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第28話 就職 おかえり

 帰宅のため駅のホームを歩いていた時にアナウンスが人身事故の発生を知らせた。僕は自宅のある最寄り駅で待っている父に携帯電話を使って遅れる旨を伝えなければならない。

父は雨の日も雪の積もった時でも必ず、僕の帰りを駅前交番前に路上駐車して待っていてくれる。連絡をしなければいっそう父を心配させることになる。


 「現在、◯◯駅間で発生しました人身事故により上下線ともに運転を見合わせております。運転再開までいま、しばらくお待ちください』


 この時、僕は焦ってしまっていた。次にやって来る下り電車の時刻と到着ホームの番線がわからない。


 「次に参ります川越市行きは本日に限り急行列車との待ち合わせをおこないません。お急ぎのところ大変申し訳ございません。一番線からの各駅停車から順次、運行を再開いたします。お急ぎの方は一番線へおまわりください」


 十両編成で来るはずが急きょ、八両編成の各駅停車に変わったことで三番線ホームから一番線へ移動しなければならない。常に同じドアから乗る習慣も崩されてしまった。杖を左右に振って、どちらの方向に移動すれば良いのか判らなくなってしまい、迷いながら歩いていた。自分では気が付かぬうちにコンクリートのホームを叩く杖の音が大きくなってしまった。


 「うるさい、少しは気をつかえ!」


 突然、怒鳴られてしまい手に持っていた携帯電話を落としてしまった。この時はこころある男性の方が拾い上げてくださり「川越方面でしたら方向が同じですから一緒に待ちましょう。どちらで下車なさいますか?」と言ってもらえた。この声を掛けてくれた男性は僕を伴って、わざわざ鶴瀬駅で下車してくれた。


 「おかえり、大変だったね」


 駅の階段を降りてくる僕の姿を確認できても父の方から近づいて来ることはない。駅前の赤い郵便ポストの横で父は毎晩、立って僕を待っていてくれる。


 「運転再開時刻って、いつも三十分以上は遅れるね」


 父は僕の帰る時間がどんなに遅くなってもいつもと同じ場所、赤い郵便ポストの横で必ず待っていてくれた、そして「おかえり」のひとことを言ってくれる人だった。

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