13 やはりラノベ脳は偉大だということ(その三)
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13 やはりラノベ脳は偉大だということ(その三)
「こんな感じでどうだろう?」
イヨタが出来上がりをグレッグに手渡す。
「すげーなー!やっぱ、こういう才能はほんと尊敬するわー。」
グレッグは満面の笑みでそれを受け取った。それは主神の間で見たソレイユの立像と、ある動物のフィギュアだった。人類学を学ぶ中で発掘品の詳細なスケッチをするのが趣味でもあったイヨタが、石を加工して作った二つの像はオークションに出せるのではないかと思えるほどの出来だった。
「イヨタ、化石人骨のレプリカだけじゃなくてアニメの登場人物のフィギュアとかも作ればいいんじゃないか?その手のモノは取扱禁止になってるから高値がつくぞ。」
グレッグはあまりの出来の良さにご機嫌だった。だがイヨタはそれは取り合わず、反対にグレッグを急かした。
「グレッグ、早く次の作業に入れよ。まだやることはてんこ盛りなんだろ。」
「へいへい。」
黒猫からのファックス念話で届いたデータや指示書を脳内で整理したグレッグが、最優先と判断したのが主神ソレイユの地上用の身体を作ることだった。だがグレッグが単独で作った場合、プリミーの時のように外見に難が生じる確率が高い。そこで黒猫が指示したのは、まずイヨタが石でフイギュアを作り、それを見ながらグレッグが魔力を練り上げて身体を作る。その際には人体の構造を意識すると同時に肝臓を魔力タンクとして利用することも強く意識せよと書いてあった。なるほどこの方法ならプリミーの悲劇は防げるかもしれない。
「よし。魔力粘土は出来上がった。では行くぞ。」
グレッグは気合を入れるために両頬を二回叩くと、目の前の大きな塊と二つのフィギュアを交互に睨む。塊は幅が一メートルで長さが二メートルほど。銀熊が彼らの二人の身体を作った時のような魔力粘土だ。この塊の上に手を差し伸べるとイヨタが水を差した。
「ちょっと待て。本当に大丈夫なんだな。二つが混じったりしないよな。」
「お前なー、そういうのをフラグって言うんだぞ。お前がそんなこと言うから俺の集中が途切れて、あの可愛い系美人の主神様になるはずが、ちんちくりんの獣人娘が飛び蹴りしながら登場するラノベ的展開になるんだぞ。」
グレッグがそう言って再び塊に手を伸ばすとイヨタが食い下がる。
「だから言ってるんだよ。何で目の前に両方並べてるんだよ。混じるって。」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ。」
「先に主神様のお姿を作って、それから変身用の獣のイメージを込めればいいだろう。」
「あっ、なるほどね。」
グレッグはあっさり非を認め、獣フィギュアを引っ込めると集中し直した。芸術的センスはないものの、グレッグの魔力量は膨大で訓練で放出すればするほど増えていった。そのせいかこの大きさの魔力粘土を作るのも一瞬ならば、主神様の姿にするのも一瞬だった。
「うーん。」
二人はそう言うと顔を赤らめて左右に背けた。
「どうして銀熊先生みたいにデフォルトで服を着せとかないんだよ。」
「今からそうしようと思ってたんだよ。」
グレッグはそう言って慌てて主神様に服を着せるイメージをする。ラノベの表紙絵で見た女性冒険者風のぴったりした感じの革パンツにニーハイブーツ、白いブラウスに皮のベスト。動きやすいように皮は鹿皮だ。
「ふー、良かった。うまくいった。」
目の前に横たわる美女はちゃんとイメージ通りの衣装を着ている。
「後はこの狐ちゃんのイメージを込めておくだけだ。」
獣の姿に変身できるようにするというのは黒猫の指示書にはなかったのだが、もし何かに追われた場合に素早く走ることができるオプションがあった方が良いと考えたグレッグが狐のフィギュアも作るようイヨタに頼んだのだ。
「毛並みは主神様の髪と同じオレンジゴールドで、本気の四足走行すると時速八十キロくらい出る感じ。銀熊先生も本気出すとそのくらい出るって言ってたしなあ。ついでに肝臓に地上の魔力充填しておくか。」
グレッグはそう呟きながら主神様の身体に魔力を込める。イヨタは何かやらかすのではないかとハラハラしながらそれを見守っている。
「よし!完了!イヨタくん、やはり君の美術的才能は素晴らしいよ。おかげで素晴らしい仕上がりだ。」
グレッグがひどく満足しているので、これこそフラグなのではないかとイヨタは不安になる。
「お前がそうやって自信満々だとかえって心配だ。早く主神様に届けよう。」
この後の段取りも黒猫からの指示書にあった。奥の院の隠れ家の裏庭に物置がある。そこに出来上がった身体を運んで扉を閉め、主神様に電話でそのことを知らせる。後は主神様が自分で調整する。そう書いてある。二人はその通りに実行し、電話を入れた。
「やっと出来上がったのですね!私のわがままを叶えてもらえて嬉しいです。すぐに受け取りに伺います!」
主神ソレイユの弾けるような喜びように二人は自然とにやけ顔になるが、グレッグはすぐに真顔に戻って言った。
「でもどうやって受け取るんです?」
「あの物置が主神の間とその隠れ家をつなぐゲートなんですー。では急いで行きますね。」
「えっ?」
二人の返事も待たずに主神様は電話を切った。物置がゲート?
「一応出迎えた方がいいよな?」
不安になったグレッグがイヨタの方を見る。
「ああ、それに最悪の場合あの身体に上手く入れないってこともある。」
イヨタは顎に手を当て、眉間にしわを寄せてそう言った。
「じゃあ・・・」
「じゃ、じゃーん!」
驚いた二人が声のする方を見れば、さっき作った主神様の身体が両手を挙げて玄関から飛び込んでくるところだった。
「早っ!」
二人のリアクションに満足したのか主神様は長い足を強調するようにモデル立ちすると、今度はすぐにくるりと回って見せた。
「これはまずい。」
今度はグレッグが眉間にしわを寄せる。
「どうしたのデスカー?」
主神様はなぜか日本語を勉強中の外国人のような話し方だ。
「美人すぎて目立つんですよ。もし主神様を狙うような奴がいたら・・・」
「大丈夫デース。この大陸には私に悪いことするヒトいまセーン。それよりもー。」
ここで不意に主神様は二人に顔を近づけ、小声で言った。
「お二人は私の裸見ましたカー?見ましたネー?」
二人はあまりのことに口をパクパクさせていたが、グレッグが何とか言い訳する。
「どうしても出来上がった瞬間に見えてしまうんですよ。でもすぐに目を逸らして服を着せましたから大丈夫です。」
「ほんとデスカー?」
「すいません。おっぱい、ちょっと見えました。でも本当の主神様のおっぱいを知らないので、そこは許してくださいっていうか、その、俺は何を言ってるんだ。」
隣であたふたするグレッグを見てイヨタは肩を震わせている。
「イヨタ、お前も何か言えよ。」
グレッグに話を振られたイヨタはおっぱいから離れるために違う質問をする。
「主神様、その話し方はどこで学ばれたのですか?」
「二つ大事なことありマース。一つは主神様だめデース。ソレイユと呼んでくだサーイ。二つめはこの話し方はこの身体にもともと付いてますデース。」
そう答えた主神様はちらりとグレッグの方を見た。そこに畳み掛けるようにイヨタがダメを押す。
「グレッグ、お前、服を着せるのは忘れたのに喋り方はデフォで付けたのか?」
「いやいや、そんなことは考えなかったぞ。とにかくイヨタが作った像と主神の間で見たお姿を再現することだけに集中してたはずだ。」
グレッグは再び自分が槍玉に上がって口の中がパサパサになってきた。魔力でできた身体であるからそんな現象は起きないはずなのだが、心理がそういった現象を引き起こすのだろう。
「ソーデスカー。グレッグさんはこーゆー話し方の女の子が好きなのですネー。オニキスちゃんにも教えないと行けませんネー。」
主神様はよほど身体を手に入れたことが嬉しいのか、やたらとくるくる回りながらグレッグをからかう。目の前でそれを見ているグレッグは目が回ってきた。
「主神様、座ってお茶にしません?見てると目が回りますし、地上の魔力の感じも伺いたいですし・・・」
「ソレイユ、デース。敬語もだめデース。」
主神ソレイユは腰に手を当てて二人をたしなめる。
「わかったよ、ソレイユ。とりあえずお茶にしよう。」
「それがいいでーす。」
ソレイユはわざわざ椅子を動かして二人の間に座ると足を組んでテーブルに頬杖をつく。初めて肉体を得たとは思えないような動きだ。グレッグとイヨタはその身体の出来栄えについては大満足だったが、このやんちゃな女神様に振り回されることになりそうな予感がして少し胃が痛くなった。
「この身体にはこんなのも付いてたデース。」
タンポポ茶でひと息ついたのも束の間、やんちゃな女神は立ち上がって何やら披露する。何のエフェクトもないまま、ソレイユは唐突に狐になった。美しい顔立ちにヒト型の時と同じオレンジゴールドの毛並み・・・尻尾はたくさん。
「何で九尾狐?」
裏返った声でそう言ったのはイヨタの方だった。モデルとなった狐のフィギュアを作ったのはイヨタだから驚くのも無理はない。
「俺はイヨタのフィギュアのとおりに作ったぞ!」
突っ込まれる前にグレッグが吠える。
「尻尾は一つにもできるデース。」
狐になっても喋り方は変わらないソレイユは尻尾を一本にして見せた。ソレイユ曰くこの身体に入ってすぐに火を自在に操る九尾狐の姿が見えたのだと言う。
「それは魔法覚えたての頃に考えたオプションで、今のその身体を作る時にはこれっぽっちも考えてなかったんだけどなあ。」
腕組みして首をかしげるグレッグをソレイユが慰める。
「変身できる身体を作れるのはグレッグだけデース。自信持つデース。黒猫さんは銀色のクマさんを作らないと行けませんでしたネー。私はこの身体だけでどこにでも行けマース。」
ソレイユのこの意見にイヨタもなるほどとうなづき、グレッグの背中をバシッと叩いた。
「褒めてもらえてすんごく嬉しいけど、まだtodoリスト一つしかクリアしてないんだよな。」
グレッグはそう言いながら次の段取りを頭の中で繰り始める。
「それ、私にも見せるデース。」
主神ソレイユはそう言うと自分のこめかみの辺りに人差し指を当て、次にその指でグレッグのこめかみに触れた。見えないケーブルで脳を直接繋げるイメージのようだ。
「おー、ユタの荒野に村を作るのデスネー?それならイヨタがすぐできるデース。」
「えっ!」
ソレイユが想定外のことを口にしたので二人は素直に驚いた。村づくりの人手としてサハベの街から人手を借り、そこから本格的な文化交流につなげていこうと考えていたのだ。それにイヨタは材料を加工するのは得意だが、より大きな魔力量を必要とする創造はさほど得意ではない。
「これと同じデース。」
ソレイユは両手にイヨタ作のフィギュアを持ち、可愛くポーズをとった。
「でも材料になるような大きめの石も運ばなければなりませんし、グレッグほど魔力量もありませんし・・・」
そう言ってイヨタは尻込みする。それでもやんちゃな女神はお構いなしだった。
「ユタの荒野には大きな石あるデース。魔力もグレッグが何とかシマース。」
話を振られたグレッグは何かを思い出したように口を開いた。
「いやさ、よくラノベでマナトランスファー、魔力譲渡ってあっただろ?あれができないかなって、ずっと考えてたんだ。でもあれは物語の中のことだしなあ。」
「やってみるデース。」
フィギュアをテーブルの上に置いたソレイユはその手でグレッグの右手を掴み、イヨタの肩の上に置いた。この世界の主神がそう言うのだから、そういうものなのだろうとグレッグはただぼそりと呟く。
「マナトラスファー。」
相変わらず光や揺らぎなどの視覚効果は一切なく、イヨタの魔力はフルになった。
「本当にできましたね。」
ソレイユは心から驚いたのか、喋り方が素に戻ってしまった。それがまた可愛らしくて二人は声に出して笑ってしまった。二人の笑い方で我に返ったソレイユは照れ隠しに声を張る。
「さっさと村を作るデース!」
そう言って腕を上げたソレイユは顔と手先だけが狐の獣人姿になっていた。
「えっ!」
「ヒトの形と狐を混ぜるとこうなるデース。これは私のオリジナルデース。」
そう言ってソレイユはまた人型に戻って、さっさと奥の院の隠れ家を後にする。
「これはなかなかのおてんばさんなのかもしれないな。」
「だな。」
グレッグとイヨタはそう言って拳をコツンと合わせるとやんちゃな女神の後ろ姿を追った。
ありがとうございました




