第30話 破談
姉の結婚式まであと一ヶ月と十日に迫っていた日だったと記憶している。お相手の男性とその家族から一方的に破談宣告が郵送されてきた。姉はフィアンセと会って別れを切り出されたのではない。
拝啓
陽春の候、村尾家の皆様におかれましたはご清栄のことと存じます。
突然のお手紙にて申し訳ございません。この度◯月◯日に両家による良縁の宴席を当家の都合により中止せざるを得ない状態になりました。
当家としましては先祖代々、受け継がれてきたしきたりが御座います。万が一にも後世を受け継ぐ者に五体満足が叶わないような事は差し控えたく存じます。
ご立腹なされることを承知の上でこの儀、破談とさせて頂きたくお伝え申し上げます。なお、必要経費等、諸費用並びに慰謝料などの詳細なお約束は後日、改めて誠意をもって対処させて頂きたく存じます。
敬具
「お姉ちゃんねぇ、なんとなく、こうなるんじゃあないかなぁって思っていた」
姉は泣いているのだろうか、見えない僕には姉の表情がつかみ取れないし、姉は僕に心情を悟られまいとしているので感情が読み取れない。
「彼自身が決めた事じゃあない。彼が両親を、家そのものを乗り越えられなかったんだと思う」
姉の言う事が本当なら、彼自身が家を捨てれば良いのだ。それが出来ないっていう事は姉と家を天秤にかけ、両親の言いなりになったという事だろう。




