固まる。
「すいません……。」
オレとミコさんは謝るしかなかった。
「フ、気にするな。人には得手不得手がある。」
そうは言いながらも眼は笑っていなかった。
「ところで、オレたちに何か用が?」
「いや、姿を見かけたのでな。何か手伝えることはないかと思って声をかけたんだよ。」
(意外と面倒見のいい人なんだな。)
「実は……」
オレはジジさんに経緯を話した。
◇
話を聞き終えたジジさんは、しばらく黙って窓の外を見ていた。
魔術師ギルドの窓からは、石畳の広場と、その奥に広がる街並みが見える。
「邪神・狂光か……。伝説やおとぎ話では聞いたことがあるがな。実在など聞いたことがない。」
ジジさんは考えるように答える。
「しかし、狂光を祀っている祠は実在するからな。」
「そうなんですか。」
意外な事実に驚いた。
「もっとも全て伝説の域に過ぎない。が……。」
ジジさんがふと思い出したように目を細める。
「あの件と関係はあるのかもしれんな。」
「あの件、とは?」
「実は、とある町の魔術学校で妙な事件が起きている。その町にも狂光が封印されているという伝説の祠がある。」
「妙な事件?」
「まずひとつ、ありえないほど優秀なスキル持ちの学生が生まれている。経験を積めば、Sランクの冒険者なり、魔道士になるものも多く出るだろう。」
オレは黙って聞いていた。
「スキルはあるレベルになると、並の鑑定スキルでは解析すらできなかったり、誤判定する。そういう事例も頻発している。」
(オレやマチのスキルと似ている。)
「そう、君のスキルに似ているね。」
オレは黙って頷いた。
(椿姫の話では、狂光は人間に力を与えるという。あの精霊が言っていたことと繋がるのか……。)
「それだけじゃない。その魔術学校を中心に妙な不審死が続いている。」
「不審死?」
「原因がわからないのだ。しかし、ギルドはそんな伝説と実際に起きている殺人事件を結びつけて調査などしない。結果、不審死としか言いようがない。気味が悪い事件だ。」
ジジさんはそこで一度言葉を切り、オレをまっすぐ見た。
「成果報酬の形になるが、何か成果がわかれば魔術師ギルドから報酬を払おう。調査してみるか?紹介状くらいは書いてやるぞ。」
オレはミコさんの方を向く。
ミコさんは黙って頷いた。
「わかりました。ぜひ調査させてください。」
「わかった。では魔術師ギルドとして、クエスターに正式に依頼しよう。この不審死事件の真相を調査してくれ。」
「よろしくお願いします!」
ジジさんは立ち上がり、静かに部屋を出ていった。
扉が閉まる音がして、また閲覧室に静寂が戻る。
クノとマチは、まだ寝ていた。
◇
その後、オレはその場所を聞いて驚くことになる。
シトウ村――
それはオレが幼い頃、生まれ育った村だった。
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